スイスの視点を10言語で

ストリートビューでグーグルを提訴

ローザンヌの道路を撮影中のグーグル・ストリートビューの車を撮影 Keystone

インターネット検索エンジンの大手グーグルに対し、ストリートビューにおけるプライバシーの保護を改善するよう要請が出されていたが、同社はそれに応えていないとしてスイスで提訴された。

ひどい誤解

 8月中旬にストリートビューのサービスが開始された直後に、トュール氏はグーグルに対し多数の勧告をしたが、それらが拒否されたことを発表した。現在も路上の人々の顔や車のナンバープレートに充分なぼかし処理がほどこされておらず、個人の領域に対する配慮を欠いている写真が多数あるとトュール氏はスイスの首都ベルンで行われた記者会見で説明を行った。

 グーグルはこの動きに対し、落胆したが裁判では「精力的に」戦うと応えた。また、ストリートビューのサービスはスイスで非常に人気があるとコメントした。

 「ストリートビュー・スイス ( Street View Switzerland ) 」の地図は、車の屋根の上に特別なカメラを支柱で固定し、スイスの7都市を撮影して作製されている。ストリートビューの利用者は、インターネット上で街中を散策し、何であれ撮影されたものを見ることができる。

 ストリートビューは、事前通告または事前承諾なしに個人を撮影し、個人の生活の覗かれたくない部分を世界中にさらすことになる可能性があるとヨーロッパでは数カ国が非難していた。また、撮影された時間が明らかにされていないため、写真に写った人々の行動をいかようにも解釈することができるとトュール氏は説明する。

 これまでトュール氏のオフィスには、約150件の苦情が持ち込まれた。中には、ある新聞がストリートビューの写真に写っている人をドラッグ・ディーラーと特定したが、実はそれは宣伝案内を手渡すレストランのオーナーだったというケースもあった。

適切なぼかし処理

 8月にトュール氏は、グーグルに対し「ストリートビューにおける個人のプライバシーの保護のために多様な対策」を講じるよう要請した。しかし、グーグルがこの要請にほとんど応じていないため、提訴に踏み切ることになったと同氏は11月13日に発表した。

 トュール氏はグーグルに対し、全ての顔とナンバープレートに充分なぼかしを入れること、私道や塀で覆われた庭など私有地の写真を削除すること、撮影を計画している市町村に対し、撮影と写真の公開の予定日を最低1週間前に通知することを徹底するよう要求している。
 「情報保護の観点から言って、特に、病院、刑務所または学校など慎重を要する場所で撮影された顔やナンバープレートの匿名性は十分に守られていません」

 またトュール氏は、グーグルに対し宣戦布告をしているのではない、ストリートビューは人々が使用したいと思うようなサービスになり得ると言い添えた。しかし、ストリートビューがスイス全土を網羅する情報を提供することは、一般人が必要とする以上のものを供給することになると指摘した。
 「旅行者が訪れたいと望むような場所については納得できますが、住宅街を撮影しなければならない理由はそうありません」 

 「グーグルの車の上のカメラは、地上から2.75メートルの高さに設置されており、これもまた問題です。これはフェンスや生け垣、塀の内側を撮影することができるため、路上にいる一般の歩行者が目にする風景以上のものまでストリートビューで見ることができるという結果になっています」
 とトュール氏は指摘した。

グーグルの反論

 グーグルは、この動きに対して落胆したと声明を発表した。カリフォルニアを本拠地とするグーグルは、ストリートビューは合法であると確信しており、裁判では「精力的に戦う」とプライバシーの問題を担当する同社の顧問弁護士ピーター・フレイシャー氏は言った。

 裁判所が判決を下すまで、最長で1年間ほどかかる可能性があるが、ストリートビューのサービスには即座に影響が出るかもしれない。トュール氏はグーグルに対し、少なくとも年末まで新しい写真を使用しないよう要請したが、サービスの停止までは要求していない。
 「裁判所は、この件について独自の認識を持つ必要があります。そのためにストリートビューで掲載されているスイスの写真が必要です。パリやロンドンの写真を見ても全く役に立ちません」
 
 2007年から開始されたストリートビューのサービスを注意深く見ているのはスイスだけではない。7月にギリシャ政府は、プライバシーの保護が強化されるまでは撮影を拒否すると決定した。4月にはイギリスの村人たちが、人間の鎖をつくって撮影車を阻止した。日本ではフェンスの内側が写っていた場合、写真の撮り直しをすることにグーグルは同意した。

 またドイツでも、顔、家の番号、車のナンバープレートなど、ストリートビューに使用されたくないと個人が当局に申し出た場合、それらの写真を編集段階で削除するべきだという要求が出て、グーグルはそれに屈している。

スコット・カッパー、swissinfo.ch

カリフォルニアを本拠地とするグーグルはスタンフォード大学の学生だったラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏が共同で開発した。
現在も同社のビジネスの中核である検索エンジンは1996年に初登場し、同社は1998年8月に法人化された。
2004年に株式が公開され、当時の時価総額は230億ドル ( 約2兆600円 ) に達した。2007年の時価総額は約2000億ドル ( 約17兆8900億円 ) を記録した。
世界200カ国に50以上のオフィスがあり、約2万人のスタッフがフルタイムで勤務している。
2004年に、無料電子メールサービス「Gメール ( Gmail ) 」を開始し、のちに「 グーグル・アース ( Google Earth ) 」となるバーチャル地球儀ソフトウェアを開発した企業を2005年に買収した。
2007年5月にアメリカでストリートビューのサービスを開始。ヨーロッパには、自転車競技ツール・ド・フランスのルートを紹介して初上陸した。
それ以来ストリートビューは、日本、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、スペイン、イタリア、イギリスへもそのサービスを拡大している。
グーグルは、世界中を網羅することがストリートビューの最終的な目標だと公言している。
ストリートビューの使い方は、住所または郵便番号をグーグルマップに入力することによって、その場所の写真を見ることができる。また地図上のオレンジ色のアイコン「ペッグマン」をドラッグし、好きな場所で止めると、その場所の写真を見ることができる。ドラッグしている間は、道路が青く縁取られる。
写真に写っている道路の上には矢印が表示されており、それをダブルクリックすると、道路上を矢印方向へ進みながら道路沿いの風景を見ることができる。

最も読まれた記事
在外スイス人

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部