安定した直接民主制が存在するスイス。しかし、スイスの学校には「政治」という独立した科目がない。そこで、授業にもっと民主主義を取り入れようと、各州が積極的に動き始めた。
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの若者は政治にうんざりしているのだろうか。それとも、民主主義が当たり前すぎてかえって無関心になるのだろうか?スイスで政治を論じる際、決まったように聞かれるのが18〜25歳の青年層の投票率の低さへの嘆きだ。この問題を解決するためにはどうすればいいのか。
どの視点から見るかによって答えは変わる。実際、トランプの「ババ抜き」のようにたらい回しにされがちなテーマだ。一つ、連邦政府は当てにできないということだけは確か。連邦政府の元にはすでにありとあらゆる方面から定期的に、政治教育の充実を求める誓願書が送りつけられている。
また、次世代の若者だけに責任を押し付けるのも不公平だ。スイス独語圏の公共ラジオ放送(SRF)が同テーマを取り上げた番組外部リンクで、ヴァレー州の州立学校の生徒、クセニアとサンティアゴの2人は、18歳になって投票や選挙に行くことを待ちきれないという。「絶対に選挙に行くつもり」(クセニア)
そんな彼らが実感しているのは政治についての知識不足だ。だからこそ「学校でもっと政治教育を」とサンティアゴは提案する。
彼らの通う州立学校では、今夏から週に2コマ、政治学の授業が始まった。しかし、これはあくまで歴史の授業の一部に過ぎず、どこまで掘り下げるかは担当教師の一存に委ねられる。他の州でも事情はほぼ同じだ。
イニシアチブで弾みを
そんな中、市民が動き始めた。スイス北部のバーゼル・シュタット準州では、2017年夏、急進民主党の青年部が「政治」を独立科目として授業に導入することを求めるイニシアチブ(国民発議)外部リンクを起こした。
ちなみに南部のティチーノ州では、17年9月末の住民投票の結果、政治が独立科目として取り入れられることが決まっている外部リンク。
ジュネーブ州の取り組み
さらに、スイス西部のジュネーブ州の取り組みも注目される。同州でもまだ「政治」は歴史の授業の一部だが、教師たちに活用してもらおうと、州総務局が年に4〜5回、「政治と民主主義の実際を知る」ための複数のプロジェクト外部リンクを実施している。
プロジェクトはすべて、生徒による実体験中心だ。実際にジュネーブ州議会会場で市民の代表になりきってもらい、新法の審議や政治的駆け引き、州政府や行政のチェックなどを体験させる。
こうした取り組みはもちろん歓迎すべきものだが、ジュネーブ州作成の調査報告書「スタディ2015外部リンク」の内容からも明らかなように、これまでのところ、実際に選挙や住民投票に参加する若者を増やすまでには至っていない。
(独語からの翻訳:フュレマン直美)
続きを読む
おすすめの記事
民主主義の鍵を握る政治教育
このコンテンツが公開されたのは、
政治教育は民主主義において中心的な役割を担う。政治教育は、積極的な政治参加を国民に促す。民主主義は自意識に基づいた政治的な自己理解が必要だからだ。 デモクラシー研究室第2回は、アーラウ民主主義センター外部リンクで政治を研…
もっと読む 民主主義の鍵を握る政治教育
おすすめの記事
ジュネーブ州、義務教育を18歳に引き上げへ 中退予防で
このコンテンツが公開されたのは、
ジュネーブ州は、学生の学校・職業訓練校の中途退学を予防する策として、来年から義務教育期間を18歳まで引き上げると決めた。同州はスイスで退学率が最も高い州の一つ。
もっと読む ジュネーブ州、義務教育を18歳に引き上げへ 中退予防で
おすすめの記事
「スイス国民は政治に嫌気を起こしているわけではない」
このコンテンツが公開されたのは、
政治学者シモン・ランツ氏によれば、スイスで投票に行く有権者は一般にいわれているよりも多く9割に達する。ただし、毎回投票に出かける有権者は、政治に精通するごくわずかの人たちだ。
フェリックス・シンドラー: 有権者のうち全く投票に行かない人はわずか1割にしかならないことが調査で明らかになっていますが、スイス人は模範的な民主主義者と言えますか?
シモン・ランツ: いや、国際的な比較ではスイスの投票率は低く、模範的とは言えない。しかし、「政治に嫌気を起こしている」といわれてきたスイス人だが、実際には、5年の間に一度も投票に行かなかった有権者はわずか1割だということが今回の研究で明らかになった。言い換えれば、有権者の9割は毎回ではないが投票に行っているということだ。
もっと読む 「スイス国民は政治に嫌気を起こしているわけではない」
おすすめの記事
過去45年、投票率の高かった国民投票はどれか?
このコンテンツが公開されたのは、
2016年2月28日の国民投票は、1992年の欧州経済領域加盟をめぐる投票に次ぐ高い投票率となり、約63%を記録した。その背景には、「外国人犯罪者の国外追放強化」と「ゴッタルド第2道路トンネル」という二つの重要な案件があったからだ。
もっと読む 過去45年、投票率の高かった国民投票はどれか?
おすすめの記事
青年議会 若者が政治経験を積むための道場
このコンテンツが公開されたのは、
若者たちが楽しみながら発議や討論を行い、プロジェクトを立ち上げる。そんな経験ができるのが、スイスの青年議会だ。現在全国に63カ所あり、約1500人の政治家の卵たちがそこで政治活動を体験している。青年議会はまた、スイスの政治制度の伝統を受け継ぐ将来のリーダーを育成する場でもある。
もっと読む 青年議会 若者が政治経験を積むための道場
おすすめの記事
低迷を続けるスイスの投票率 学生たちがその原因に迫る
このコンテンツが公開されたのは、
「政治学で行う研究やリサーチの目的は、『情報のない不安』を、『情報あるゆえの不安』に変えることだ」。世論調査機関「gfs.bern外部リンク」の代表を務めるスイスで最も有名な政治学者クロード・ロンシャン氏は先日、チュー…
もっと読む 低迷を続けるスイスの投票率 学生たちがその原因に迫る
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。