2009年の出来事 -下半期 -
2009年下半期も、大きな事件が多発した。新型インフルエンザが大流行。映画監督のロマン・ポランスキー氏がスイス入国直後に逮捕され、国際的にスイスは非難の矢面に立たされた。
11月の国民投票では、イスラム教寺院のミナレットの建築が禁止となり、イスラム諸国のスイスボイコット運動につながった。リビアで人質になっている2人のスイス人は解放されぬまま年を越す。
7月18日
ゴッタルド峠で24キロメートルにわたって車が数珠つなぎに。夏休みが始まったことと、悪天候が重なったことで、車の渋滞はスイスでは記録的な長さとなった。
8月1日
建国記念日。リュトリの丘には600人が集合し、平和裏にこの日を祝った。
8月4日
医薬品大手ノバルティス ( Novartis ) の最高経営責任者 ( CEO ) のダニエル・ファセラ氏のチロルにある別荘が放火される。犯人はイギリスの動物愛護団体SHACで、ロシュの動物実験に抗議しての犯行だった。
8月16日
ウーリ・マウラー国防相がスイス軍の3分の1縮小を発表。予定していた戦闘機の購入も見合わせる計画であることが明らかに。
8月20日
ハンス・ルドルフ・メルツ連邦大統領が突然、リビアを訪問。ジュネーブ州警察がリビアのガダフィ大佐の息子夫婦を拘束したのは「不当で不必要だった」と謝罪。同時に、両国は人質問題で「申し合せ」を交わす。
スイスのメディアに対しメルツ大統領は、2人のスイス人は近日中に解放されると予想発言。
8月28日には2人を出迎えるためにトリポリに飛んだ連邦政府のジェット機が2人を乗せないままスイスに帰国。しかし、メルツ大統領は、人質の解放を確信する発言を続けた。
9月5日、連邦議会はリビア事件の調査のため特別委員会を設置。その後も、人質は解放されず、両国間の関係は迷走する。
8月23日
UBS銀行などがアメリカで与えたスイスに対するイメージを是正するため、アメリカでのイメージアップキャンペーンを開始。
8月25日
OCエリコン ( OC Oerlikon ) 、2500人の人員解雇を発表。9月8日、スイスの失業者数が過去3年6カ月以来、初めて15万人を超える。
9月14日
データ保護の連邦担当官が、グーグルのストリートビュー ( Street View ) に対し個人情報保護を尊重するよう最後通牒を言い渡す。特に指摘されたのは、通行人には見えない庭や広場の画像だった。グーグルはこれに対し、対抗する姿勢を示したため11月13日、スイス連邦行政裁判所で裁判が始まる。
9月16日
急進民主党 ( FDP/PLD ) 出身の、ディディエ・ブルカルテール氏 ( 49歳 ) が上・下院合同議会で閣僚として選出される。18日、内務省担当と決定される。
9月21日
ロシアのディミトリ・メドベージェフ大統領夫妻がスイスを訪問。ロシア首脳のスイス公式訪問は初めて。2日間の滞在中には、ウーリ州にあるスボーロフ将軍の記念碑を訪問し、200年前にアルプス越えで命を落としたロシア兵の冥福を祈った。
9月23日
初のスイス製の衛星が、インドの宇宙基地から宇宙へ飛ぶ。
9月24日
メルツ大統領が国連 ( UN ) 総会を機会にニューヨークでリビアのガダフィ大佐と会談し、スイス人の人質2人の即刻の解放を要求する。同時に、2人が9月18日から大使館外の不明の場所に連行されたことが明らかになる。
8月20日に両国が交わした申し合わせの解決期日が過ぎてもリビア側からの歩み寄りが見られない。このためスイスは11月4日、申し合わせの実行を見合わせると発表。11月9日、人質2人は再びスイス大使館に戻るものの、その後、違法入国、脱税と違法商業行為の疑いでリビアの裁判にかけられる。
9月24日
6月21日に終了したツール・ド・スイスでは総合優勝を果たした自転車のファビアン・カンチェラーラ選手が、メンドリシオ ( Medrisio ) で開催された世界選手権のタイムレースでも優勝。今回で3度目の世界選手権の優勝となる。
9月26日
映画監督のロマン・ポランスキー氏 ( 76歳 ) が、映画祭への招待を受けスイスに入国したところ、チューリヒ国際空港で逮捕される。ポランスキー氏はアメリカから、少女淫行 ( いんこう ) の疑いで指名手配されていた。12月4日には保釈金450万フラン ( 約4億円 ) を支払い、クシュタートにある同氏の山荘に柔禁となる。山荘はコンピュータ制御で監視され、同氏の脚にはセンサー付きのベルトが着けられ、逃亡ができないよう監視されている。少女淫行 ( いんこう ) 事件は1977年に起こった。アメリカで有罪判決が下れば、最高2年間の実刑となると見られている。
9月27日
国民投票で障害者保険の補てんとして、2011年から2017年までの期限付きで付加価値税の税率を、現行の7.6%から8.0%に値上げすることが承認される。
10月1日
健康保険の2010年の掛け金が、平均1割上昇となる見込が発表される。
11月1日
租税問題で、スイスとイタリアとの関係が悪化。イタリア当局がイタリア国内にあるスイス系銀行に対し脱税ほう助の疑いで捜査に踏み切る。スイスはイタリアとの租税条約の交渉を一時保留とした。
11月13日
新型インフルエンザ ( N1H1 ) がスイスで大流行。全人口をカバーする予防注射が用意される。予防注射の開始時期や対象者基準が州ごとに異なるなど、混乱が生じる。12月中旬までに9人の死者も出たが、無料の予防注射を受けた人は少なく、ピークが過ぎると残った予防注射430万本を世界保健機関 ( WHO ) に寄付することや、他諸国などへ売却することが検討されるようになった。
11月15日
ナイジェリアで開催された「FIFA U-17世界選手権 ( U-17-WM ) 」でスイスチームが優勝。
11月20日
1年間、運転が中断されていたセルン(欧州合同素粒子原子核研究機構・Cern ) の「大型ハドロン衝突型加速器 ( LHC ) 」が再稼働。
11月23日には、陽子同士が衝突をはじめた。来年1月から3月中には、衝突のスピードを3.5TeVに加速し、その後、5TeVに加速される予定となっている。実験では、宇宙誕生の瞬間に近い状況を再現し、ヒッグス粒子の発見や宇宙の誕生の謎の解明を試みる。
11月21日
開園されたばかりのベルンのクマ公園で、柵を越えた観客がクマに襲われるという事件が発生。クマはライフルで撃たれて重傷を負った。
11月29日
国民投票で、イスラム教寺院の尖塔 ( ミナレット ) の建設禁止を要求するイニシアチブが投票者の57.5%の支持を得て承認される。宗教の自由、外国人のスイス社会への融和問題などをめぐって、イニシアチブはスイス社会に大きな論議をもたらした。ミナレットの建設禁止を訴えるポスターは、一部の州で差別的であるとして掲示が禁止されるといったこともあった。
国民投票の結果に対して、イスラム諸国、欧州連合 ( EU ) 諸国から非難の声が高まり、12月2日には、イスラム諸国からスイス製品のボイコットが叫ばれた。特定宗教の差別であり人権憲章に違反すると欧州裁判所に訴える人も出現。スイス国内では、今後のイニシアチブについて、欧州人権憲章との照らし合わせが必要になるのではないかと意見が浮上した。「ミナレット禁止」は「今年のスイスの言葉」に選ばれる。
12月16日
米軍基地にあるテロ容疑者を収容するグアンタナモ収容所からスイス政府は、ウズベキスタン人の1人をジュネーブ州に受け入ると発表。
12月16日
イギリス系のHSCB銀行のジュネーブ支店から、同行IT部署の職員により顧客情報が盗まれ、フランス当局の手に渡ったことが判明。スイスはフランスとの租税条約の批准を見合わせる。
12月19日
コペンハーゲンで12月7日から18日までの予定で開催された国連気候変動枠組み条約第15回締結国会議 ( COP15 ) にスイスからモリッツ・ロイエンベルガー環境担当相も参加。会議は1日延長され19日に終了するが、参加した193国による共通の強制的目標を掲げることができずに失敗に終わった。スイスは二酸化炭素 ( CO2 ) の削減目標を、2020年までに1990年基準25%として掲げていた。
12月20日
ジュラ州ラ・ブレヴィン ( La Brevine ) で気温がマイナス34.2度まで下がり、過去10年来、12月における最低気温を記録した。
12月25日
アムステルダム発デトロイト行きのデルタ航空機内で爆破未遂事件が発生。「スイスインターナショナルエアラインズ ( Swiss International Airlines)」もほかの航空会社同様、米運輸保安局「TSA ( Transportation Security Administration ) 」からの安全管理強化の指示に従うと発表。さしあたって12月26日から30日まで適用する。
構成 佐藤夕美 ( さとうゆうみ )、swissinfo.ch
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