スイス 新閣僚誕生
パスカル・クシュパン内務相の辞任に伴い、新閣僚選出の選挙が9月16日、全州議会 ( 上院 ) と国民議会( 下院 )による合同連邦議会で行われ、急進民主党のディディエ・ブルカルテール氏が当選した。
ブルカルテール氏の当選で、7人で構成されるスイス内閣は、これまで通りの党配分となり、フランス語圏の閣僚が2人という配分も維持される。また、スイス政府の特徴である7人の閣僚が同等の権限を持ち話し合いで政策を決定する合議制が、まずは保たれたと見られている。
バランスのとれた安定性
今回の選挙では、ドイツ語圏からキリスト教民主党 ( CVP/PDC ) が推すウルス・シュヴァラー氏と、フランス語圏からディディエ・ブルカルテール氏とクリスチャアン・リュセール氏の2人がそれぞれ急進民主党 ( FDP/PRD ) の推薦を受け立候補し、 特にシュヴァラー氏とブルカルテール氏の接戦が予想されていた。また、イタリア語圏からは、同じく急進民主党のディック・マルティ氏が立候補していた。
選挙は過半数を得る立候補者がなかなか出ず、4回行われ、結局ブルカルテール氏が有効投票数239票のうち、過半数の129票を得て当選した。対するシュヴァラー氏は106票だった。
「スイスは新しい時代に突入している。今こそスイスは、4つの異なる国語を大切にし、意見や文化の多様性を尊重した、バランスのとれた安定性を必要としている」
と、ブルカルテール氏は就任演説で語った。合同議会終了後のインタビューでも、
「当初、クシュパン内務相の後を継ぎ急進民主党から直ちに立候補する気持ちはなかったが、その後スイスには改革と安定性が今こそ必要だという信念から、立候補に応じた」
と述べた。
一方、落選したシュヴァラー氏は、
「第3回目の選挙後リュセール氏が候補から降りた時点で、国民党 ( SVP/UDC ) がブルカルテール氏支持に回ることは分かっていたが、残念だ。今後、もし、11月1日からブルカルテール氏がクシュパン内務相の後を継ぐとなると、( 健康保険制度など ) 重要な問題が山積みされている。がんばって欲しい」
と語った。
おすすめの記事
連邦内閣
合議制の重要性
今回の選挙ほど、合議制の大切さが叫ばれたことはない。スイスでは、1848年憲法制定により内閣が樹立された後の10年間は、急進民主党 が7人の閣僚の座をすべて占める単独政府だった。その後、キリスト教民主党 、社会民主党 ( SP/PS ) などが加わり、1959年以降は急進民主党、キリスト教民主党、社会民主党から2人ずつ、国民党から1人という政党配分が40年間続いた。
この安定した配分は不文律で「魔法の公式」と呼ばれたが、2003年に国民議会での国民党の議員数が増えたことを背景に、キリスト教民主党が1席を国民党に譲り、魔法の公式は崩れた。こうした変化により、スムーズに行われていた「7人の閣僚が同じ権限を持ち政策を決定する」という合議制も、崩れつつあった。
今回もし、シュヴァラー氏が当選しキリスト教民主党が1席を取り戻せば、伝統ある急進民主党がわずか1席になるという危惧が急進民主党にはあり、同党を支持する国民党と共に合議制の維持を強く訴えた。一方、キリスト教民主党と同党の候補者を支持する社会民主党は、たとえどの候補者が当選しようと合議制は保持されると客観的だった。
左派の緑の党 ( Grün/Les verts ) と社会民主党はともに強く、シュヴァラー氏を支持していたが、つまるところ、フランス語圏からの候補者でもあり急進民主党のブルカルテール氏が、言語のバランス ( 伝統的に2人の大臣はフランス語圏出身 ) と合議制維持のために妥当な大臣だと合同連邦議会は判断を下した。
里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 、swissinfo.ch
おすすめの記事
魔法の公式
1960年4月17日、ヌーシャテル州で生まれる。
既婚で3人の子どもがいる。
経済学士の称号を持つエコノミスト。
第1回目の選挙、絶対過半数123票
ウルス・シュヴァラー氏、79票
クリスチャン・リュセール氏、73票
ディディエ・ブルカルテール氏、58票
ディック・マルティ氏、34票
第2回目の選挙、絶対過半数123票
ウルス・シュヴァラー氏、89票
クリスチャン・リュセール氏、72票
ディディエ・ブルカルテール氏、72票
ディック・マルティ氏、12票
第3回目の選挙、絶対過半数122票
ウルス・シュヴァラー氏、95票
ディディエ・ブルカルテール氏、80票
クリスチャン・リュセール氏、63票
ディック・マルティ氏、5票
第4回目の選挙、絶対過半数120票
ディディエ・ブルカルテール氏、129票
ウルス・シュヴァラー氏、106票
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。