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ケックアイス氏と難航する軍改革

クリストフ・ケックアイス氏 :「海外派遣は法に記された明確な任務」 Reuters

国外紛争地域に向けての平和維持軍の派遣は、右派からの批判を一段と浴びている。一方、左派は兵士による軍の武器の自宅保管を問題としている。

武器の自宅保管は信用問題であるとスイス軍総統クリストフ・ケックアイス氏はスイスインフォのインタビューに対し答えた。

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スイスの軍隊

このコンテンツが公開されたのは、 スイス軍は、国民皆兵制度を基礎に成り立っている。20歳から30歳の男子は民兵として、基本的な訓練をまず受け、次いで定期的に演習を行う。 スイス連邦の憲法によれば、スイス軍は戦争が起こらないよう平和維持に尽くし、国内の安全…

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swissinfo : 総統は規律や意志の強さといった価値観を体現しておられます。仕事の上では迷いもあるのでしょうか。

クリストフ・ケックアイス : 職務上のさまざまな問題は非常に複雑です。ある種の迷いを引き起こしもしますが、軍のトップにいる立場の者がその迷いを払拭しないということはありえません。

わたしは非常に理性的に判断しなければなりません。当然そこには多くの感情もあれば、弱い部分もあります。しかし、決断するとなれば私情を交えず細心の注意を払って取り組み、解決します。

swissinfo : 左派の軍事批評家と、懐古的な将校や右寄りの愛国者からの批判とではどちらが手ごわいですか。

ケックアイス : 両者ともわたしは真摯に受けと止めています。どちらもわれわれの民主主義を構成する国民です。軍隊はこれまで右派から批判されることはありませんでしたので、これらの批判に耐えうる論理を組み立てる努力が必要です。

以前は、軍に対する左派の意見には容易に答えることができました。イデオロギー的には常にとても明確でした。そして多少程度の差こそあれ、根本的に左派は常に軍に敵対していました。

今日、軍は非常に大きく変わり、懐古的な者と右派は以前にも増して苦慮しています。個人的にはそのことがますます気掛かりです。

swissinfo : あなたが紛争地域への兵士派遣に関して発言をする場合、すぐに愛国的な抗議があります。国際平和維持活動に関しては、まだ議論の余地がありますか?

ケックアイス : 議論の余地はまだあるとわたしは確信しているのですが、なかなか議論には達しません。海外派遣は法に記された明確な任務です。国連 ( UN ) はわれわれを頼りにしており、要請もありますし、この傾向は増す一方です。

ところが、スイス人の基本姿勢はこの状況をまだ捉えていません。われわれがこの世界の流れに乗れるようになるまで、まだあと2、3世代はかかるでしょう。このスイス軍には非常にかたくなな伝統があるため、説得にはあと数年は必要です。

この問題に関しては、スイス独特の事情があります。あと20年もすれば、ほかの国と同じような考え方をするようになるでしょう。

swissinfo : 武器の自宅保管。弾薬の自宅保管 : これはスイスの伝統です。しかし先日、連邦議会の決議で弾薬は武器庫に納めることになりました。

ケックアイス : これはまさに進行中の難しい問題です。兵士から携帯弾薬を回収するという連邦議会の意向を、われわれは受け入れなければなりません。これは政治の優位性に関わることで、議会の決定にわれわれは従い、実行に移しているところです

銃も軍がまとめて保管することになると、かなり面倒なことになります。兵士から非常に多くの反応がありました。彼らは銃とともに「信頼」も取り上げられると感じています。これは致命的なことです。

現在、兵士は銃を持つことと、銃の扱い方の訓練を受けることで、大きく信頼されていると感じています。もし銃を武器庫に返却するというところまできてしまうと、これはわれわれにとって劇的な出来事です。

おそらく多くの国民がもう軍に協力せず、「ほうっておいてくれ」と言うでしょう。

武器の自宅保管に対する政治家の討論のやり取りに、わたしは衝撃を受けました。客観的に見れば、民兵軍にとって携帯弾薬の回収は大きな問題ではないと思います。銃を家庭に保管するということは、「基本的な信頼」という兵士の「心の問題」なのです。

swissinfo : 敵はどこにいますか?

ケックアイス : 世界的にもっとも脅威になっているのは、テロリズムです。ほかの西側諸国同様、スイスもその脅威にさらされています。また、組織犯罪やスイスでも流通している大量破壊兵器の脅威もあります。

現在、スイスに対する軍事攻撃の可能性は非常に低い。われわれは人員を削減しなければなりませんが、それにもかかわらず質は高く保たねばなりません。そうすることで、いざという時に状況に応じた軍隊を派遣できます。

swissinfo : テロ行為は軍事攻撃と比べて明らかに予測が難しい問題です。テロへの対応は民兵軍で充分なのでしょうか。

ケックアイス : 民兵軍でも対処することが可能です。テロリズムに関する最重要任務は空からと陸からの両方からの防衛と監視です。

軍には、もっともこれは職業軍人ですが、日々の領空防衛にあたる部隊があります。陸上では、毎日何百人という兵士が大使館や領事館の警備に必要です。警察では間に合わないからです。

改革の進んだ軍の成果のひとつは、何年にもわたる兵役を1回で終わらせることのできる一貫兵役です。これはテロ攻撃に際し、数時間内に適切な場所に適切な機能を持って集まることのできる何百人という兵士です。

swissinfo : あと数週間で退任なさいます。軍服を脱いだ生活を軍人ケックアイスはどのようにお考えですか?

ケックアイス : まだこのように仕事に深く関わっているため、残念ながら退任後のことを考える時間がなかなかないのですが、うまく切りかえられると思います。

妻は旅行を計画しているのですが、この42年間にできなかったことの埋め合わせをお互いにできます。

数年前に戦闘機パイロット名簿から除名をして以来、わたしの空にかける情熱はエンジン搭載機や滑降機の指導教官に向けられています。退職後はまたもっと飛んで、次の世代を育てるつもりです。

いずれ、現在打診を受けている今後のオファーも検討し、自分の性格や倫理観に合うものを選ぶと思います。

swissinfo、聞き手 アンドレアス・カイザー  中村 友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

1945年ノイエンブルク生まれ、2003年1月1日より軍参謀部長官、2004年よりスイス軍総統
1976年 ローザンヌ大学卒業 (政治学専攻)
1968年より職業軍人パイロット、空軍にて軍隊経歴を終了
1985〜1992年 新型戦闘機のテストパイロット
2008年1月1日退職予定

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