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国民投票 EU関係持続へ

国民投票により、EUとの人の往来の自由は今後、半永久的に有効となる Keystone

2月8日に行われた国民投票では、欧州連合 ( EU ) との2国間協定の継続と2007年にEU加盟国となったルーマニアとブルガリアとスイス間の人の往来の自由化が59.6%の支持を得て承認された。

投票前には僅差で承認されるであろうとの予想だったが、投票終了から1時間もたたずに、EUとの関係を継続するというスイス政府の決定の承認が確実と発表され、国民の明確な意志が確認された。

段階的に自由化へ

スイスはEUには加盟せず、EUと2つの2国間協定を結び、市場や人の往来の自由化を進めている。第1協定により人の往来については、段階を経て自由化を進めることになった。まず2002年から、スイスとEU15カ国とキプロスおよびマ ルタとの自由化が行なわれ、2006年からはさらに8カ国が加わった。スイスは協定に7年間の暫定期間を設けたが、その後もEUとの関係を続けていくと政府と議会は決定した。しかし、これに対して国民党 ( SVP/UDC ) とスイス民主党 ( SD/DS ) が異議を申し立て、国民の審議を要求したため ( レファレンダム ) 、今回の国民投票となった。

 レファレンダムを起こした国民党などは、2007年にEUに新に加盟したルーマニアとブルガリアからスイスに大量の低賃金の労働者が流入してくると指摘し、雇用市場の悪化と社会福祉の質が低下すると主張した。一方、急進民主党 ( FDP/PRD ) 、キリスト教民主党 ( CVP/PDC ) 、社会民主党 ( SP/PS ) の政権党のほか経済界は、ルーマニア、ブルガリアからの人の往来を制限すれば、EUが一方的に協定を破棄する可能性を示唆し、潤沢な資金を投入し賛成キャンペーンを張った。

 2月6日に経済省経済管轄局 ( SECO ) が発表した1月の失業率も、3.3%と前月より9668人増加し、大手再保険会社のスイスリー ( Swiss Re ) が巨額の損失が見込まれるなどといったスイスの景気の冷え込みを体現するニュースが次々と発表される中、結果は僅差になるだろうと予測されていたが、明確にEUとの2国間協定を支持した。ルーマニアとブルガリアからの人の往来は今後7年間で段階的に自由化されることになる。

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レファレンダム

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不景気がEUを支持

 これまでスイスではEUとの関係について、スイス-EU協定の批准など5回にわたって国民投票にかけられたが、全て2国間協定を承認する結果となった。常にスイスの独自路線を主張してきた国民党のトニー・ブルンナー党首はドイツ語圏のラジオのインタビューに応じ
「賛成グループが巨大な資金を使ってキャンペーンを張ったことから、投票前から、4割の反対があればわれわれは満足だと言っていた。結果は認めるが、賛成者の間違った理論による嘘とプロパガンダは許せない」
と語った。5回続けて国民投票で負けたものの、レファレンダムなどを起こすことで、国民に発言の場を設けることは必要であり、今後もスイス独自路線を主張し続けるという。

 一方ドリス・ロイタルト経済相は
「国民は成熟した決定をした。経済状況が不安な中、EUとの2国間協定が承認された。失業率の上昇もEUとの関係ではなく、経済の状況がそうさせたのだということを国民は理解した」
 と語った。また、スイス-EU2国間協定を支持したスイスの経済連合「エコノミースイス ( economiesuisse ) 」のゲロルト・ビューラー会長も
「不景気な今、2国間協定が承認されたことは意味がある。金融・経済危機に直面するスイスにおいて、EUとの関係を壊すといった試験的なことはできないと国民が判断したためだ。スイスとEUの関係は2国間協定以外にない」
 と語った。在スイスミヒャエル・ライタラーEU大使は
「 ( 明確な ) 結果に驚いている。スイス国民の理性がこうした結果をもたらした。EUにとっては、よい結果となった」
 と語った。

 2005年9月には、EU23カ国との人の往来の自由が国民投票で、投票率54%の中、56%の支持を得て認められた。今回はそれを上回る支持を得て、これまでのEUとの関係が承認されたことになる。

 国民投票のほかに、各州で市民投票も行われた。チューリヒ州では、スイスで経済活動をしていない富裕層を対象にし、実際の所得を対象にせず生活費を基に計算される「見積もり課税」の廃止が承認された。また、ジュネーブ州ではインターネットを通して行なわれるE-投票が全国に先駆けて承認された。グラウビュンデン州では、会議センターの拡張計画が認められ、世界経済フォーラム ( WEF ) 今後もダボスで開催されるための条件が揃った。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

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エコノミースイス ( economiesuisse )

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの企業が構成する国内最大の経済連合。会員約3万社で、従業員総数はおよそ150万人。企業の規模は多様。目的は、スイスの経済に対し最高の環境条件を作ることにある。

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1999年に調印された第1協定の項目は、陸路交通、空路交通、人の往来の自由、農業、貿易手続き、公共事業、研究の7項目。
2004年に調印された第2協定の項目は、警察・司法・難民 関連の協力 ( シェンゲン/ダブリン協定 )、利子課税、詐欺対策、加工農産物、環境、統計作成の協力、メディア、老齢年金、教育/職業教育/青少年関連の9項目。

1980年代スイス政府は、スイスのEU加盟を目標として掲げていたが、2国間協定を締結しこれが軌道に乗り始めたことを踏まえ、加盟は「長期的な選択肢の一つ」と方針を転換した。

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