6月のスイス国民投票 「ワクチン接種義務の禁止」とは?
新型コロナウイルスのパンデミックは去ったが、政治的な余波は残る。スイス有権者は6月の国民投票で、再びコロナ対策について是非を問われる。今回は「ワクチン接種義務の禁止」だ。
「ワクチン接種義務の禁止」、どんな内容?
ワクチン接種など、人の「身体的・精神的不可侵性」に介入する際は本人の同意が必要ーーこんな文言を憲法に盛り込むという提案だ。
スイス連邦憲法第10条2項は「すべての人は個人の自由、特に身体的・精神的不可侵性と移動の自由に対する権利を有する」と定める。提案ではここに同意義務のほか、同意を拒否しても罰則を受けたり、社会的・職業的不利益を被ったりしないことを新たに盛り込む。
連邦憲法を以下のように改正する。
第10条第2項2号
人の身体的または精神的不可侵性への介入には、本人の同意を必要とする。同意を拒否することで罰則を受けたり、社会的・職業的不利益を被ったりしてはならない。
スイスの感染症法には一律的なワクチン接種義務を定める項目はない。長期的にそのような措置を取る場合は議会が新法を制定する必要がある。ただ、特定のリスクグループや職業グループに対し、州が接種を義務付けることを認める項目はある。
スイスではパンデミック下の2020年末からワクチン接種が始まった。接種は任意だったが、多くの公共・民間施設でCOVID証明書(ワクチン接種、回復、り患済み)の提出が義務づけられた。
提案の正式名称は「自由と身体的完全性のために」(通称「ワクチン接種義務の禁止」)イニシアチブだ。2021年末、国民投票に必要な分の署名と共に連邦内閣事務局に提出されたが、既に大半の制限措置は終了しており、連邦内閣(政府)は翌22年2月、残るほぼ全ての制限措置を撤廃した。
いかなるスイス市民も、イニシアチブ(国民発議)を起こして憲法改正案を提案できる。それには、10万人の署名を18カ月以内に集める必要がある。その後、提案の是非が国民に問われる。イニシアチブが可決されるには、憲法の改正という重大な決定であるが故に、国民と州の過半数の賛成が必要だ。
イニシアチブを立ち上げたのは?
市民団体の自由運動スイス(FBS)だ。同団体はパンデミック前の時点で既に類似のイニシアチブを計画していた。2021年12月16日に出された今回の提案には、12万5000筆超の有効署名が集まった。
誰が反対している?
連邦議会両院と各院の法務委員会は有権者に対し、否決票を投じるよう勧告した。これに反対・棄権したのは保守・国民党(SVP/UDC)会派だけだ。連邦内閣も提案に反対を表明し、対案も出ていない。
反対委員会が結成されるまでに比較的時間がかかったが、これは可決の見込みがほぼないとみられたからだろう。中道・自由緑の党(GLP/PVL)のベアト・フラッハ上院議員が単独で立ち上げた反対委員会には、(国民党を除く)主要政党の複数の議員が名を連ねる。
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国民発議への反対キャンペーンを個人が主導するのは極めて異例だ。通常は政党や団体が協働する。今回はそれがなく、フラッハ氏が先頭に立った。「連邦議会と議会がイニシアチブに反対するなら、誰かが投票キャンペーンでそれを代表しなければならない」
賛成派の意見は?
FBSのリヒャルト・コラー代表は、イニシアチブ提起の理由を「自らの身体をコントロールする権利を否定することは、奴隷制度以来の人類史上最大の犯罪だ」と説明する。
報道によると、コラー氏はこのままでは将来、ワクチンだけではなく「チップやデジタルコード」も皮膚下に埋め込まれたり、注入されたりする可能性が出てくると危惧する。ビル・ゲイツ氏や世界保健機関(WHO)などがその動きをけん引しているとし、政治家たちが国民に対してますます権威主義的な行動をとるようになるという。
反対派の主張は?
連邦内閣は、提案の文言が「ワクチン」に限定されていない点を問題視する。可決されれば刑事訴追や児童・成人保護など、社会のさまざまな分野に法的不確実性をもたらす可能性があるという。また現行法ではそもそも、いかなる人も本人の意志に反してワクチン接種を強制されることはないという。
議会では、この提案は文言が漠然としすぎており、間違った憶測を呼ぶとして「失敗」と評された。国民党からは対案を出すべきとの声も上がったが「失敗のイニシアチブを修正することは議会の役割ではない」と却下された。
編集:Balz Rigendinger、独語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子
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