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永世中立 再び議論の的

カルミ・レ外相は7月、イスラエルのレバノン進行を「大げさ」だと表現した ( 写真はベイルートの様子 ) Keystone

スイスが国連安全保障理事会のメンバーとして立候補するという提案や、レバノンに平和維持軍を派遣するといった提案などが外務省から出され、スイスの永世中立について、再び議論が沸騰している。

ミシュリン・カルミ・レ外相は、ジュネーブ条約の委託国としてスイスの「積極性」を支持する。

 「他人のことに手を出すな!」。スイスの聖人、ニコラウス・フォン・フリュエ ( Niklaus von Flüe /1417〜87 ) が1481年にスイス人にした忠告だ。一方、カルミ・レ外相による現代のスイスの永世中立は、これとはまったく違うものである。

積極的永世中立を進める外相

 「積極的な外交」を標榜するカルミ・レ外相は、イスラエル軍によるレバノン介入を非難し、危機にさらされている地帯へのスイス軍派遣の可能性について触れた。さらに、国連安保理のメンバーに立候補する案まで発表した。

 彼女の外交の積極性はしかし、2002年に入閣した当時から、構築されてきたものである。イスラエルとレバノンの対立に対するジュネーブのイニシアチブ、国連人権理事会、国際赤十字に新しい赤ひし形のマークを導入する、コソボの独立など主要な国際問題に対しては積極的な外交を進めてきた。

 長年にわたってスイスは、永世中立を傘に過度に控えめな外交を続けてきたが、近年、意欲的になってきた。カルミ・レ外相は自分の意向を常にはっきり提示してきた。「国家間で行われる討議の場や、協定や国際条約交渉の際に支配する外交的配慮は、わが国の立場を明確に示した対話に取って代わるべきものであり、交渉の際に使う圧力の手段とするべきである。これを開かれた外交という」と外相は就任100日目、初めて公共の場で演説した。

イニシアチブの発足か?

 しかし、この外交スタイルの変更は、すべての人に受け入れられたわけではない。特に、レバノンへの派兵は永世中立を犯すものであると各方面から批判されている。カルミ・レ外相はこうした批判に反論し、スイスがジュネーブ条約の委託国であることを挙げる。彼女の考えは、国際赤十字のコルネリオ・サマルガ前委員長の意見に共通するところがある。

 スイス国民党は、カルミ・レ外相の行動をあまりにも積極的過ぎると批判している。8月22日には、スイスの永世中立に関する問題を、上下両院の議員で構成される外交委員会に議題として取り上げるよう要求した。しかし、国民党の要求は外交委員会で拒否された。
 
 国連安保理のメンバー加盟申請の可能性については、国民党 ( SVP/UDC ) のクリストフ・メルゲリ下院議員が、スイスの永世中立に反するものと批判し、永世中立を連邦憲法に明記するための国民投票を希望している。「外交面ではスイスは一歩後退しなければならない」と国民党党首のウリ・マウアー氏も語っている。

 急進民主党 ( FDP/PLD ) もカルミ・レ外相の「直接説法的政治」を非難している。カルミ・レ外相の外交により政府は、具体的な行動について検討するより、修辞的議論ばかりするようになってしまうという意見だ。

永世中立でありながら積極的に

 「多くの国民は、スイスは何もせず何も言わないのが良いと思っているし、わたしはテーブルの下に隠れているべきだと思っている。永世中立とは動かないことだと理解している」とカルミ・レ外相はドイツ語圏の地方紙バーゼラー・ツァイトゥングのインタビューで語った。「沈黙と消極性だけでは、わが国の安全や豊かさは保障できない」と言う。

 ペーター・マウラー国連大使は、永世中立の継続と平和への努力、人権、環境問題、開発援助に永世中立国のスイスがコミットメントすることは「矛盾しない」という意見だ。8月23日のドイツ語ラジオ放送DRSで、連邦政府がすでに2003年、安保理への参加を検討していると公式に発表したことを指摘した。

 その当時なされた永世中立のあり方についての討論が「グラスに入った水を嵐のように揺さぶったと感じたか」というインタビュアーの質問に対しマウラー大使は「そうは感じなかった。これは国際外交の場でのわれわれの責務を、いかに正確に解釈できるだろうかという心配からくるものである。わが国が外交について活発に討議することは、政治的にも良いことだ」と語った。

swissinfo、ダニエレ・マリアーニ 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳

スイスの永世中立
スイスの永世中立を語るとき、スイスがフランスに敗北したマリアーノの戦い ( 1515年 ) が引き合いに出される。スイスが外国に傭兵を出さなくなったきっかけになったのがマリアーノの戦いだからである。
1815年11月20日、ウィーン会議でスイスの永世中立が認められた。永世中立とは、武器による対立が起こった場合、一方に加担しないことである。現在のスイスの永世中立は、以下の3つの特徴がある。①自ら選んだ国の形である②継続的である ( ただし固定化されていない )③武装している

1993年、連邦政府は「不可欠の永世中立」主義から距離を置くと発表し、多国間の経済、軍事強制措置にも参加することができるようになった。カルミ・レ外相の発言とそれによって全国に引き起こされた永世中立に対する論争は、政府に永世中立についての再検討を迫るものとなった。過去15年の間、こうした動きはすでに4回起こった。

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