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IAEAの調査団がスイスの原子力安全監視機構を査定

ライプシュタット原子力発電所の原子炉圧力容器 Ex-press

11月末からスイスを訪問していた国際原子力機関(IAEA)の調査団は、スイスの連邦核安全監督局が福島第一原発事故を受け、自国内で直ちに適切な対応を行ったと評価した。

調査団は、「IRRS(Integrated Regulatory Review Service /IAEAが加盟国に提供する、各国の原子力の安全規制に関する法制度、組織についての総合的な評価)」を行うためにスイスを訪問した。

 専門家24人は2週間の集中調査を行い、最終日の2日にその結果を発表した。

称賛

 14カ国の規制機関を代表するIAEAの専門家は、スイスの連邦核安全監督局(ENSI/IFSN、以下監督局)の専門家と討議を行った。彼らはさらにスイス国内の原子力発電所5カ所のうち2カ所を訪問した上、もう1カ所の原子力発電所で緊急訓練も見学した。

 「私たちは、監督局が任務を遂行する際の方法について良い印象を受けた」と調査団の団長ジャン・クリストフ・ニール氏は記者会見で語った。

 特にニール氏は、福島第一原発事故の後に監督局が非常用安全装置の中央保管施設を設置し、ベルン州のミューレベルク(Mühleberg)原子力発電所の安全性を向上させるなどの対応策を称賛した。

「優れた実践」

 さらに調査団は、スイスの安全規制システムが実施している19項目の「優れた実践」はIAEAの全加盟国に推奨できるものだと強調した。

 監督局の管理システムは特に優れており調査団のメンバーにとって良い刺激になったとし、ニール氏は次のように語った。「監督局の内部の人間の情報収集方法が非常に効率的なため業務遂行が容易に行われている」

 またスイスでは原発を稼働するために、装置の性能と安全手続きの継続的な向上が義務付けられており、調査団はこれも高く評価した。

 さらに監督局はスイスの原子力発電所の安全性についての調査と査定をネット上で公開している。それらの情報に表れている組織の開放性と透明性も高評価を得た。

推奨事項

 しかし調査団からは推奨事項も発表された。ニール氏はそのうちの一つとして、原発の稼働許可や法的な規制事項などを、監督局が独自に断行することができるよう法的な権限を与えられるべきだと述べた。

 また、福島第一原発事故の発生を受けて、スイスは原発の段階的な廃止を決定したが、調査団は優秀な人材を揃えるよう提言している。

 「スイスの原発の情勢がどのようなものであれ、安全性を管理する優秀な人材を充分に揃える必要がある。この点がスイスで問題になっているかどうかは知らないが、これは十分検討すべきだ」とニール氏は語った。

 一方、監督局のハンス・ヴァンナー局長は、調査団の調査結果を歓迎し、業務のさらなる向上のために協力を惜しまないと述べた。

問題回避

 しかし、全員がこの調査結果に感心したわけではない。国民議会(下院)の安全保障政策委員会のメンバーで、スイス・エネルギー財団の会長でもある緑の党(Grüne/Les Verts)のゲリ・ミュラー氏はIAEAの調査を批判する。

 「これは仲間内の調査だ。自分の友達がやっていることを調べているに過ぎない。調査団の団長はフランスの核安全委員会の会長だ。フランスの原発は壊滅的な状態にある。従って、スイスの原発が大丈夫と言うならば、スイスの基準はフランスと同じということになる」

 さらにミュラー氏は、国際基準に違反した場合についての質問を調査団に送ったが返答を得られなかったと説明する。それらの質問に対する応答は調査団の権限の範囲外にあるというニール氏の説明に対してもミュラー氏は批判的だ。

 「つまり、最重要事項は調査結果に含まれないということだ」とミュラー氏は肩をすくめた。

経験からの学習

 「仲間内の調査」によって、部外者は自分たちの関心事が取り上げられないと懸念を感じているかもしれない。しかしIAEAは、調査団の訪問を専門家が互いに直接会って知識と経験を交換する重要な機会と考えている。

 IAEAの原子力施設安全部のジム・リオンズ部長は、調査団訪問の広義を説明する。

 「調査団の訪問には二つの効果がある。まず、受け入れ国がほかの国の規制機関の意見を聞くことができるという利点がある。そして、それらの規制機関も受け入れ国だけでなく、討議に参加したほかの国々のやり方を学び、取得した情報を本国へ持ち帰り、自国の手法の改良に役立てることができる」

 しかし調査団を招聘(しょうへい)するかどうかは、受け入れ国となる加盟国次第だ。また推奨事項には拘束力がないばかりか、実際に効果があるかどうかは分からない。例えば、推奨事項を実行していたとしたら福島第一原発事故は防げただろうか。

 2007年に調査団は日本を訪問したが、その後通常行われるはずの継続調査は行われなかった。地震と津波が発生した当時、日本の規制機関は推奨事項を実施していなかった。

 しかし今後日本に変化が起きる可能性はある。新しい規制機関が来春発足し、調査団の訪日日程の調整が進行中だ。

スイスでは現在以下の5基の原子炉が、国内の電力総需要の約40%を供給している。

ベツナウ(Beznau)第1原発:稼動開始1969年
ベツナウ(Beznau)第2原発:稼動開始1972年
ミューレベルク(Mühleberg)原発:稼動開始1972年
ゲスゲン(Gösgen)原発:稼動開始1978年
ライプシュタット(Leibstadt)原発:稼動開始1984年

2011年3月に起きた福島第一原発事故を受けて、スイス政府は2019年から2034年の間に全基を廃炉にすることを決定した。

  

段階的な脱原発のコストは22億フランから38億フラン(約1848億~3192億円)と推定されている。

政府によると、現在原発によって生産されている電力は、水力発電、再生可能エネルギー、ガス発電などそのほかの方法を併用して代替生産する予定。

連邦核安全監督局(ENSI/IFSN、以下監督局)は、原子力と原子力発電所の安全性を監督する規制機関。核の安全性に関する国際条約およびスイス核エネルギー法によって、設立を義務付けられた独立機関。監督局の理事会はスイス政府の直接の管理下にあり、スイス政府が選任する。監督局の本部は、スイス北部のアールガウ州のブルック(Brugg)に位置する。スイスは、西ヨーロッパでIRRS(Integrated Regulatory Review Service)の調査団による査察を初めて受け入れた国。1998年に調査団が初訪問し、2003年に継続調査が行われた。

IRRSの調査団は、国際原子力機関(IAEA)の管轄下にあり、各国の原子力規制機関をモニターする。

10~20人の専門家から構成される調査団は、加盟国の招聘(しょうへい)に応じて訪問する。

調査団は、受け入れ国に対して核の安全性の向上についての勧告を出すと同時に、受け入れ国の「優れた実践」の例をほかのIAEA加盟国に伝える。

調査団は、数多い加盟国の中でも原子力技術の最も発達した加盟国の規制機関の専門家で構成される。

調査団の訪問は通常10年おきに行われ、2年後に継続調査が行われる。 

(英語からの翻訳、笠原浩美)

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