プロ・ヘルヴェティア基金 高くついた展覧会
連邦政府の文化支援組織、プロ・ヘルヴェティア文化財団の来年の予算は100万フラン(約9千万円)削減し、3,300万フラン(約29億7,000万円)とすることが上院と下院の両院で16日、決定された。
予算削減の「起爆剤」となったのは、パリにあるスイス文化センターで催されている「スイス・スイス・デモクラシー」展だった。
議会が問題としたのは、トマス・ヒルシュホルン氏による「スイス・スイス・デモクラシー」展。中でも、展覧会の中で演じられる寸劇だった。劇中、四つん這いになって犬のように這い回る役者が、ポスターに片足を上げておしっこかける仕草をする。このポスターには現法相のクリストフ・ブロッハー氏に似た顔が描かれている。案内状も挑発的だった。イラクのアブグレイブ刑務所で行われた虐待のシーンにスイス建国の核となったスイスの三原始州、シュヴィーツ、ウーリ、ウンターヴァルデンのワッペンをアレンジしたデザインだった。
連邦政府の援助を受けた芸術に対して政府が、その内容を制限できるのか。全州議会(上院)と国民議会(下院)の両議会で激しい議論が展開される事態となった。
援助されるべき芸術とは?
上院では同展覧会はスイスを侮辱するものだとして、プロ・ヘルヴェティア文化財団の予算をカットする案が支持された。一方、下院では上院の決定に反対し妥協案として、同展への援助額に相当する18万フラン(約1,620万円)を来年の予算から引く案が提出された。
しかし、国民党やキリスト教民主党の議員から、同展を罰するのが今回の目的ではなく、財団の活動そのものが問題なのだという発言が相次ぎ、下院では2度目の討議の結果、上院の決定に対する支持が反対を上回った。両院の意見が一致したことから、同文化財団に対しては、100万フランの予算の削減が決まった。
プロ・ヘルヴェティア財団の自治権
議会の決定に対してプロ・ヘルヴェティア財団は、バッシングの対象となったトマス・ヒルシュホルン氏の展覧会には直接の影響はないが、他のおよそ100人の芸術家たちへの援助を断念しなければならなくなるという今後の影響を挙げ、「今回の予算カットは財団全体に対する懲罰であり、不当な処分だ。財団としては不快感を覚える」と表明した。
援助対象となる芸術は政府の「好み」で選択されるという前例になった今回の予算カットにより、同文化財団の自治権は危ういものとなった。今後、スイスの芸術活動に偏りができるのではないかとの懸念の声もある。
スイス国際放送 外電 意訳 佐藤夕美 (さとうゆうみ)
「スイス・スイス・デモクラシー」
ベルン出身のトマス・ヒルシュホルン氏の展覧会
パリのスイス文化センターで現在開催中
1月30日まで開催予定。
トマス・ヒルシュホルン氏
1957年生まれ
2004年 ヨーゼフ・ボイス賞を受賞。
「スイス・スイス・デモクラシー」展はスイスを侮辱するものだとして「懲罰」として、プロ・ヘルヴェティア文化財団の政府予算が100万フラン、カットされ、来年の予算は3,300万フランになる。
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