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スイス国民投票、医療財政改革を可決 高速道路拡張は否決

看護師
医療費の膨張に歯止めをかけるための財政改革案が、24日の国民投票で可決された。不必要な入院治療を減らす狙いがある Keystone / Gaetan Bally

スイスでは24日、医療財政改革、高速道路の拡張計画、賃貸法改正2件の計4件について国民投票が実施された。いずれも大接戦の末に、医療財政改革は可決、他の3件は否決された。

各種世論調査や政治アナリストの予想通り、投票結果は4件とも僅差だった。最も明暗がはっきりした案件(立ち退き規制)でも賛否は7.6ポイント差だった。連邦議会を通過済みの4つの法案全てが国民投票で覆される事態は予想通り免れた。ただ最も注目を集めた高速道路の拡張計画で、政府・議会は手痛い敗北を喫した。投票率は45%だった。

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①医療財政改革

医療費の膨張を抑えるため、入院治療から外来治療に誘導する医療財政改革は、賛成53.3%で可決された。

現行では入院治療費の55%を州が、残りを保険会社が負担する一方、外来治療は100%保険会社が負担している。可決された改革案では、外来・入院治療の費用分担は「標準化」され、州が最低26.9%、保険会社が最大76.3%拠出することになる。

中道右派の急進民主党(FDP/PLR)レギーネ・ザウター氏はドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)で、投票結果について「スイスの医療制度にとって画期的な出来事だ」と称えた。外来治療を促すだけでなく、制度が「改革可能」であることも示したと語った。年金制度とならび、スイスの医療制度改革案は国民投票で可決されるのが極めて難しい。

反対派は、改革案では強制保険の保険料が年々上昇しているという根本問題を解決できないと主張した。改革案を国民投票に持ち込んだ労働組合は、医療保険制度がカバーする介護サービスについて民間保険会社の発言権が増し、介護の質が低下すると警鐘を鳴らした。

スイス南部(イタリア語圏)や西部(フランス語圏)では反対の声が多かったが、ドイツ語圏で賛成が多かった。社会民主党(SP/PS)のダフィット・ロス氏はSRFで、反対派は「スイスで最も影響力のあるロビー団体の1つ」である医療保険会社やその他医療関連組織と対峙しなければならず、劣勢は覚悟していたと話した。

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②高速道路の拡張計画、有権者の支持を得られず

政府の道路インフラ計画は暗礁に乗り上げた。大接戦の末、総額約50億フラン(約8700億円)の拡張計画は反対票52.7%で否決された。

拡張計画はスイスを東西に横断する高速道路A1号線のうち、首都ベルン近郊やジュネーブ=ローザンヌ間などスイス高速道路網の「中枢地点」6カ所の拡張工事を盛り込んだもの。昨年、連邦議会を通過した。

スイスの高速道路網
赤線がスイスの高速道路、うち太線がA1号線。工事現場マークは議会に示された6件の拡張案を示す Kai Reusser / SWI swissinfo.ch

反対派の急先鋒に立った緑の党(GPS/Les Verts)は投票結果を受けて、「時代遅れの交通政策」の否決を祝った。同党や他の左派政党、環境保護団体は、高速道路を拡張すれば交通量の増加に拍車をかけるだけだと批判した。むしろ公共交通やアクティブ・モビリティ(自転車・徒歩)、既存高速道路の刷新に投資すべきだと主張した。

連邦政府や企業団体らは、近年交通渋滞が急増しており、人口増に対応するために投資が必要だと主張し賛成を呼びかけていた。所管するアルベルト・レシュティ経済相はドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)で、高速道路拡張は鉄道など他の交通手段への投資を含むインフラ計画全体の一部としてとらえるべきだと反論した。

論戦が進むにつれ、政府の主張は支持を失った。右派政治家の1人は選挙結果を受け、「痛恨の敗北だ」と肩を落とした。中央党(Die Mitte/Le Centre)のファビオ・レガッツィ氏はSRFで、この結果はスイス国民の「ある種の変化」を示していると語り、数年前なら、このような道路プロジェクトは容易に可決されていただろうと話した。

③④賃貸法改正~転貸条件の厳格化・立ち退き規制の緩和は否決

賃貸法に関する2件の改正案も国民投票にかけられた。ともに家主が有利になる改正で、住宅・商業物件の双方が対象となる案だった。スイス全世帯のうち賃貸住宅に住む世帯の割合は61%と欧州で最も高く、賃貸法改正は多くの国民に影響を与えている。

借り主による転貸の条件を厳格化する案は反対51.6%、貸し主が自分で住むために賃貸契約を前倒しで解約する条件の緩和案は反対53.8%でともに否決された。

同案はシュヴィーツ州で賛成60.5%、ザンクト・ガレン州で55.9%と賛成が優勢だった。ジュネーブ州(64.8%)、バーゼル・シュタット準州(61.5%)、ヴォー州(58.7%)で反対が色濃かった。

解約条件の緩和案はフランス語圏のほぼ全州で否決された。特に慢性的に住宅が不足するジュネーブ州では反対割合が67.8%と高かった。ドイツ語圏ではルツェルン州(51%)やバーゼル・シュタット準州(65.9%)で反対が目立った。

同案への反対派は、改正により貸し主が私的使用を口実に賃貸契約を解除し、借り主をアパートから追い出しやすくなると警告した。住宅不足に乗じてアパートを高値で貸し直すことが貸し主の狙いだと批判した。不動産業界や右派は、改正案は対象を絞り、現行法を明確化するものだと弁明した。

転貸規制の強化案は、転貸機関が2年以上続くケース、転貸賃料が高額すぎるケースなど、「悪質」な転貸を拒否できるようにする内容だった。

SRFは投票結果について、賃貸法改正を当初は支持していた中道・右派政党への「警告射撃」だと評した。

SRFは「国民は、借り主に有利な賃貸法改正を批判的に見ている」と解説。連邦議会は来年、賃貸法の別の改正案を審議予定。借り主が高額な家賃をめぐり提訴することのハードルを高くする内容だ。SRFによると、これまで議会では改正案の賛成派が優勢だったが、今回の投票結果を受けて一部議員が「状況を再考する」きっかけになりうる。

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英語からの翻訳・追記:ムートゥ朋子、校正:上原亜紀子

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