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スイス政治展望2025 対EU二国間条約と財政削減案が目玉に

ウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長とスイスのヴィオラ・アムヘルト大統領
12月20日、スイス・欧州連合(EU)間の交渉が完了したのを記念し、ベルンでウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長とヴィオラ・アムヘルト・スイス大統領の間で象徴的な握手が交わされた Keystone / Alessandro Della Valle

スイスと欧州連合(EU)との関係は、2025年のスイス政治の主要議題となりそうだ。2027年以降の財政削減案も本格審議が始まる。

スイスの2025年の政治アジェンダでは、欧州連合(EU)との関係が中心に据わる。2022年3月に再開された予備交渉も含めると2年近く、計197回の会合を経て、連邦内閣(政府)はEU27カ国との合意にこぎつけた。クリスマス前にその大枠が発表された。

交渉完了宣言のためにベルンを訪れた欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長は歴史的な合意だと評し、「私たちは世界の現実に対し、共通の対応をとる」と述べた。スイスのヴィオラ・アムヘルト大統領は、二国間関係の「安定化と発展に向けた標石」だと位置づけた。

「安定化」と「発展」は、12分野にわたる条約に横串を通すキーワード。今後、政府は今回の条約パッケージに関する草案をまとめる。政府は、既存協定の更新、国家援助、EUプログラムへの参加、スイスの拠出金などは「安定化」に関する連邦決議、電力・医療・食料安全保障の新3分野は別途「発展」に関する連邦決議にまとめたい考えだ。

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根強い反対

スイス・EU間の交渉が成功裏にまとまったことは大きな一歩だが、これで終わりではない。2025年夏までには利害関係者への意見聴取が始まり、最大のヤマ場は連邦議会が条約案を審議する2026年になるとみられる。

連邦議員たちを説得するのは連邦内閣の役割だが、反対論者は多く、容易な任務ではない。急先鋒の保守派・国民党(SVP/UDC)はEUへのいかなる接近にも反対している。賃金水準の保護が少しでも脅かされれば、労働組合も反対に回るだろう。

条文の起草に着手したあとは、国民への丁寧な説明が欠かせない。複数の報道によると、連邦内閣はパッケージ化された条約をいくつかに分割する可能性がある。その場合、レファレンダム(国民表決)も複数実施されることになる。投票運動が早い段階から始まり、議論が激化するのは必至だ。

早くも3件のイニシアチブ(国民発議)が国民投票に持ち込むための署名集めを始めている。2025年に投票が実施される可能性は低いが、スイス・EU関係の議論に拍車をかけそうだ。

うち2件はEUとの合意を白紙に戻す恐れがある。国民党の「人口1000万人のスイスは嫌だ!(持続可能性イニシアチブ)外部リンク」は、人の移動の自由の撤廃を求める。3人の富豪が提起した「コンパス・イニシアチブ外部リンク」は、EU法を自動的にスイス国内にも適用するのではなく、強制的な国民投票で有権者の是非を問う仕組みを提唱する。

親EU派が立ち上げたイニシアチブもある。リベラル派政治団体「オペレーション・リベロ」の「ヨーロッパ・イニシアチブ外部リンク」は、スイス連邦憲法に「連邦政府は欧州の統合に積極的に関与する」との文言を盛り込む内容だ。だが有権者の署名集めは難航しており、国民投票に至らない可能性もある。

連邦財政のスリム化

国内政策に関しては、政府は9月に発表した大規模な予算削減案外部リンクを実行に移す必要がある。社会保障・国際協力費を中心に、2027年までに36億フラン(約6300億円)を削減する。軍事費と年金の膨張によって逼迫した連邦財政を立て直すのが目的だ。

2025年に輪番制の大統領職を兼任するカリン・ケラー・ズッター財務相には、難しいかじ取りが求められる。緊縮案は左派や州政府、一部の右派さえも反対している。年明け1月末には利害関係者との協議プロセスが始まり、その後連邦議会が削減額を審議する。今年、左派が主導した国民投票が連続して可決された勢いに乗り、左派政党が予算カットへの攻撃色を強めそうだ。予算削減案がそう遠くない時期に国民投票にかけられる可能性もある。

穏やかな国民投票

年4回予定される国民投票の内容を見ると、医療や年金改革など重要法案が目白押しだった2024年に比べ、2025年は穏やかな1年になりそうだ。新年初回の2月9日に投票にかけられる案件は、緑の党(GPS/Les Verts)青年部が立ち上げた「環境責任イニシアチブ外部リンク」1件だけだ。地球資源の尊重を連邦憲法に明記する内容だが、党派を超えた左派層の取り込みには苦戦している。右派や経済界は当然、スイスの繁栄を危険にさらすと反対する。

その後の国民投票の予定は空欄だ。いくつかのイニシアチブが署名集めを終え政府に提出済みだが、連邦議会での検討が終わらず、どの案から投票の案件に上がってくるかは分からない。連邦内閣事務局のベアト・フュラー情報官は「すべては議会による作業の進捗次第だ」と話した。

2025年中の国民投票の実施がほぼ確実なのは、「現金は自由権外部リンク」だけだ。新型コロナワクチンへの反対運動などを手がけた市民団体「スイス自由運動」が立ち上げたイニシアチブで、完全電子マネー化を防ぐため、紙幣・硬貨の常時供給を連邦政府の任務として憲法に明記する。

夫婦にも公平な課税を外部リンク」という往年のテーマも、ようやく国民投票の舞台に上がりそうだ。急進民主党(FDP/PLR)が立ち上げたこのイニシアチブは、税金額の計算で夫婦合算ではなく個別の収入を課税対象とすることで、事実婚夫婦よりも納税額が多くなるという格差解消を狙う。

「フォアグラ」と「花火」をテーマにした2件の風変りな案件も投票の順番を待つ。前者は動物保護団体が提起したフォアグラと関連製品の輸入禁止案で、動物への「強制給餌」に反対する。後者は元ジャーナリストのロマン・フーバー氏が提起した花火の販売・使用の禁止案で、騒音に敏感な人や動物へのストレスに配慮する意味合いがある。

レファレンダムに関しては、現時点で特定の案件に対する署名活動は行われていない。このため、2025年には連邦レベルのレファレンダムは実施されない可能性が高い。

編集:Samuel Jaberg、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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