政党資金の透明性 スイスはいまだ劣等生
スイスは昨秋の総選挙で初めて政治献金の開示義務が導入された。だがこのほど公表された監査結果からは、政治とカネの流れは全くつかめないままだ。
スイスの政党はどのくらいのお金を持っているのか?スイスは長年、ベラルーシと並び欧州で最も政党資金の透明性が低い国と言われてきた。
だが年間約4回の国民投票があるスイスでは、政党がどんな団体から献金を受けているかは有権者にとって重要な問題だ。
有権者からの圧力を受け、スイス連邦内閣(政府)は2022年に「政治資金透明性政令」を制定外部リンク。2023年秋の連邦議会総選挙で初めて適用された。
情報開示義務の対象は、スイス連邦議会を構成する政党だ。議会選挙に向けた選挙活動や、国民投票の賛成・反対運動に5万フラン(約850万円)以上を支出した場合に開示する必要がある。
匿名や外国からの献金は原則禁止だが、在外スイス人からの献金は許可されている。
連邦議員や政党への1万5000フラン以上の個人献金は、寄付者の氏名を明らかにしなければならない。
だが総選挙から1年近く経過した今、幻滅するような数字が出た。スイス連邦監査事務所が先月公表した、昨秋総選挙に関する監査結果外部リンクだ。
「霧を生み出した」
その数字を読み解くには注意が必要だ。「実のところ、これらの数字がまず生み出したのは霧だ」。公表に先立って監査事務所が開いた記者会見で、あるジャーナリストはこう皮肉った。「誰にどれだけの資金が流れているのか、このデータからは読み取れない」との指摘も出た。
確かに驚くべきことに、監査結果はほとんど何も明らかにしていないに等しい。全国政党の献金しか調査されなかったため、例えば州レベルでしか活動しない政党のデータはない。これが全体像をどれほど歪ませているのかも、政党ごとに独自の構成を築いているため全く分からない。
かろうじて監査結果からわかるのは次のようなデータだ。
多すぎる抜け穴
透明性政令の適用対象ではない政治主体の資金も不明だ。例えば広告代理店を介して政治家に影響を与える利益団体や、独自のチャネルと財布を抱える寄付団体・政治組織の収支も見えない。監査事務所は「政党の外で選挙・投票運動を行うことは可能であり、そこにお金が支払われる」と弁明した。
財団を経由した資金の流れも不透明なままだ。
財団は匿名性を高めるために設立される面もある。政治家にも人気で、監査事務所にとって大きなジレンマを生んでいる。本来は献金主を査定するのが監査事務所の任務だが、「財団への監査権限はない」とパスカル・スティルニマン所長は説明する。
牙のないルール
何が問題なのか。スティルニマン氏は「法令は透明性に限界があることを敢えて認めているようなもの」と語る。
監査官は、政党が注意義務を怠った場合に法執行機関に報告する権限があるに過ぎない。 しかし、実際に監査事務所が法執行機関に報告した案件はいくつあるのか?それも不透明なままだ。
政令の不備を象徴する例は他にもある。例えば監査官が数値の誤りに気付いても、報告通りに公表しなければならない。政党が意図的に誤った数値を報告した場合も同じだ。そうしたケースがあったとしても、国民が不正行為の可能性について知る術はない。
「透明性は絶対ではない」――監査事務所が公表した監査結果からは、そんな国民へのメッセージがにじみ出る。
スイスの透明性の低さは、欧州評議会の反汚職国家グループ(GRECO)から近年繰り返し批判されてきた。GRECOは今のスイスについて、「これまでの進歩を認識した」としている。
献金はどこへ?
連邦監査事務所によると、今年6月にスイスの現状を再評価したGRECOは、今も6つの点で改善の必要があるとの判断を示した。うち3つはこれまでに改善措置が施されたという。
だがGRECOは今も、政党の支出面の透明性向上を求めている。現時点では、政党に開示が義務付けられているのは収入面だけだ。
監査事務所は初の監査公表について、「政党にとって、十分な学習期間があった」と総括する。その猶予期間は終わり、今後は「知らなかった」では済まされなくなる。
政党が意図的に資金の流れの隠蔽を図った場合もデューデリジェンス(査定)と報告義務で十分なのか、という疑問が残る。
こうした疑問点を真っ向から掲げているのが、スティルニマン氏の前任であるミシェル・ユスード連邦監査事務所長だ。フリージャーナリストに転身し、監査事務所の公表する内容の拡大を求める訴えを裁判所に起こした。具体的には抜き打ち検査の情報だ。
抜き打ち検査は政党が報告した数値の整合性を確かめるために行われるが、現行では、監査官は検査結果を公表できない。
「誤った数字もそのまま」
ユスード氏は、国民投票の発起人委員会や候補者が資金を不正に申告した場合、国民はそれを知る必要があると強調する。ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)で「監査に誤りが見つかった場合は、それも周知する必要がある。そうしないと、誤った数値を目にすることになる。それは透明性政令の目的にそぐわない」と語った。
スティルニマン氏は、ユスード氏の起こした訴訟についてはコメントせず、「改善の余地はある」と述べるにとどめた。
編集:Samuel Jaberg、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫
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