スイスの救援チーム「後ろ髪を引かれながら」日本を後に
地震や津波の被災地で救助活動を行なうため、先週末日本に派遣されたスイスの捜索隊は、任務を現地のチームに引渡し帰国の準備に取りかかった。
帰国は3月18日の予定。現在、青森県三沢市に滞在するチームの1グループを率いるエルンスト・ボッサルト氏に話を聞いた。
ボッサルト氏によると、スイスチームは比較的被害の少なかった宮城県登米市に設営されたキャンプをベースに活動。地震で打撃を受け、続いて津波で壊滅状態となった北部までは約30キロメートルの距離だ。活動はたいへん厳しいものだったと語る。
swissinfo.ch : 現地ではどのような活動を行なったのですか。
ボッサルト : 現地の人々はわたしたちの存在を大変喜んでくれた。しかし、残念ながら救助犬による捜索活動は種々の理由で思ったようにははかどらなかった。
一つは警報がたびたび出たこと。現場に到着したとたん津波警報が出た日もあった。またこの数日間は、大量の降雪で廃墟に入るには犬にも人にも危険な状態になった。
swissinfo.ch : 廃墟の中に生存者はいるのですか。
ボッサルト : 活動地は津波の被災地だったので生存者はいないと思う。とてつもない量の水と泥が村に押し寄せたのだから。これはあくまでもわたしの考えだが。
swissinfo.ch : これまでの活動場所と比べて日本の状況はどうですか。
ボッサルト : 比較にならない。今回の活動場所では廃墟も崩壊した家も見なかった。津波がすべて破壊したのだ。家は流し去られ、水や泥で粉々になった。津波が来なかった地震のときとはまったく違う。
swissinfo.ch : そんな光景を目の当たりにしたら希望もなくなるのではないかと思いますが、地震の被災地では希望は常に見られますね。
ボッサルト : もちろん、希望がなくなったらもはや死しかない。わたしたちは最後まで希望を失わず、常に奇跡を信じる。だが、その望みはとても小さいものだ。
swissinfo.ch : ほかの国のチームとの協力もありましたか。
ボッサルト : 同じキャンプにドイツの技術救援隊 ( THW ) がいた。昨日はオーストラリアとニュージーランドからチームがやってきた。
今朝、これらのチームとともに活動を行なう予定だったが、新雪の量がかなり多くなったためこの作業は中止された。
swissinfo.ch : 現地の人々は、スイスチームがこんなに遠くまでやってきてこれほど早く帰ってしまうことに少し驚いているのでは?
ボッサルト : 安全性を考慮した結果、作業を続けられる状態ではなく、また生存者発見の可能性が非常に小さいのであれば、犬や犬の訓練士にけがをさせてしまっては、あるいはチームの誰かがけがをしてしまっては元も子もない。そうなっては、現地の人にとってもわたしたちにとっても何の助けにもならない。
そのような責任をわたしはもう取ることができない。ここを去るのは後ろ髪を引かれる思いだ。捜索犬が才能を十分に発揮できるよう、何年間も訓練や実地を行なっている。わたしたちは人々の助けになり、生存者を発見し、救助するためにここへやってきた。このような決定を下すのはたいへんつらい。
swissinfo.ch : 現地の人々の様子はどうですか。
ボッサルト : はっきりとは分からないが、わたしたちが会った人々はとても礼儀正しく、とても感謝してくれた。それはしぐさや言葉でわかった。言葉はもちろん何を言っているのかは分からないが、しぐさで彼らが感謝していることがよくわかった。
swissinfo.ch : おびえている感じはありましたか。
ボッサルト : いや。地元のある人と話したのだが、みんなとても落ち着いていて辛抱強いと言っていた。津波の被災地のほとんどは電気も水もない状態なのに。
swissinfo.ch : 隊員のみなさんは?
ボッサルト : キャンプには電気も水道水もなく、すべて運び込まなければならなかった。電気は非常用発電機を利用した。車は最寄のガソリンスタンドで給油することができなかったので、走り回らなければならなかった。悪循環だ。
swissinfo.ch : どうしてこの任務に就いたのですか。
ボッサルト : もともと犬の訓練士だったことから、この任務を始めることになった。軍隊でも救助犬の訓練士をしていたが、ここでは訓練士ではなくリーダーとして任務についている。苦労は山ほどあるが、人々を救助できることや動物と一緒に何か良いことを行うことに喜びを感じる。
これは時間もお金もかかる活動だ。訓練などはすべて自費。派遣されたときは仕事としていくらか支払ってもらっているが、それだけだ。
swissinfo.ch : やりきれなくなる光景を目の当たりにしたわけですが、それをどのように消化しますか。
ボッサルト : 自分自身、距離を保つことができる。長期の訓練の間に、同僚や同じ経験をしてきた友人などと常に話し合う。また、出発前には簡単な状況説明もあり、これから出向いて行く先の状況に対してできるだけ心の準備をしてから行く。
活動中は、仲間同士で互いに話し合うことが大切。帰宅してからは、家族や友人と経験したことについて話す。これはとても大切なことだ。そうすれば、だいたいうまく消化できる。
( 英語からの翻訳、小山千早 )
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