物静かな選挙戦 無関心か成熟か
19日は総選挙だが、街は至って静か。うぐいす嬢による宣伝カーの選挙運動など一切ない。街頭で党のパンフレットが渡されるのがせいぜい。候補者は地元で地道に運動し、テレビや市民集会を公約の発表の場とするのがスイス流という。
あまりにも静か過ぎて選挙があることを教えてくれるのは、街に貼られた候補者のポスターと新聞に載る政党の広告といったところ。騒音に耳をふさぐことがない一方で、国民の関心度に疑問さえ浮かぶほどの静かさである。
全州議会(上院)と国民議会(下院)の総選挙が18日行われる。
上院は各州から2名(準州からは1名)選出され46議席、下院は200議席で州の人口に従った議席配分で州ごとに選出される。任期は4年で、議員はほかに職業を持つ。議会が開催される間のみベルンに滞在する。議会や専門委員会に出席し日数で経費が払われ、年間およそ6万スイスフランから10万スイスフラン(510万円から850万円)の支給があるのみ。議員は秘書を雇う余裕はないことも選挙戦が静かな理由の一つ。
候補者や党のポスターが、選挙が間近であることを知らせる。党のビラを配って選挙運動をするか、演説会で公約を知らしめる。
各党の本部も静か
ベルンにある政党の本部は、いずれも選挙前とは思えないほど静かである。電話勧誘もなければ、候補者の出入りもないし炊き出しもない。選挙活動は
「基盤のある候補者の出身地でする。本部はマスメディア対応くらいなもの」
と社民党のジャンフィリップ・ジャネラ氏は、黙々と事務に精を出す党員の働く本部で説明した。
国民党のとイヴ・ビクセル広報担当も
「電話勧誘など、迷惑がられるだけだ」
と、静かな選挙運動のほうが現代の投票民には受けると語った。
家族と相談して記入する
選挙前4週間ころになると、各家庭には、党別に候補者がリストアップされている投票用紙が郵送される。
A党の投票用紙を選べば、A党に1票とA党の候補者全員に1票づつ投票したことになる。A党の候補者の誰かを消して、他の党の候補者を記入することもある。党が取った票でその州の人数割り当てが決まり、投票数の多い順に候補者の当落が決まる比例代表制。
個人の秘密はスイスの家庭内ではないに等しい。家族と相談し合って記入する人は少なくない。野外に集まり、挙手で投票をしていたころの名残である。
低い投票率
投票率は至って低い。前回99年の総選挙の投票率は43.3%。憲法改正などが問われる国民投票も今年2月の投票率は28%だった。常に投票する人は25%にとどまるという統計もある。
チューリヒ州大学政治学科のハンスペーター・クリージ教授によれば、
「国民投票でも重大事項が問われれば投票率は上がる」
と、国民は政治に無関心ではないと指摘した。
前出のイヴ・ビクセル氏はさらに
「議員を選出しても、重要項目は国民投票で決まるため、国民は安心している」
と議席の1つや2つの変動では、スイスの政治は変わらないのだと語った。
郵送による投票も認められ、投票者の過半数がこれを利用している。投票率を上げようとする政府は、インターネットでの投票を試験的に実施し、将来はインターネット投票の導入も検討されている。
投票率が一般に低いのは「直接民主制が熟したため」というハンスペーター・クリージ教授だが、民主主義のありがたさを忘れているのではないかと勘ぐりたくなるほど、戦況は盛り上がらず、今回も投票率は低いと見られる。
スイス国際放送 ベルン 佐藤夕美 (さとうゆうみ)
1999年の総選挙の投票率43.3%
国民投票本年2月の投票率28%
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