国民投票 代替医療とIC旅券
5月17日の国民投票では、憲法で代替医療を医療として認めることと、IC旅券の義務化を国民に問う。
スイスでは多くの人がホメオパシーや中国伝統医療などの代替医療を利用しているが、基本的に健康保険では支払われていない。今回政府は、代替医療を憲法で認めた上で、医師の免許改善などを行おうと提案している。一方、現在試験的に発効されているIC旅券の義務化も今日的課題として国民にその賛否を問う。
代替医療の健康保険問題
スイスでは連邦の定める医師免許 ( FMH ) を持たない代替医療師は約2万人、医師免許取得後に代替医療を行う医師が3000人。ホメオパシー、薬草治療など、代替医療の種類は200種にも上り、多くの人が代替医療を利用している。
こうした現状を受け国民から提出された基のイニシアチブは、「代替医療を完全に認可するように」と主張したものだった。しかし連邦議会はこの「完全に」という言葉があいまいだとして新提案を行い、イニシアチブは取り下げられた。今回国民に提示されたのは新提案の方で、「完全」の言葉を抜き「代替医療を憲法で認めること」を問いかけている。
これは憲法改正を行う強制レファレンダムであるため、州と国民両方の賛成過半数を必要としているが、新提案が支持された場合、代替医療は医療として正式に認められた上で、今後連邦議会が時間をかけ条項にふさわしい細部規定を制定していくことになる。
具体的には代替医療従事者の免許が1つの課題になるという。現在代替医療師の連邦制定免許は存在しないため、国民はどの医療師が信頼できるのかという判断に悩む状況にあり、国民を守るためにも新しい医師免許制度の成立が叫ばれている。
一方、連邦保健局(BAG/OFSP)を管轄するパスカル・クシュパン内務相などを含む新提案反対者側は、代替医療が認められると医療領域が拡大するため健康保険料が値上がりすると懸念している。これに対し賛成者側は、多くの国民が西洋医学を基本とし、代替医療はあくまで補助として利用しており、費やす経費はわずかなものだと主張している。
いずれにせよ、1999年から2005年にかけ試験的に健康保険でカバーされたホメオパシー、中国伝統医療など代表的な5つの代替医療は、新提案が支持されれば、近いうちに連邦の医師免許も併せ持つ医師による治療の場合は特に、健康保険でカバーされるようになるだろうと賛成者側は説明している。
IC旅券は必要か
顔写真と2枚の指紋データをICチップに含む、 IC旅券 ( バイオメトリックス・パスポート ) を義務付けることに賛成するか否かが第2の案件だ。IC旅券は「9.11米同時多発テロ」以降に構想され、アメリカは2006年10月から同国を訪問または、トランジットで通過する場合もIC旅券かビザを要求している。
その結果、現在50数カ国がIC旅券を導入し、その数は今年末には90カ国に上ると見られている。
スイス政府は、試験的にIC旅券をすでに導入してきたが、今回その全面的な義務化を訴える。主な理由はアメリカ渡航がスムーズにいくこと、旅券の偽造が減少すること、さらにシェンゲン協定の加盟国がIC旅券を導入しているので、スイスも加盟国として足並みを揃えるべきだとしている。
一方、多数の左派政党メンバーと右派の国民党 ( UDC ) も含む反対者側は、IC旅券を導入するシェンゲン協定加盟国は個人情報をセンターに保存することは決めておらず、中でもドイツは正式に情報保存を否定しているにもかかわらず、スイスではセンターでの情報保存を実施することを懸念している。また旅券申請費が高額になることなども反対理由に上げている。
また賛成者側の訴えるアメリカ渡航の安易さも、従来のようなビザ発効で充分な上、90日間を越える滞在にはいずれにせよビザが必要なこと、またIC旅券を義務化しなくてもシェンゲン協定の加盟国として矛盾しないと指摘し、「IC旅券そのものに反対ではないが、従来の旅券かIC旅券かを国民が選択できること」を主張している。
結局反対者側の最大の懸念は、70万人から90万人の個人データが政府側に保存されていた事実が、過去1980年代後半に明らかになったが、その経験から個人の生体情報がセンターに保存されることへのアレルギー的反応に由来する。これに対し政府は、緊急時にスイスと同レベルのデータ管理を行う国にしかデータは開示しないし、また指紋などは災害時の被害者確認のみに利用すると主張している。
国民は、結局政府のテータ管理を信用するかしないかを投票で決定することになりそうだ。
里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 、swissinfo.ch
ホメオパシー
患者の病気の症状と似た症状を起こさせる植物、動物、鉱物などをごくわずか投与することで、体の治癒力を高め、病気そのものを体から追い出していく。国民の2割がホメオパシーを使っているといわれている。
薬草治療
伝統的な薬草を、湿布、シッロプ、煎じ茶の形で使用する。
中国伝統医療
心、体、精神は一体であるという中国の哲学に基づいた医療で、針治療、漢方薬、マッサージ、エネルギー療法などを行う。
アントロポゾフィー医療
ルドルフ・シュタイナーの「アントロポゾフィー ( 人智学 ) 」に基礎を置き、精神的、心理的、身体的な面から人間を捉える。しばしばホメオパシーを使う。
神経療法
治療に人間の自然治癒力を利用する。少量の麻酔薬を注射するか、浸透させ、体の治癒力を刺激する。
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