2024年9月22日のスイス国民投票
9月22日のスイス国民投票は、職業年金と生物多様性がテーマだ。前者は職業年金の制度改革に関するもので、後者は生物多様性を保護するためにより多くの資源と土地を割くよう求める提案だ。
職業年金改革案は67.1%の反対、生物多様性イニシアチブは63%の反対で否決された。投票率は45%だった。
職業年金改革案
スイスの年金制度は3本の柱からなる。今回は第2の柱である職業年金(BVG/LPP)が投票にかけられる。
老齢・遺族年金(AHV/AVS)と同様、職業年金基金の財源も平均寿命の伸びの影響を受ける。ベビーブーム世代の大量退職と同時に現役世代人口が減少し、基金の財政バランスが脅かされている。
市場の低金利もまた、年金基金の運用利回り低下につながっている。
議会と政府は、職業年金の財源を長期的に確保するための改革案を策定した。
主な措置は、年金の年間支給額を決める「最低転換率」の引き下げだ。改革では現行の6.8%から6%に引き下げる。
これにより年金受給額は減るが、影響を受ける世代には補償措置を設ける。また、職業年金の対象を低所得者層にも広げる。
左派政党と労働組合連合はこの改革案に反対するレファレンダム(国民表決)を立ち上げ、国民投票に持ち込んだ。労働組合連合は、保険料が上がる一方で年金受給額が減ると批判する。
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スイスの年金制度の第1の柱である老齢・遺族年金(AHV/AVS)の改革案は2022年の国民投票ですでに可決されている。女性の定年引き上げ(64歳から65歳)や定年後就労のインセンティブ、付加価値税(VAT)の引き上げ(7.7%から8.1%)が主な内容だった。
しかし世論調査では半数近くが反対。国民投票ではさらに反対票が伸び、結果否決された。
生物多様性イニシアチブ
2件目の提案は、生物多様性イニシアチブだ。
2020年9月に自然保護団体と環境保護団体が提起したイニシアチブ(国民発議)は、国内の生物多様性を守るために十分な資源と土地を確保することを求めていた。また、連邦憲法に景観と建築遺産の保護を明記することも求めた。
イニシアチブの推進派は、スイスの生物多様性が満足のいく状態になく、既存の対策では現状を改善できないと訴えた。このためイニシアチブでは、公的機関に新たな対策を講じることを義務付けた。
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右派・中道政党、農業界、経済団体を含む幅広い連合体が「極端な内容かつ効果が見込めない」としてイニシアチブに反対。反対派は、生物多様性を促進するには現行法で十分と訴えた。
またイニシアチブが可決されれば、国土の約30%が利用できなくなり、食料生産や再生可能エネルギー生産が阻害されると批判すた。
スイスでも世界と同様、絶滅危惧種が増え続けている。連邦環境局は、スイスの生物多様性の損失は他の欧州諸国を上回るスピードで進んでいると指摘する。スイスでは現在、自然環境の半分、生物種の3分の1が脅威にさらされている。
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しかし投票前の世論調査では過半数がこの案に反対。投票でもこの傾向は覆らなかった。
※2024年9月19日更新:これまでは「企業」年金としていましたが、今後は「職業」年金に表記を統一します。
英語からの翻訳・宇田薫、校正・上原亜紀子
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