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秋の総選挙をめぐるスイス軍の存在

集団安全保障体制にくみするか、独立した自主防衛か。各政党の見解はさまざまだ Keystone

スイスは今後も完全防備の国家防衛軍が必要か、それともヨーロッパの集団安全保障の枠組みに入るべきか。スイス軍のあり方に対する各党の見解は、防衛費および軍隊の規模に対する見解と同様、さまざまだ。

10月に総選挙を控え、各政党は軍隊の在り方についてもそれぞれの方針を固めている。

 急進民主党(FDP/PLR)の全州議会(上院)議員ハンス・アルトヘア氏は「われわれにとって軍隊とは、いわば保険のようなものだ。つまり、保険金は支払わなければならないが、何事も起こらなければそれでよいわけだ」と語る。

 「わが党は従来通り、軍隊は不可欠という見解だ。むしろこれまで以上にその必要性が高まっていると考える。軍隊には憲法に規定された遂行すべき任務がある」

 保守右派政党の国民党(SVP/UDC)の国民議会(下院)議員トーマス・フルター氏は、軍隊を消防隊に例え、「兵士は自分たちが実際に投入されることになった場合の重要性を認識している。スイスには軍隊が必要だ。スイスの国家としての安定性および安全性は、何世紀にもわたり軍が保ってきた」と語る。

 このように中道各政党の議員の大多数は軍隊の維持および軍事技術の継続的発展に対し支持を表明している。

国防でなく平和構築支援

 これに対して左派および環境政党は、スイス軍の規模縮小を目指す。特に国外における平和構築支援を主要任務とし、友好関係にある近隣諸国とこれまで以上の協力体制をとるべきだと主張する。

 社会民主党(SP/PS)の国民議会議員エヴィ・アレマン氏は、「軍隊に関する議論は伝説とタブーの色が強い。隣国による侵略を受けて開戦に至るという古典的な事態はもはやあり得ないというのが、我々だけでなく名のある専門家も揃って一致した見解だ」と語る。

 社会民主党および緑の党(GLP/PLR)は、軍事的脅威の意味合いが以前とは異なることを理由として、現行の12万人から5万5000人規模にスイス軍を縮小すべきだと主張する。

 アレマン氏は、「軍縮とは、おおよそ国家防衛という現行の主要任務を解消し、平和構築支援により重点を置くという意味だ。スイス軍は、友好関係にある近隣諸国と協力を図るべきであり、スイスの安全保障政策は、ヨーロッパの集団安全保障の枠組みの中に入り込むべきだ」と主張する。

「世界情勢の急変も」

 これに対し、中道政党の防衛族議員は、近隣諸国との協力体制強化は空の防衛のみに限定するのが賢明だという見解だ。

 「我が国の中立性を断固として維持すべき分野も存在する」とフルター氏は従来型の自主防衛の必要性を強調し、「そうした分野には特に重点を置き、そのために人材や資材を投入しなければならない。平和構築支援への派兵というのはスイス軍の良い宣伝にはなるが、問題はそれが軍隊の主要任務にあたるのかという点だ」と疑問を呈する。

 アルトヘア 氏は、「将来のことは誰にも分からない。今後10年あるいはその先まで、スイスに軍事的脅威が及ぶ可能性はない、とは言い切れないように思う」と語り、北アフリカにおける政変を示唆して、「世界情勢は短時間で急変することもあり得る」と指摘する。

防衛費と軍の規模

 この数カ月間、スイス軍に関する議論は、軍の予算や要員の規模など、軍の将来に集中している。それに加えて、旧式の戦闘機「タイガー」に代わる新たな戦闘機の必要性、購入時期、台数についての議論も持ち上がった。

 連邦内閣は、2010年秋期の国防白書において、防衛費48億フラン(約4600億円)、軍要員8万人規模という政府案を提示した。この政府案をめぐり、議会の専門委員会では議論が紛糾した。

根本議論でなく妥協案

 これに対し右左双方の議員は、軍隊のあり方に関する根本議論をまず行うべきだと批判する。「そうした議論なくして、今後の方向性という喫緊の課題を議論することはできない」とアレマン氏は言う。

 フルター氏は「防衛か平和構築支援か、上層部からしてそれを示せないでいる」と批判し、さらに、「数字だけをあげつらって『軍隊を縮小して軍事費を抑えたい』と言うのは簡単だ」と憤る。

 スイス軍の予算および規模に関する問題は、まもなく議会で議論される。しかし、ここへきて妥協案が浮上してきた。キリスト教民主党(CVP/PDC)の大多数の議員が、ほかの中道政党の意見に並び、予算40億フラン(約3800億円)、要員8万人規模という党案に固執しないことを決めたからだ。

 いずれにせよ、全州議会は政府案を上回る予算や人員の確保を認めるという妥協案に合意した。それによると、将来的には51億フラン(約4900億円)の年間予算、10万人以上の軍事要員とその装備が確保される。

 これに加え、50億フラン(約4800億円)を上回る特別予算も要求する見込み。タイガー戦闘機に代わる新たな戦闘機を数年以内に購入するためだ。

 6月の全州議会と9月の国民議会を見通し、急進民主党の全州議会議員エドゥアルド・エンゲルベルガー氏は、「国民議会と全州議会の両議会での承認を目指す」と意気込む。

宙に浮いた国民発議

 議会がスイス軍の年間予算として51億フラン(約4900億円)を承認しても、それで議論が終結するわけではない。

 緑の党所属の国民議会議員であり「軍隊なきスイスを目指す会(GSoA/GSsA)」執行部のジョー・ラング氏は、中道派の各党は選挙を前に「鏡よ鏡、鏡さん。この国で一番防衛能力が優れた政党はどこかしら?」と茶番を演じていると非難する。

 ジョー氏に言わせれば、51億フランという軍事予算は「兵役義務の廃止を求めるイニシアチブの実現を一挙に進めてくれるもの」だ。「軍事費の増加に賛成する市民の方が多いわけは絶対にない」からだ。

 そうした党とは正反対の政治的立場をとる士官協会や、現役・退役軍人の団体「ジアルディーノ・グループ(Gruppe Giardino)」は、最低12万人規模の軍を目指す。これらの団体もそれぞれ、国民発議を通じて目標を達成するつもりだ。

(独語からの翻訳、濱四津雅子)

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