計画から28年、世紀の鉄道インフラ整備が完成
全長15.4キロメートルのチェネリベーストンネルの完成で、近年の歴史で超最大級となるスイスのインフラ整備プロジェクトが完了しようとしている。
間違いない-スイス人は穴を掘るのが好きらしい。国内最長級の鉄道トンネルをつなぎ合わせれば、スイス最南端のキアッソから北西部のバーゼルまで、スイスの地下を優にカバーできる長さになる。2016年に開通した全長56キロメートルのゴッタルドベーストンネルは、現在も世界最長の鉄道トンネルだ。オーストリアとイタリアをつなぐブレンナーベーストンネルが完成するまで、今後10年間は世界最長の座を守り続ける。
そのスイスのトンネルコレクションに、新しくチェネリベーストンネルが仲間入りする。開通記念のテープカットが9月4日に行われる。新型コロナウイルスの影響により、当初650人の出席者を予定していた開通式は規模を縮小して開かれる。実際に利用できるようになるのは、スイス鉄道のダイヤが改正され、トンネルの運用が開始される12月になってからだ。新型コロナの影響で様々な遅れがあり、全てのコネクションが導入されるのは2021年4月の予定だ。
連邦運輸省によると、アルプス縦断鉄道計画(NEAT/NLFA)の総工費は177億フラン(1998年)で、国民投票前の1992年の試算に並んでいる(当時はインフレや金利などを含めず150億フランと見積もられていた)。
インフレ、付加価値税、金利を含めた現価では総事業費は228億フランに達する。
チェネリベーストンネルの建設だけでも36億フランがかかっている。
ゴッタルドやレッチュベルク(全長34.6キロメートル)のベーストンネルに比べれば、全長15.4キロメートルしかないチェネリトンネルは「親ゆび小僧」のようなものだ。それでも20年前なら世界最長の鉄道トンネル10位以内にランクインされる長さだが、今後フレジュスやブレンナーといった鉄道インフラが開通すれば、2020年代の終わりには30位近くまで順位が下がる。
チェネリベーストンネルのオープンで、約30年前に始まった工学的な冒険が終わりを迎えようとしている。レッチュベルク、ゴッタルド、チェネリのトンネルを含むアルプス縦断鉄道計画(アスプトランジット計画)は、スイスの政治制度を示す良い例でもある。時間がかかる上に様々な難点もあるが、スイスの直接民主制には優れた長所がある。いったん国民投票で承認されれば、プロジェクトは確実にスムーズに実現されていくという点だ。
仏リヨンと伊トリノを結ぶ同類の鉄道トンネル建設計画では、何度も反対運動が起こり計画がストップしたが、スイスのアルプス縦断鉄道計画が、激しい反対運動の舞台になることはなかった。1992年9月の国民投票で63.6%の支持を得て承認されて以来、特別な障害もなく着実に実行されてきた。緑の党を筆頭に、財政的、環境的な理由から反対を表明していた反対派も、潔く国民の評決を受け入れた。
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チェネリベーストンネルの運行がスタートすれば、ティチーノ州の交通が劇的に変わる。ベリンツォーナ/ルガノ間の所要時間は最速で27分から19分になり、3分の1短縮される。この開発によって「ティチーノ市」、つまり州の巨大な一つの都市圏の創出に拍車がかかると見る人たちもいる。
国際輸送におけるインパクトも大きいだろう。2021年には、チューリヒから伊ミラノまでは3時間20分以内で行けるようになる。さらにイタリア側の追加工事が完了すれば、現在より40分ほど所要時間が短縮され、3時間程度で移動できるようになる。2016年に運用が開始されたゴッタルドベーストンネルで、すでに所要時間は30分短縮されている。
ゴッタルドベーストンネルに関するインフォグラフィックでは、過去数十年間でどれほど状況が変化したのかが分かる。
鉄道貨物輸送に弾み
だが、所要時間の短縮はアルプス縦断鉄道計画の目的の一部に過ぎなない。重要な二つ目の目
的は、トラックによる貨物輸送を鉄道輸送へと移行することだ。1994年の「アルペンイニシアチブ」可決を受けて憲法に明記されている。同法ではアルプスを越えるトラックの通行台数を2000年の140万台から65万台に削減することを定めている。ゴッタルドベーストンネル開通から2年後の達成を目指していたが、大型トラックの通行量が減っているとはいえ、目標達成にはまだほど遠い。
この戦略の中心にあるのがかの有名な鉄道トンネル整備であり、貨物列車専用の線路を増やすことが可能になる。しかも平坦路線であるため、走行車両の長さを500メートルから740メートルへと伸ばせるようになる。チェネリベーストンネルに関して言えば、キアッソと伊ミラノ方面への接続が改善される。これにより、レッチュベルク/シンプロンルート、ベリンツォーナ/伊ルイーノ/伊ガッララーテルートを中心とした南北回廊に沿った貨物輸送に、新たな輸送路のはけ口が加わることになる。
だが、すぐに急激な鉄道輸送の増加を望むことはできない。輸送政策の新たなカギを握るチェネリベーストンネルが、全ての問題を解決する魔法の杖になるわけではない。全ての交通機関に鉄道が適しているわけではないことに加え、そこまでの適切なアクセスルートが確保されていなければ、究極のトンネルを整備する意味がない。
この点において、すでに多くのインフラ整備がなされてきた。イタリア側を含め、高さ4メートルの通路整備がほぼ完了している(欧州ではトラック輸送には高さ4メートルのトレーラーが使用されることが増えており、それに合わせてトンネルも整備されなければならない)。スイスの支援で、ベリンツォーナ/伊ガッララーテ間では大規模な工事が行われた。
それでもミラノ方面に行くチェネリ線には障害が残っている。ルガノの南側では、列車は1874年当時と同じルートを低速走行しなければならない。そして2050年までは何も変わらない。キアッソ/ミラノ間では、路線のキャパシティーを高めるための技術的解決策に数百万フランの投資が計画されているが、新しい路線や連絡線の増設といった「物理的」なインフラ整備への投資は無期限に延期されている。
ドイツ南部ではさらに問題は深刻で、ライン谷区間の4線路の拡張工事が大幅に遅れている。欧州最大のインターモーダル輸送(複合一貫輸送)業者であるHupacによると、この遅延により、現段階では全長740メートルの列車の走行は不可能だという。どうやら、交通機関に関して言うなら、「革命」と「忍耐」は切っても切り離せないようだ。
(仏語からの翻訳:由比かおり)
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