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僅差の国民投票は「スイスの分断」示す

高速道路拡張計画を所管するアルベルト・レシュティ運輸相は、国民の説得に失敗した
高速道路拡張計画を所管するアルベルト・レシュティ運輸相は、国民の説得に失敗した Keystone / Peter Schneider

24日の国民投票で、スイス有権者は連邦政府と議会が決めた高速道路の拡張計画を否決した。世論調査会社gfs.bernの政治学者マルティナ・ムーソン氏は、政府・議会を通過した法案が覆されるのはスイス国民の間に走る「深い分断」の表れだと分析する。

swissinfo.ch:24日の国民投票をどう総括するか?

マルティナ・ムーソン:最後まで接戦を繰り広げた賃貸法改正案2件をめぐる混乱が印象的だった。これほどの僅差が示すのは強い分断だ。きょう投票にかけられた4件中3件でこうした分断が見られた。

賛否が僅差に終わったことで、今後の論争や投票結果の解釈が分かれるリスクがある。

その通り。特に高速道路の拡張に関してはこの点が重要だ。というのも、道路交通予算は動かせない。今日時点で、(否決により浮いた)数十億フランを何に使うのか、という疑問が生じている。論争は不可避で、今後も続くだろう。

世論調査会社gfs.bernのマルティナ・ムーソン氏
世論調査会社gfs.bernのマルティナ・ムーソン氏 zVg

そもそも、高速道路の拡張計画は議会を通過したのになぜ国民投票で否決されたのか?スイスではもはやドライバー票を持ってしても勝つことは不可能なのか。

そうとは言えない。スイス国民の大多数は自家用車を持ち、公共交通機関でも通勤している。さらに、お金はあり、1つの基金に紐づけられている。このお金を使わなければならないが、それは今回投票にかけられた計画に使ってはならない、ということかもしれない。有権者にとって、持続可能な交通政策の重要性が増しているようだ。

スイス全土が拡張計画の対象にならなかったことも結果に影響したのか?

拡張計画は議会交渉の産物だった。非常に意図的にフランス語圏の拡張工事が盛り込まれた。弱点はむしろ、有権者の目から見て問題全体を解決するものではなく、頭の痛い問題を先送りする内容だったということだ。

拡張計画を所管したアルベルト・レシュティ運輸相はこれまでの国民投票で全勝していた。今回の敗北はどれほどの痛手になるのか。

過小評価できない。レシュティ氏の肝いり分野で敗北したからだ。全体として批判を受けるのは免れない。

連邦内閣(政府)は今年、高速道路、基礎年金改革、職業年金改革といった重要政策の国民投票で敗北した。国民からの信頼が欠けているということか?

gfs.bernの調査では実際に、連邦内閣が国民の間で信頼を失いつつあることが示されている。初めて「連邦内閣を信頼していない」との回答が相対的に多数を占めるようになった。だが、どちらが発端なのかという問題がある。連邦内閣が重要な問題で敗北したことが信頼の喪失につながったのか、それとも信頼の喪失がこれらの敗北をもたらしたのか?確かに悪循環ではある。連邦内閣が弱いと認識されること自体が、連邦内閣を弱体化する。

昨年の総選挙で緑の党(GPS/Les Verts)が大敗するなど、環境をめぐるテーマは苦境に立たされている。高速道路の拡張計画が否決されたことは、緑の党の勝利と言えるのか?

その通り。これはスイス国外にも広がる「反グリーン」の時代精神とは対極に位置する。2023年の総選挙で右傾化した後、投票行動の振り子は揺れ戻りつつあると言える。左派と労働組合も今年、レファレンダム(国民表決、議会を通過した法案を覆すための国民投票)の力を見事に実証した。

賃貸法改正案では左派がギリギリで勝利したが、論戦全体では左派の優位が目立つ。なぜか?

左派が古典的な方法をとっていないのは明らかだ。紙媒体の広告をみると、彼らの存在感の薄さに気づく。他の道を開拓し、特にSNS上に出没している。また新しい口調で話し始めるのも上手だ。右翼ポピュリズムに対抗する左翼ポピュリズムと位置付ける向きもある。

野党は2つの賃貸法改正案をパッケージとして攻撃した。だが有権者は明らかにそれとは異なる判断をした。何が起こったのか?

反対派が両案を「借り主保護に対する攻撃」とまとめた戦術が奏功した。有権者が対象となるかどうかによって違いが生まれた。転貸規制の強化は、商業用転貸も対象としていた。これらは、特に都市部において問題であり、価格上昇の要因となると考えられている。このため転貸規制は、私的所有(のための立ち退き規制)よりも借り主に寄り添う内容の改革だった。

医療費の負担割合の改正は、医療改革に向けた小さな一歩とみなされていた。それは成功したようだ。スイスは改革の秘訣を見つけたといえるのか?一歩が小さいほど成功確率は上がるのか?

私はむしろ、法案を支持する同盟が大きければ大きいほど、改革が可能になる可能性が高まると考える。実際、スイスでは最近、ヒット作を量産できていない。

複雑な案件は否決されがちだが、医療費改革は複雑なわりに反対票が増えなかった。どの主張が説得力を持ったのか?

賛成論でも反対論でも最も有力だったのは、医療保険料の上昇だった。

チューリヒ市では、公的文書におけるジェンダーに配慮した言語の使用をめぐって住民投票が行われた。これはジェンダー言語に関する世界初の投票とみられている。

まさにスイスらしい案件だ。一般論として、投票で敗北したジェンダー言語反対論者を社会の変化に組み込むことにつながる。それは政府のコロナ対策をめぐる国民投票でも明らかになった。賛成票が増えれば増えるほど、反対派の風は弱まった。ある時点から、それは上から命令されたとは言えなくなる。

バーゼル市では、保守派がユーロビジョン・ソング・コンテストの開催を阻止すべく住民投票にかけた。こうした投票では議論が荒れやすいが、今回は静かなままだった。なぜか?

反対論者は一部に限られた。それでもこの議論が行われることが重要だった。これが直接民主主義の総合的な効果だ。これによって批判的な勢力の空気が変わるわけではないが、味方が多いわけではないことに気づかされただろう。

編集:Mark Livingston、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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