スイス連邦議会は5日、年末で辞任する2人の連邦閣僚の後任を選ぶ。スイスの連邦閣僚7人はある暗黙のルールに沿って選ばれる。それは単なる権力闘争ではなく、スイスの国の成り立ちと民主主義の理想を象徴するものだ。(Michele Andina/swissinfo.ch)
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辞任するのは環境・運輸・エネルギー・通信相を務めるキリスト教民主党(中道右派)のドリス・ロイトハルト議員と、経済相を務める急進民主党(右派)のヨハン・シュナイダー・アマン議員。ルールとしては、連邦議会を構成する全ての政党が連邦閣僚の候補を挙げることができる。だが今のところ、2人の後任候補を指名したのはキリスト教民主党と急進民主党だけだ。なぜ他の党は候補を挙げないのか?
ロイトハルト氏とシュナイダー・アマン氏が所属する党以外が閣僚の座を射止めるのは現実的には不可能だからだ。7人の連邦閣僚ポストは伝統的に「マジック・フォーミュラー(魔法の法則)」と呼ばれる不文律に沿って振り分けられてきた。所属政党や出身地の言語を公平にする配分で、近年は性別も考慮の対象に加わった。5日の閣僚選で女性3人と男性1人が候補に立っているのもそのためだ。キリスト教民主党からはフィオーラ・アムヘルド氏とハイディ・スクラッゲン氏、急進民主党からはカリン・ケラー・ズッター氏と黒一点のハンス・ヴィッキ氏が立候補している。
歴史は浅いが根深い不文律
近代スイスが誕生した1848年、連邦内閣は閣僚全員が急進党(現急進民主党)の出身だった。第2党のキリスト教民主党からも閣僚が選出されたのは1891年。さらに社会党と国民党から入閣するまで50年がかかっている。議会を構成するこれら4大政党は1959年、「国会での獲得議席数に比例した割合で各政党から閣僚が選出されるべきだ」と合意した。
これがスイスの「マジック・フォーミュラー」と呼ばれるようになった。コンセンサスを重視するスイスの民主主義の表れの一つであり、多数派だけではなく少数派からも支持されて初めて、その政治決定が生きるという信条に基づいてもいる。
長年にわたり、7人の閣僚ポストの党の分配比率は急進民主党、キリスト教民主党、社会党がそれぞれ2人、国民党が1人で変わらなかった。だが2003年の総選挙で国民党が第1党に躍進してもう1ポストを獲得してからは、このマジック・フォーミュラーが守られているのか疑問視されることも多くなった。今は国民党が2ポストに増え、キリスト教民主党が1ポストに減った。
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