IWC総会に出席するスイス
国際捕鯨委員会の総会が6月21日から5日間にわたって、モロッコのアガディールで開催される。スイスは内陸国であるが、加盟国として担当の連邦経済省獣医局と外務省政治部から2人の代表を送る。
スイスは「自然資源の持続性」を最大限に配慮した捕鯨管理を主張し総会に臨む予定だ。
モラトリアムから枠組み撤廃提案へ
国際捕鯨委員会 ( IWC ) はクジラ類を自然資源として管理する目的で1948年、イギリのスケンブリッジに創立された。スイスは内陸国10カ国の一つとして1980年に加盟した。なお日本は1951年から加盟している。
1972年、商業を目的とした捕鯨を10年間禁止するモラトリアムが可決されたが、その後、モラトリアムの科学的根拠に疑問が残るという理由で、IWCはモラトリアムの提案を拒否した。しかし、その後もモラトリアムを継続させる提案が何度も提出され、1986年には商業捕鯨のモラトリアムが採択されて現在に至っている。
現在、捕鯨国のアイスランドとノルウエーなどはモラトリアムを保留という形で捕鯨を続けている。また、日本は調査を理由に挙げ、主にミンククジラを対象とした捕鯨を続けている。
今回の総会に向け4月22日には、総会の議長・副議長案として、調査捕鯨の枠組みを撤廃し、南極海、北太平洋など地域別に捕獲頭数を管理し、捕鯨を徐々に減らしていく提案が提出された。
持続性を第一に
意見の対立が長引くIWCだが、議長・副議長からのこうした提案も出たことで
「議論の環境は良くなってきている。今回の提案は、捕鯨国と捕鯨反対国、両者の主張が盛り込まれている」
と連邦経済省獣医局 ( BVET/OVF ) の広報担当官、マルセル・ファルク氏は評価した。
今回示された提案に対し、捕鯨の全面的禁止を主張するスイスの団体「オーシャンケアー (Ocean Care ) 」などからは「商業捕鯨を認めることになり、結局は捕獲頭数を減らすことにはならない」という意見も出ているが、スイス政府はこの提案を「正しい方向をもたらすもの」と支持するという。
スイスが最も重視するのは、自然資源であるクジラの持続性だ。そのためには、調査捕鯨の枠組みを外すか否かということはあまり重要ではないという。ノルウエーやアイスランドなどの一方的な商業行為には反対だが、これまで保護の対象となっている34種類から小クジラを含む90種類に広げ、さらに地球全体で見るのではなく、地域それぞれの持続性を守ることを主張している。
民族的また歴史的な観点から食習慣や食文化の多様性を支持し、捕鯨を支持する意見に対しファルク氏は、絶滅の危機にあったアルプスアイベックスを例に挙げている。
スイスでは以前、( ヤギ亜科の ) アルプスアイベックスを食べる習慣があり、その角は商品となっていた。しかし、絶滅の危機にさらされたため、スイスの古くからの食習慣を改め、外国からアイベックスを再び招き入れることで、絶滅を避けることができた。
「このように、持続性のためには人間の文化を変えることは可能だ。持続性のためには社会が変わることが必要であり、それは可能なことだ」
とファルク氏は主張する。
科学的データを論議の基盤に
持続性についての判断は、科学的データを元にこの問題に取り組むべきだという。そのためにはすでにIWCから提案されている、データの取り方の基準の合意が前提となる。
「科学的データを元にした討論での意見の対立は政治的討論より小さく、歩み寄りもしやすい」
とファルク氏。例えばミンククジラは科学的データから絶滅の危機にはない種類のクジラなので、捕獲は認める立場だ。
スイスと捕鯨の関係は浅い。しかし、内陸国のスイスがIWCに出席することは「利害の外にある国として、その主張は信頼できるものとして捉 ( とら ) えてもらえる。スイスが持つ1票はそういった意味で重要だ」
今回のアガディールでの総会で議長案への合意が達成されれば、クジラの持続性へ1歩進むことになるだろうが、見通しは厳しい。市民からの意見書なども多く届くという連邦獣医局。「クジラは魅力ある動物の一種類として、スイス市民の関心は高い」という。
佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、swissinfo.ch
捕鯨管理の基準は最新の科学的なデータを元にして、数や捕鯨方法を決める。 国際捕鯨委員会 ( IWC ) が提案する先住民生存捕鯨を支持する。
ノルウエーやアイスランドが主張する一方的な商業捕鯨は認めない。
日本の調査捕鯨については、可能な限り殺さなくともよい方法を支持。南極海での調査捕鯨は禁止とする。太平洋で捕鯨の対象となる種類を増やさない。
クジラの管理対象をこれまで34種類から90種類に広げる。
環境汚染を配慮した捕鯨を進める。
保護地域については、科学的データに基づき意味があると判断された場合に設定する。
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