インターネットなど情報技術を通して市民が積極的に政治に参画する「eデモクラシー」は、直接民主制の代表国スイスでどれほど浸透しているのだろうか?ネット上の政治広告、フェイスブックが支えるeデモクラシーの問題点、今後の傾向について、政治学者でネット活動家のアドリエンヌ・フィヒター氏に話を聞いた。
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Thomas Wälti, influence.ch, influencer.ch
スイスインフォ: PolitikAdsとは何ですか?
アドリエンヌ・フィヒター: PolitikAdsとは政党がフェイスブックやツイッターに出す広告のことで、内容はユーザーに応じて変えられている。
スイスインフォ: なぜ#PolitikAdsというアクションを起こしたのですか?
フィヒター: このアイデアは、今秋刊行予定の自著「Smartphone-Demokratie(仮訳:スマートフォン・デモクラシー)」の執筆中に浮かんだ。米国や英国では特定層向けのターゲティング広告を使った政治運動について議論が繰り広げられているが、スイスではまだあまり話題になっていない。フェイスブックは現時点で、そのような政治広告に対する透明化の必要性はないとみている。だが、PolitikAdsはネット上でしか存在せず、その内容は記録されないため、私は個人的に問題だと思っている。
スイスインフォ: 詳しくお聞かせださい。
フィヒター: ネット上の政治広告内容はターゲット層に常時合わせられている。従って、フェイスブックやツイッターで表示される内容はユーザーによって異なる。政党にとって、ターゲット層に特化したメッセージを発信できることは歓迎すべきことだ。しかし、メディア関係者および研究者がこのような個人に特化した広告を追跡できないことは問題だ。フェイスブックも政党も、ネット上の選挙広告を記録する義務はないと考えている。私はそこに異議を唱える。私は、ネット上で政治広告を受け取る度にスクリーンショットでその広告を保存し、ハッシュタグ#PolitikAdsを付けてネット上で拡散している。
スイスインフォ: あなたは政党に対し、広告費、広告媒体、ターゲット層についての情報を公開するよう求めています。さらにSNS上の政治広告の透明化に関する特別ルールの策定を目指しています。なぜそのようなルールが必要だと考えますか。また、どのような政治的意図がそこにはあるのでしょうか。
フィヒター: 私は徹底的な透明性を望んでいる。フェイスブックは誰もが利用可能な広告ツールだ。そこでは美容師、パン屋、政党も皆同じ扱いだ。私たちが今議論すべきなのは、美容師やパン屋に適用される広告のルールを政治にも適用してよいのかという点だ。また、スイス(の直接民主制)では誰もが同じ情報を得るべきだとされている。フェイスブックと政党が政治キャンペーンを記録に残さない限り、私たちはそれに異議を唱え続けなければならない。そのため、私は政党に対し、政治広告の内容を明らかにし、開示するよう要求している。それが実現すればメディアや研究者は各政党の主張を比較できるようになるだろう。
スイスインフォ: あなたのアクションに対するこれまでの反応は?
フィヒター: ネット上のコミュニティーの反応は良好だ。特にドイツからの反応が良かった。一方スイスでは、緑自由の党以外の全ての政党から否定的な反応が返ってきた。左派と右派の代表は「あなたの取り組むテーマは間違っているし、取るに足りないものだ」と批判してきた。
著名な政治学者たちは、私の取り組みは間違ってはいないと言うものの、影響力の大きさから、さほど意義がないテーマだと見なしている。だが私は政治広告の効果に関して議論したいのではない。フェイスブックがeデモクラシーに影響を与えていることを示したいのだ。これはスイスの民主主義への攻撃だと私は考えている。果たしてこのままでよいのだろうか?自分たちで新しいルールを作った方がよいのではないだろうか?
アドリエンヌ・フィヒター氏(Adrienne Fichter)略歴
1984年生まれ。ルツェルン出身の政治学者でネット活動家。フリージャーナリストとしてスイスインフォ(#DearDemocracy)、有力紙NZZ、通信大手Swisscom、インターネット広告代理店Liipで活躍。
今秋からザンクト・ガレン単科大学で継続教育コース「デジタル・パブリックコミュニケーションとサービス」のコース長に就任。
ブログやツイッターで精力的に情報を発信している。
2016年にNZZのソーシャルメディア部長を辞任。今秋に著書「Smartphone-Demokratie(仮訳:スマートフォン民主主義)」(NZZ Libro出版)が刊行予定。共著者の一人は、著名なドイツ人政治顧問のマルティン・フクス氏。
www.adfichter.ch外部リンク
www.politikviernull.com外部リンク
スイスインフォ: そうした反応に驚きましたか?
フィヒター: 私と同じく透明化を目指す左派が、私から攻撃されていると感じていることにはとても驚いた。左派は「透明化を目指すのなら政治献金に圧力をかけるべきだ。ターゲティング広告を攻撃の対象にするべきではない」と言ってきた。
スイスインフォ: あなたの取り組みが評価されることもありましたか?
フィヒター: ドイツとオーストリアのメディアで多くの賛同を得た。これらの国ではこのテーマに対する世間の反応がスイスよりも敏感だ。昨秋の米大統領選挙ではドナルド・トランプ氏がフェイスブックで強力な広告キャンペーンを繰り広げた。それにも関わらず、スイスでは大半の政治家がこのテーマの重要性をまだ認識していない。
スイスインフォ: ネット上の政治広告にはアナログ媒体とは違うルールを適用すべきでしょうか?
フィヒター: インターネットでもアナログでも等しく透明性が求められるべきだ。アナログ媒体の広告は記録されている。街中に掲げられた選挙ポスターがその例だ。だがネット上の政治広告には報告義務がないため、全く記録されない。
スイスインフォ: あなたはツイッター上で「いつまで私たちはフェイスブックが支えるeデモクラシーを続けていくつもりなのか?」と警告しています。民主主義はすでにフェイスブックなどのSNSに操作されているのでしょうか?それともSNSは従来の媒体と並存する単なる新しい媒体に過ぎないのでしょうか?
フィヒター: それには各国の事情を踏まえる必要がある。政治議論はフェイスブック上で行われている。それはフェイスブックがこの数年間でメディア各社の記事にかなり投資してきたことと関係がある。オンライン記事がフェイスブックのニュースフィード表示アルゴリズムで優先された結果、NZZ、ターゲス・アンツァイガー、シュピーゲル・オンライン、ニューヨークタイムズなどのメディアはフェイスブック上で驚異的なクリック数を獲得できた。そのため、フェイスブックでメディアの記事を読む人が増え、記事がコミュニティー内で話題にされることが多くなった。
それに加え、フェイスブックが民主主義の実験をしていることを多くの人が知らない。2010年の米連邦議会議員選挙では、被験者グループのフェイスブックのプロフィールに選挙関連ボタンが一つ登場した。別の被験者グループにも同じボタンが表示されたが、そこには追加で、友達のクリック行動に関する内容も表示された。フェイスブックはこの実験を通し、社会心理学的なグループ圧力を生み出そうとしていた。フェイスブックはその後、この方法により34万人分の票が生まれたと主張した。この実験は注目に値するものであり、選挙にも関連するものだ。フェイスブックは内々の研究実験を通し、自社にどれだけの力があるのかを探ろうとしている。もちろん、そこには透明性など微塵もない。
ツイッターのメカニズムはそれとは異なり、オープンなインターフェースがある。そのため、研究者はツイッター上のデータを収集し、測量できる。一方、フェイスブックはブラックボックスだ。スイスのように国民投票が多い国ではなおさら、私たちがeデモクラシーについて考えてみるべきではないかと思う。「フェイスブック製フィルター・アルゴリズムに取って代わる透明性」をモットーに、政治テーマを扱うネットワークを公的資金で作るのはどうだろうか。
スイスインフォ: あなたの新著に関してお聞きします。「スマートフォン・デモクラシー」、つまりeデモクラシーがアナログの民主主義と違う点は何ですか?
フィヒター: 先に述べた「個人化」だ。フェイスブックのニュースフィード・アルゴリズムは、私の考えや世界観が正しいことを立証している。私が自分と同じような考えを持つ人とテーブルを囲む時以上にその感触は強力だ。しかし、フェイスブックが民主主義にプラスに働いてきたことも確かだ。例えば反対運動で人を動員するときは有益だ。しかし、誰が何を発言し、私たちがどうやって互いに反応するのかという点では、eデモクラシーはアナログの民主主義とは明らかに異なる。なぜならネット上では他人の目に触れずに、特定の個人に向けて文章を送信できるからだ。
スイスインフォ: eデモクラシーは今後どのように発展していくのでしょうか。またスイスはどの段階にいますか?
フィヒター: eデモクラシーは今のところフェイスブックの力を借りている。スイスには、総人口のほぼ半分に相当する約400万人のフェイスブックユーザーがいる。しかし従来のメディアの影響力も依然高い。フェイスブックのコミュニティーが今後大きくなることは明らかだ。私は「スイスメイド」のeデモクラシーを普及させたい。私たちが考えていかなければならないのは、「特定の倫理ルールを適用させ、スイスの直接民主制に合わせた形で、新しい技術、ソフトウェア、ネットワークを広めていくにはどうすればいいのか」という点だ。私たちはなぜこのプロセスを逃してしまったのだろうか。eデモクラシーに関して言えば、スイスは発展途上国だ。
スイスインフォ: 現在はどの国でうまくいっていますか?
フィヒター: フランス、スペイン、ポルトガルでうまく機能している活動やネットワークがたくさんみられる。中央集権的なこれらの国では、オンライン、オフラインに関わらず、市民が自治体の支出の大部分に関し議論している。パリ、マドリード、バルセロナでは市長が月に1回、10件の緊急課題に関し住民と解決策を話し合っている。そこでの提案は自治体政府に送られ、実現化される。こうした制度はスイスにはない。
スイスインフォ: ではうまくいっていない国はどこですか?
フィヒター: 強権的な国だ。中国では政府がSNSを監視し、国民のSNSでの行動に強い影響を及ぼしている。その検閲は細部に及ぶ。だが環境分野などではSNSを機に改革が行われることもある。
スイスインフォ: 個人的にどのSNSをよく使いますか?
フィヒター: 主にツイッターだが、リンクトインもよく利用するようになった。ツイッターはオープンで面白いSNSだ。スイスではツイッターがなければ出会えなかったような人たちと多く知り合うことができた。ツイッターでは政治的な理由よりも、興味関心からユーザーが互いにフォローし合う。フェイスブックではユーザーの行動は異なる。大抵の場合、初めにアナログの友人関係があり、それがフェイスブックへと引き継がれていく。リンクトインは内容の関連性がより重要視される。残念ながらフェイスブックもよく使っている(苦笑い)。
スイスインフォ: 今後の傾向は?
フィヒター: 私たちはフェイスブックというエコシステムに1日に2時間以上を費やしている。一つの大企業が私の時間をそれほど独占することに恐れを感じる。フェイスブックにその責任を負わそうとは思わない。この状況を変えるかどうかは私たち次第だからだ。私たちの消費活動を今一度見直さなければならない。
聞き手:トーマス・ヴェルティ
このインタビューは2017年7月7日に情報サイトinfluence.chで初掲載されたものです。外部リンク
(独語からの翻訳・鹿島田芙美)
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スイス国家を根底からデジタル化する――。そんな野心を抱くダニエル・ガシュタイガー氏は、シビックテクノロジーの分野で第一線を走る元投資銀行家だ。自分を安直だと表現するが、その安直さこそが彼の目標を実現させるのに必要なのかもしれない。
「地元ラジオ局の記者が、なぜ私があえてこの小さなシャフハウゼン州と協働しているのかと聞いてきた。答えは簡単だ。同州が革新的だからだ」とガシュタイガー氏は言う。
同氏は「ファーストムーバー」と新しく呼ばれている先駆者たちに興味を引かれる。自身もその一人だと認識しているからだ。ブロックチェーン分野に特化した同氏のスタートアップ企業Procivisは先日、州民向けの電子証明書サービスのシステムをシャフハウゼン州と協働で構築していくことを発表した。
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ツイッターを理解するスイスの政治家は誰か?
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世界中でツイッターが話題になっている。ドナルド・トランプ新米大統領が頻繁にツイートし、そのツイートが時に物議を醸していることがその背景にある。ツイッターはスイスの下院議員からも人気があるが、彼らの使い方は一方通行のコミュニケーションで留まっている。国民の声に真剣に耳を傾けている政治家は誰だろうか?その答えは、スイス初の「会話ツイート率ランキング」に隠されている。
トランプ米大統領のツイートは彼の政治姿勢をよく表しているが、下のツイートでは司法を嘲笑している。
2017年現在、スイスの政治家でツイッターアカウントを持つ人は少なくない。下院議員の多くは重要な知らせをツイッターで告知したり、選挙活動を写真つきで紹介したりしている。
また、怒りのはけ口として使っている政治家もいる。下のツイート(ドイツ語)はエリック・ヌスバウマー下院議員(社会民主党)の投稿文だ。
連邦議会の会期は年4回あるが、会期中はツイッターの利用が特に盛んだ。スイスのツイッター利用者の間で定評のあるハッシュタグ「#parlCH」では、下院議員たちが今の政治課題について常時コメントしている。連邦議会での採決結果が気に入らなければ、その不満をツイッターでぶちまける議員や、ライバルの政治家が意外な行動に出た時にスマートフォンで写真撮影する議員もいる。
下のジャクリン・バドラン下院議員(社民党)によるツイート(ドイツ語)は、連邦議会の中で国民党会派がプラカートを用いてデモをした時の様子を述べたものだ。
ツイッターが政治家たちの間で人気なのは明らかだが、その主な理由は、ツイッターを介せばメディアに簡単に接近できるためだ。「ツイッターは情報を拡散するネットワークとして力があり、多くの記者が利用している」と、インターネット上のコミュニケーションに詳しいマリー・クリスティーヌ・シンドラー氏は話す。
このミニブログ(マイクロブログ)が議員にとって中毒性があることは知られている。右派・国民党のナタリー・リックリ下院議員は12年にバーンアウトになった。「仕事、政治、フェイスブック、ツイッター…。私はいつも必死だった。画面を消してリラックスすることはほとんどなかった」。同氏はフェイスブックにそう書いた後、しばらくソーシャルメディアから姿を消した。現在は活動を再開しており、「影響力の強い下院議員ランキング」では第3位につけている。
ここで言う「影響力」は権力や政治的議論の中で意見を押し通す力のことを指しているわけではない。「影響力の強い下院議員ランキング」は、近頃定評を得ているが異論もあるランキングで、ソーシャルメディアに特化した代理店「Kuble」の専門家がいわゆるクラウトスコアを用いて政治的影響力を測定したものだ(下のインフォボックス参照)。だがクラウトスコアや、例えばフォロワー数などの指標が、政治家たちのソーシャルメディアへの理解度を表しているとは言えない。
なぜならツイッターやフェイスブックは特に会話形式のツールであって、モノローグのツールではないからだ。「私が見たところ、政治家の多くがソーシャルメディアを誤解している。ソーシャルメディアは従来のマスメディアのように、まず何かを告知するための道具として使われている」と、ジャーナリズム専門学校MAZオンラインコミュニケーション科のクリスティアン・シェンケル学科長は話す。
ツイッターが誕生して10年以上たった今でも、政治家たちはソーシャルメディアを通してのコミュニケーションが発信者と他のユーザーとのやり取りから成り立つということをあまり理解していない。公の場に立つときと同様にインターネット上でもメッセージをただ送るだけという人は多いのだ。政治家たちのソーシャルメディアへの理解度を知るには、彼らがインターネット上でどれだけ他のユーザーと「会話」をしているのかを調べるのが適している。そこで、スイスインフォはクラウトスコアの数値が最も高かった下院議員50人のツイッタープロフィールを評価し、「会話ツイート率ランキング」を作成した(評価方法については下のインフォボックス参照)。
ツイッターをよく活用する政治家たちは、フォロワーとのやりとりに快く応じているのだろうか?ランキング第1位の政治家を見ると、どうやらその通りのようだ。
最も影響力の強い下院議員のフィリップ・ナンテルモ氏(急進民主党)は同時に最も議論好きな政治家だ。ヴァレー州出身で32歳の同氏の「会話ツイート率」は59%で、ユーザーの質問や意見に最も多く反応していた。「会話ツイート率ランキング」で第1位に選ばれたことは嬉しいという。
ソーシャルメディアで発信するからには、読者からの反応に対応していかなければならないと、ナンテルモ氏は強調する。他のユーザーとの会話は同氏にとって欠かせないものであり、そうした会話こそが「政治の基本」だという。「街で人から挨拶されたり、質問されたりしたとき、普通は素通りしないものだ。インターネット上だからといって、いつもと違う振る舞いをする必要があるのだろうか?」(同氏)
保守派のナンテルモ氏は例えば下のようにフォロワーとメッセージ(フランス語)のやり取りをしている。
だが、スイスインフォのランキングで2位以降についた政治家たちのほとんどが、「影響力の強い下院議員ランキング」での順位と対応していない。つまり、クラウトスコアの数値的にはユーザーへの影響力が高い政治家であっても、その人がほかの人の意見に耳を傾けているわけではないのだ。ナンテルモ氏と同じ姿勢の政治家には、例えばチューリヒ出身のミン・リ・マルティ下院議員(社民党)がいる。「影響力の強い下院議員ランキング」で7位につけた同氏は、全ツイートのうち会話ツイートが54%を占めており、他のユーザーとの会話率が平均を上回っていた。「意識してそうしている。会話のないソーシャルメディアは意味がないように思える。私が無視するのは、誹謗中傷や荒らしだ」(マルティ氏)
一方、ツイッターでフォロワーと会話をする意志のない下院議員はマティアス・エビッシャー氏(社民党)と、マルティン・カンディナス氏(キリスト教民主党)だ。スイスインフォの評価で最下位だった両氏は、ツイッター上ではフォロワーから高い反響を得ているが、こうした反応には興味がないようにみえる。
これについてエビッシャー氏は、時間の都合や戦略的な考えをその理由に挙げる。「特に意識的にそうしており、初めからこうした態度を取ってきた。私が返事をする際はEメールを使う。ツイッターやフェイスブックに虚偽のコメントがあった場合は別だが。例えば、私が欧州連合(EU)支持派だと誰かが主張したときなどだ。しかし、たいていの場合は私の代わりに他のユーザーがそうした発言に対応している」
カンディナス氏もあえてソーシャルメディア上での会話を避けている。「それを始めてしまうと、皆がそれを期待するし、議論を始める人が増えてしまう。こうしたことに対応する時間が私にはないのだ」
だが、ソーシャルメディアで他の人からの意見に応じないままでいると、長期的にはその人の評判に傷がつくかもしれないと、MAZでジャーナリストの養成に携わるクリスティアン・シェンケル氏は話す。ただ、ソーシャルメディアで他のユーザーとやりとりを続けていくには多大な時間を費やす必要があると、同氏は認めている。
オンラインコミュニケーションに詳しいシンドラー氏も、政治家がコミュニケーション戦略としてあえてソーシャルメディアで発言を控えることは一理あると考える。例えば、ツイッターでは投稿文の文字数が140文字に制限されているが、その枠内では政治問題について適切な発言ができない場合があるからだ。「ツイッターと政治をいつもうまく組み合わせられるとは限らない。テーマの多くは複雑で、少しの文字では扱えない。また、荒らしがあると政治家の負担がさらに増えてしまう」(シンドラー氏)
スイスの政治家たちにとって、ネット上でのコミュニケーションの中心がEメールであることは、この記事を執筆するに当たってのリサーチの過程でも明らかになった。こちら側の問い合わせに対し、全ての下院議員は15分以内に返事をくれたのだ。筆者について
アドリエンヌ・フィヒター氏はスイス主要紙NZZのソーシャルメディア編集部編集長を務めた後、現在はインターネットを専門分野としたフリージャーナリストとして活動している。
スイスインフォの特設ページ「直接民主制へ向かう」では、デジタル技術が直接民主制の制度や手続きに与える影響についての記事を担当。
特に重視するテーマとしては、ソーシャルメディアが選挙や投票に与える影響、インターネット上での市民運動、電子政府、シビック・テクノロジー、オープンデータがある。
悪質なフェイクニュースやボットが登場し、ドナルド・トランプ氏がツイッターを過度に政治利用している今の時代、デジタル化を巡る政治的議論の意義はますます重要になっている。
スイスインフォは「直接民主制へ向かう」で、デジタル時代の直接民主制にまつわるトレンド、チャンス、危険性、政治的反応に焦点を当てていく。
評価方法
スイスインフォはスイスの下院議員50人が2016年6月1日から17年1月17日の間に行ったツイッター上での会話(ユーザーとのやりとり)を評価。調査対象者は、クラウトスコアで最も高い数値だった下院議員。クラウトスコアとは、ツイッター上の影響力を数値化した指標だ。
会話力の比較では、分析ツール「FanpageKarma.net」が定義する「会話」を評価基準とし、全ツイートのうち@で始まるリプライの占める割合、つまり他のユーザーとのやりとりを目的にしたツイートの割合を評価した。
会話率が高いほど、その議員は他のユーザーと直接やり取りをする頻度が高いことになる。
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