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9月22日のスイス国民投票、2件とも否決の公算

連邦議会が可決した企業年金制度改革案は、国民投票で頓挫する可能性が出てきた
連邦議会が可決した企業年金制度改革案は、国民投票で頓挫する可能性が出てきた Keystone / Ti-Press

22日のスイス国民投票まで1週間を切った。スイス公共放送協会(SRG SSR)の第2回世論調査によると、企業年金(BVG/LPP)改革、生物多様性イニシアチブ(国民発議)の2件とも、否決される可能性が高まった。

調査機関gfs.bernが実施した2回目の世論調査によると、生物多様性イニシアチブは反対が過半数を上回った。企業年金改革案も、反対が50%に肉薄している。

8月初めの第1回世論調査と比べると、反対は企業年金改革案が12ポイント、生物多様性イニシアチブは8ポイント上昇している。

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企業年金改革が国民投票に 争点は?

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの被雇用者が加入する企業年金(BVG/LPP)の改革案が9月22日、国民投票にかけられる。年金財源を安定化させ、加入対象をパートタイム・低賃金労働者に広げるのが主な目的だ。

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企業年金改革案の投票動向を左右した主な要因は、有権者の政治的志向と政府への信頼度だ。

政治的志向別でみると、左派の緑の党(GPS/Les Verts)、社会党(SP/PS)の支持者や無党派層は反対が多い。リベラル右派・急進民主党(FDP/PLR)、中道・中央党(Die Mitte/Le Centre)、中道・自由緑の党(GLP/PVL)の支持層からは依然大きな支持が集まるが、保守右派・国民党(SVP/UDC)支持者内では賛否が分かれる。

gfs.bernの政治学者マルティナ・ムーソン氏は「反対が増える傾向はすべての政治グループにおいて顕著だ」と分析する。

とはいえ、多くの世論調査回答者は、何らかの対策が必要だと考えており、パートタイム労働者(特に女性)への待遇改善には85%が賛同する。しかし、gfs.bernは、最終的には過半数の有権者の支持は得られないとみる。

調査機関gfs.bernは、2024年9月22日のスイス国民投票に向けた第2回世論調査を実施。8月26日から9月4日にかけて1万3979人の有権者を対象にアンケートを行った。統計上の誤差は±2.8%ポイント。

反対派は、被保険者の保険料は上がるのに受け取る年金額が下がるという点に注力して批判を展開している。世論調査でも55%がこの意見に同意した。ムーソン氏は「現時点で投票動向を左右する最も影響力の強い主張だ」と指摘する。

この改革でみられた有権者の投票動向の変化は珍しいという。通常、政府の政策が国民投票にかけられると、有権者は連邦内閣(政府)や連邦議会の賛否に同調する傾向があるからだ。

ただ先月、政府が年金制度の第1の柱である老齢・遺族年金(AHV/AVS)の将来給付費推計が誤って6%も多く計上されていたと発表外部リンクし、これが奇しくも反対派の追い風になった。

>>財源不安を理由にした遺族・老齢年金改革は2022年の国民投票で可決された

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2022年9月25日の国民投票

今年3度目の国民投票で、スイス有権者は積年の課題だった年金改革を可決。集約畜産の禁止、源泉徴収税の廃止案を否決した。

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ムーソン氏は「この件はメディアが大きく取り上げたこともあり、投票傾向に影響した。だがその影響を定量化することは困難だ」と話す。

また改革案の内容が極めて複雑であることと、誰がどれだけ影響を受けるのかが分かりにくい点も投票動向を左右したという。

生物多様性イニシアチブも不評

生物多様性イニシアチブは、投票日が近づくにつれ反対が増えるという、国民発議によく見られる投票動向をなぞっている。反対は投票キャンペーンの間に強まった。

いかなるスイス市民も、イニシアチブ(国民発議)を起こして憲法改正案を提案できる。それには、10万人の署名を18カ月以内に集める必要がある。その後、提案の是非が国民に問われる。イニシアチブが可決されるには、憲法の改正という重大な決定であるが故に、国民と州の過半数の賛成が必要だ。

>>生物多様性イニシアチブのポイントはこちらの解説記事へ

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スイスの「生物多様性イニシアチブ」は行きすぎ?それとも必要?

このコンテンツが公開されたのは、 9月22日のスイス国民投票で、生物多様性の保護を憲法に明記するイニシアチブ(国民発議)の是非が問われる。自然保護団体が出した提案だが、政府や議会など各方面が反対している。

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世論調査によると、支持政党が賛否を分けた。例えば賛成が多いのは緑の党、自由緑の党の環境政党支持者だ。その他の政党支持者は大部分が反対している。

地域差もある。農村部では反対が63%に上ったのに対し、大都市では大半が賛成した。「この種の提案で見られる典型的な分断だ」とgfs.bernの政治学者ルーカス・ゴルダー氏は分析する。

しかし、2021年国民投票の2件の反農薬イニシアチブで見られた地域差よりは小さく、議論も感情的なものではなかったとゴルダー氏は話す。この2件の投票キャンペーン時は、反対派による殺害予告や中傷、宣伝ポスターが破られるなどの事件があった。

編集:Samuel Jaberg、仏語からの翻訳:宇田薫、校正:上原亜紀子

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