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反原発の緑の党員、原発運営企業へ

タービンの羽根車がオブジェとして飾られている変電所。緑の党、反原発派のマルティン・グラフ氏は、取締役として電力企業の電圧を変えることができるだろうか Keystone

この秋、スイスの電力会社アクスポ・ホールディング(Axpo Holding AG、以下アクスポ)の取締役に、緑の党(GPS/Les Verts)のマルティン・グラフ氏が就任する。電力会社の取締役に緑の党員が任命されるのはこれが初めてだ。

アクスポは現在、スイス北西部と中央部に電力を供給している大手電力会社。同社は原子力発電も行っているが、グラフ氏は断固たる反原発派だ。

 辞任する右派政治家の後任としてグラフ氏を推薦したのは、アクスポの株主でもあるチューリヒ州政府。グラフ氏以外の取締役はすべて中道派および右派に属する人物だ。州政府は今回の人事で、取締役会のバランスを調整したいと考えている。これを機に、スイスのエネルギー政策に関するグラフ氏の個人的な意見を聞いた。

swissinfo.ch : 福島第一原発の事故後、スイスでは再生可能エネルギーを利用する人が急増しました。しかし、チューリヒ市が経営する電力会社EWZの最近の発表によると、再生可能エネルギー発電の電気購買に移行する人の数は再び減少し、事故前と同じ水準に戻っています。どうすれば再生可能エネルギーへの関心を保てるのでしょうか。

グラフ : 私はフクシマの出来事もすぐに忘れられてしまうと思っていた。メキシコ湾の原油流出事故がそうだったように。

再生可能エネルギーへの関心を保たせるには、政治を担う人々がこの国の民主主義を活用しながら自ら率先して問題に取り組み、決定を下していくしかない。一般市民に任せっぱなしにしていては、関心を保たせることはできない。

スイス政府は脱原発という比較的勇気ある決断をしたし、これを支援する人も多数を占めているようだ。これからの政界では、新しい道を行く勇気のある強い人物がトップに必要。(原発のような)リスクを伴う技術を用い、そこで事故が発生した場合、その影響はもはや我々の手に負えるものではない。我々は勇気を持って前進すべきだ。

swissinfo.ch : スイス政府の脱原発計画は国民議会(下院)で承認され、間もなく全州議会(上院)でも討議されます。しかし、全州議会のエネルギー委員会は安全性が確保された新技術を用いた場合の原発の建設を認める方針です。

グラフ : この決定は、口先だけという中道派政党の日頃の行動そのものだ。エネルギー企業のロビイストはスイス政府の決定を覆そうとまださまざまな試みをするに違いない。その背後にあるのは、ある一部の人々の大きな経済的関心だ。彼らは、そのことによって国民経済が受ける影響をほとんど顧みない。自分たちには関係ないからだ。

再生可能エネルギーの道を行くには内なる確信が必要だ。それがなければ野心的な目標を達成することはできない。私個人としては原子力の時代はもう終わったと思う。それを決定するのは国民だ。

脱原発を実現しないと、次はまた別の国、あるいはひょっとしたらスイスに同じ事故が起こるかもしれない。そのときになって再び、急きょ対策を打たなければならないと考えるのが落ちだ。人々はすぐ日常に戻りたがり、何もかもコントロール下にあると思っているが、それは違う。

swissinfo.ch : しかし、政治家自身にもあまり力がないのでは?

グラフ : 力がないわけではないが、意見が一致していない。特に「買われる」政治家が多いのが問題だ。連邦議会では最近ロビー活動が目立っている。また、ロビー団体関係者が議会議員になるケースも増えている。これは大問題。ロビイストの議員選出は禁止すべきだ。

swissinfo.ch : 日本では原発事故後、電力会社と政界あるいはマスコミとの癒着が大きく批判されました。

グラフ : 日本の状況についてはよく知らないが、スイスも同じだ。動く金が大き過ぎるのだ。取締役などの影響力の大きいポストに政治家が就いており、システムに組み込まれていて、もうそれに反抗することができない。連邦議会の議員はもっと中立であるべきだ。利益団体の取締役就任は禁止して、公益団体のポストのみにするべきだ。

swissinfo.ch : でも、それは不可能なことではないですか。

グラフ : そう、不可能だ。この案を支持する人は少ない。だが、必須だ。

世界中で膨大な利益を得られるビジネスがある。武器産業、エネルギー産業、そしてポルノ産業だ。エネルギーは、売れば最終的に必ず利益が得られる。エネルギーの供給会社はいくつかあるが、消費者は今日すでにこれらの企業に大きく依存している。そういう意味でエネルギー企業は独占企業だ。

私はエネルギー分野での企業への依存には断固反対だ。将来のエネルギー供給のかたちは、国民が自分で生産できるようにするのが望ましい。例えば住宅の屋根を使って太陽光発電をする。だが、このような考え方には電力会社は徹底的に抵抗するだろう。そうなれば彼らは影響力、権力、利益を失ってしまうからだ。スマートグリッドやインテリジェントコントロールなどの構築意図がある場合はまた別だが。しかし、大企業は組織が巨大で階級制でもあるため、人的ネットワークとの仕事に慣れていない。実現は難しいだろう。

swissinfo.ch : 脱原発が実現してもしなくても、再生可能エネルギーは促進されるべきですが、この利用にも問題がないわけではありません。一番大きな問題は何ですか?

グラフ : 電気代だ。現在の電気代は、コスト構造が不透明だ。例えば原子力発電の場合、ここで発生する使用済み燃料の保管費用も電気代の算出に組み込むべきだ。石油の場合は、事故があったときの処理や気候に与える悪影響を抑えるための費用も考慮するべき。そうすると、再生可能エネルギー発電の電気代はこれらに比べてずっと安くなる。

これから世界中で期待できるのは太陽光発電だろう。太陽電池パネルは屋根に取り付けられるので、特別な用地は要らないし、居住地域から離れた土地に発電所を建てる必要もない。スイスでは促進計画のおかげもあって、太陽光発電が魅力的になってきた。少額の経済支援で太陽光発電の電気代を下げられ、国民が生産者になることができる。

スイスでは、夏は主に太陽光で発電し、暖房などで電気需要量が大幅に増える冬はバイオマスや水力発電などと併用するとよいだろう。だが、これには費用がかかる。今はまだ競争価格まで下げられるよう、補助金などの経済支援が必要だ。

swissinfo.ch : 将来、エネルギー確保は難しくなるばかりだと思いますが、スイスで大幅節減が可能なのはどの領域ですか。

グラフ : 建物だ。現在、電気消費量の約半分は建物で使われている。これが一番簡単な領域だろう。次に簡単なのは交通だが、政治にその意思がない。誰も一度手にした車は簡単に手放したくないからだ。

私個人としては、一般車両の排気量を最高4000㏄に規制したいところだ。そうすればエネルギー消費を半減できる。厳しい対策を取らなければ、何かを得るのは難しい。

swissinfo.ch : スイスの電力業界で初めて緑の党員として取締役に就任しますが、野心はありますか?

グラフ : 私のスタンスは明白だ。ほかの取締役に私の考えをはっきり示したい。だが、現実的に見て、私の代案が通るチャンスはそれほど大きくない。

電力生産者に長期的な目標やコンセプトがなければ、州は財政的リスクを負う。チューリヒ州はアクスポの株を36%所有しており、事故が起これば州がその費用を負担することになる。だが、州にはそんな余裕はないし、私も民間企業が利益を得るためのリスクを肩代わりするつもりはない。

swissinfo.ch : フクシマの後、原発に対する考え方は変わりましたか。

グラフ : 変わらない。私はずっと反原発だった。スイスでもいつも「大丈夫だ」と言われているが、私は信じていない。何か一つ狂えば、それでもう制御不可能になる。

原発はまた、経済的にも非常に効率が悪い。大規模な設備で休むことなしに発電しているが、実際にはウランから出るエネルギーの3割が電気になるだけ。あとはすべて熱になって捨てられている。

1954年シャフハウゼン州生まれ

連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ/EPFZ)で農業を学んだ後、スイスとオーストラリアで種々の実習を行う。

1985年から1989年までタンザニアの酪農業プロジェクトの顧問主任を務める。

1990年、チューリヒ州イルナウ・エフレティコン(Illnau-Effretikon)の参事会員に。

1994年から1998年まで、イルナウ・エフレティコン市議会議員、1998年から2011年まで同市長を務める。

2011年5月、チューリヒ州政府閣僚に就任。司法省と内務省を受け持つ。

アクスポ(Axpo AG)、中央スイス電力(CKW)およびEGL(EGL AG)から成るコンツェルン。本社はアールガウ州バーデン(Baden)。

株主はチューリヒ州、アールガウ州、シャフハウゼン州、グラールス州、ツーク州など。

従業員4000人以上。協力会社とともにスイスの約300万人に電気を供給。

アールガウ州ベツナウ(Beznau)、ソロトゥルン州ゲスゲン(Gösgen)、アールガウ州ライプシュタット(Leibstadt)の各原発を運営。

福島第一原発の事故後、スイス政府は脱原発を発表した。その後の春の会期で、国民議会(下院)はこの決定を承認。全州議会(上院)では9月28日に討議が行われる予定。

これに先立ち、全州議会エネルギー委員会は8月30日、新技術が投入された原発であれば建設を認めるという、条件付きの中期的脱原発を提案した。

電源別発電電力量:

水力: 55.8%

原子力: 39.3%

その他: 2.9%

 新再生可能エネルギー(廃棄物、バイオマスおよびバイオガス、太陽光、風力: 2%

出典:連邦エネルギー省エネルギー局(BFE/OFEN)

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