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スイスで職業年金改革案と生物多様性イニシアチブが否決された理由

生物多様性イニシアチブの推進派は、スイスの生物多様性は悲惨な状況にあり、より多くの資源が必要だと主張した
生物多様性イニシアチブの推進派は、スイスの生物多様性は悲惨な状況にあり、より多くの資源が必要だと主張した Keystone / Peter Schneider

22日にスイスで行われた国民投票では、職業年金改革、生物多様性イニシアチブのいずれも反対多数で否決された。要因と各界の反応をまとめた。

▼2024年9月22日国民投票結果

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スイスの年金制度の第2の柱で、一定額の給与所得のある被雇用者に加入が義務付けられる職業年金改革は67.1%の反対で否決された。直近の世論調査でも反対が増加していた。

国民投票では通常、政治的思考が異なるドイツ語圏・フランス語圏・イタリア語圏で賛否に差が出るが、今回は言語圏に関わらず全ての州で反対が上回るという異例の結果となった。投票率は45%だった。

世論調査を実施した調査機関gfs.bernのルーカス・ゴルダー氏は、この結果は改革を推し進めた連邦政府に「平手打ちを喰らわせるもの」だったと述べた。改革案の内容が極めて複雑だったことに加え、政府が最近、年金制度の第1の柱である老齢・遺族年金(AHV/AVS)の財政予測に大きな誤りがあったと発表したことが響いたと分析した。

政府は、平均寿命の伸びと低金利による運用利回り低下で年金基金の財源が目減りしているとし、持続可能な財源を確保するためには改革が不可欠だと主張。年間の年金支給額の算出基準となる「最低転換率」の引き下げとそれに対する補償措置などを改革案に盛り込んでいた。

▼職業年金改革の詳しい内容はこちらの記事へ

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職業年金改革が国民投票に 争点は?

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの被雇用者が加入する職業年金(BVG/LPP)の改革案が9月22日、国民投票にかけられる。年金財源を安定化させ、加入対象をパートタイム・低賃金労働者に広げるのが主な目的だ。

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改革案は右派・中道政党が支持したが、労働組合や左派政党を中心とする反対派は、この改革案ではパートタイム労働者や女性が再び不利益を受けると主張。国民の大多数がより多くの年金を支払わなければならないにも関わらず年金が減額されることも問題だと訴え、法律の施行に反対するレファレンダム(国民表決)を立ち上げ国民投票に持ち込んだ。

左派・社会民主党(SP/PS)のジェシカ・ジャコウ氏は仏語圏のスイス公共ラジオ(RTS)に対し、この結果は、今年初めに国民投票で可決された年金増額に続き、年金制度を「解体」ではなく「強化」したいという国民の願いの表れだと語った。インフレなどで購買力が懸念される現状のなか、反対派の「保険料は上がるのにもらえる年金は減る」というスローガンが決め手になったとした。

またこの結果は、スイス労働組合連盟とピエール・イヴ・マイヤール会長の勝利でもあった。

「人々はこれ以上の年金削減は許容できない」とマイヤール会長はRTSに語った。「低賃金労働者や女性などキャリアの短い人々の年金を改善する唯一の方法は、制度に連帯を導入することだ」

職業年金は「近代化が必要」

投票結果を受け、改革支持派には失望が広がった。

急進自由党(FDP/PLR)のレジーナ・ズーター氏は、低所得者やパートタイム労働者の年金状況を改善する「機会が失われた」と述べた。改革に反対する左派が一部「事実無根」の議論を振り回し、有権者の不安をあおったと批判した。

仏語圏日刊紙ル・タンは社説で、この結果は「驚くべき」ものだと述べた。改革案は当初、社会的パートナーと政府を結びつけ、連邦議会の支持を得た強固な案という点で「小さな奇跡」を起こしたが、その後政治家たちが投票キャンペーンに関与したことで「労働組合と一部の雇用者を途中で失った」とした。

しかし、この敗北は各政党の年金改革への取り組みを妨げるものではないと同紙は指摘する。職業年金制度を規定した法律は長年改正されておらず、「絶対に近代化されなければならない」と釘を刺した。

「大規模改革、成功しない」

エリザベット・ボーム・シュナイダー内相は22日、結果を受けて記者会見し、改革支持派の足並みが揃わなかったことなどが敗因と分析。しかし最低転換率や女性が恩恵を受けられていない点は未解決のままだと述べ、「(年金の)システムを現状に適応させなければならない」と改革の必要性を強調した。

ただ「大規模な改革では賛同を得られなかった」今回の結果をふまえ、今後は小規模な改革を重ねる方向で関係者と調整していく考えを述べた。

生物多様性もNO

自然保護団体と環境保護団体が立ち上げた生物多様性イニシアチブは約63%の反対で否決された。

▼生物多様性イニシアチブに関する詳しい記事はこちら

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スイスの「生物多様性イニシアチブ」は行きすぎ?それとも必要?

このコンテンツが公開されたのは、 9月22日のスイス国民投票で、生物多様性の保護を憲法に明記するイニシアチブ(国民発議)の是非が問われる。自然保護団体が出した提案だが、政府や議会など各方面が反対している。

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ドイツ語圏のスイス公共放送テレビ(SRF)は、イニシアチブ推進派よりも反対派陣営の声が有権者に届いた結果だと報じた。イニシアチブに反対する農業団体は、可決されたら国土の3割が利用できなくなり食糧安全保障が脅かされると警告。またエネルギー産業界からは、保護対象の土地が増えれば発電所が建設できなくなり国内の再生可能エネルギー拡大に影響が出ると訴えていた。SRFは、イニシアチブ推進派はこれらの懸念を払拭できなかったと分析した。

世論調査でも既に現れていたが、地方と都市部の人々の「溝」は投票当日もはっきりと出た。ヴァレー(ヴァリス)州(反対73.9%)、アッペンツェル・インナーローデン準州(74.6%)、ニトヴァルデン準州(75.8%)、シュヴィーツ州(76.6%)など農村部では軒並み否決された。

一方、ジュネーブ州(51.2%)、バーゼル・シュタット準州(57.7%)のほかローザンヌ市(60%)、ルツェルン市(53%)などの複数の都市では賛成が上回った。

「農家は自然とその資源を保護することに強い関心を持っている」と、保守右派国民党(SVP/UDC)の連邦議会議員で農業従事者のカティア・リエム氏はSRFに述べた。「しかし、生物多様性への賛同は、厳格なガイドラインを意味するわけではない。保護と利益のバランスを取る必要がある」

一方、左派・緑の党(GPS/Les Verts)のアリーネ・トレデ下院議員はSRFに、農業団体が生物多様性の取り組みについて科学的根拠のない「虚偽」の情報を広め、農家の恐怖を煽ったと批判した。

イニシアチブには政府も議会も反対していた。アルベルト・レシュテイ環境相は22日、投票結果を受けて会見し、自然保護は有権者も望んでいることだが、「(今回のイニシアチブのような)厳格なルールまでは望んでいない」と述べた。一方、自然・生物多様性保護に拠出する年間6億フランの政府予算は確保していくと強調した。

また政府は生物多様性に関する第2次行動計画を年末までに連邦議会に提出すると述べた。食物連鎖の中心的役割をなす昆虫の生息地と発達に焦点を当てた内容で、来年からの実施を目指すという。

▼そのほか、各州で行われた主な住民投票の結果はこちら

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英語からの翻訳・追記:宇田薫、校正:上原亜紀子


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