ひきこもり、カイロス、週休3日…スイスのメディアが報じた日本のニュース
スイスの主要報道機関が先週(12月9日〜15日)伝えた日本関連のニュースから、①日本だけじゃない、ひきこもり②注目浴びる民間ロケット③保育料無償、週休3日 東京都の少子化対策、の3件を要約して紹介します。
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日本だけじゃない引きこもり
自室に籠り、自ら社会生活から断絶する「ひきこもり」。Hikikomoriの語とともに日本特有の現象として世界に知られていますが、ドイツ語圏の大手紙NZZは今や「西洋にも広がりつつある」と報じました。
日本で「ひきこもり」という語が登場したのは、心理学者の斎藤環氏が指摘した1990年代。記事は「ひきこもりは日本だけで発生するものではない、という認識が確立されつつある」と指摘したうえで、「西洋諸国では、ひきこもりは社会不安やうつ病の極端な形態としてみなされることが多い」と日本(や韓国)との違いを説明しました。
日本のひきこもりの要因について、記事は「共存や社会構造にある」と解説。「日本では、就学前から社会的状況において適切に行動することが非常に重視される」。出る杭は打たれ、いじめが起こり、夏休みの終わる直前に十代の自殺が発生しやすいことも説明しました。
「Komoriには『充満している』との意味もある。多くの疑問に満ちた大人への道を歩む若者は、文字通り、社会や義務、満たさなければならない高い基準にもううんざりしてしまう」ことも、ひきこもりの一因となる、と記事は分析しています。
ひきこもりを脱するにはどうすればいいのか?スイスでこの答えを研究している数少ない学者として、NZZはチューリヒ応用科学大学(ZHAW)のミケーレ・ピッツェラ外部リンク氏を紹介しました。同氏の研究では、オンラインゲームやオタク文化は「直接の社会的交流を避けながらも外の世界とのある程度の接触を維持できる」手段として、解決策の1つになることが示唆されています。
記事は「ひきこもりは、その特殊な形では日本特有の現象かもしれないが、若い世代に対するプレッシャーの増大のバロメーターとして、世界レベルの問題も示している」と総括しています。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
注目浴びる民間ロケット
東京のベンチャー企業「スペースワン」が開発した小型ロケット「カイロス2号機」の打ち上げ成否が、スイスのフランス語圏で注目を浴びています。打ち上げ予定日前の13日には予告記事が、15日には実験が延期になったことが地域紙トリビューン・ド・ジュネーブや無料紙20min.フランス語版などで報じられました。いずれも仏AFP通信からの転載です。
カイロス2号機の位置づけについて、13日の記事は「成功すれば、世界の宇宙打ち上げサービス市場での役割拡大を急ぐ日本の野心を後押しすることになる」と紹介。官製ロケットより「安価で頻繁に宇宙探査ができる」強みがあり、スペースワンは「NASAや米国防総省と契約を結んでいるイーロン・マスク氏のスペースXを模倣したい」と説明しました。
ただしコロナ禍やウクライナ戦争により部品供給が滞ったため、打ち上げを既に5回延期しています。3月には1号機が打ち上げ直後に爆発したことも挙げ、プロジェクトの難しさを伝えました。
15日の記事では、2日連続で打ち上げが延期されたことが報じられました。AFPは地元メディアの報道として「強風のため」と伝えつつ、時差の問題から詳細を取材できなかったと弁明しました。失敗の続くイカロスですが、スイスでは逆に期待値が上がっているようです。(出典:トリビューン・ド・ジュネーブ外部リンク/フランス語)
保育料無償、週休3日 東京都の少子化対策
東京都の小池百合子知事が10日、第1子からの保育料無償化を来年9月から始めると表明しました。3日に表明していた都職員への「週休3日」導入とあわせ、スイスでは人口集中都市東京の少子化対策として注目を浴びました。
ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーが特に注目したのは週休3日制です。「仕事を減らしてセックスを増やすのか?」と題し、休日増に出生率押し上げ効果があるか、疑問を投げました。
まず週休3日制の効用を示す各国の研究を紹介。いずれも欠勤や退職を減らしながら、生産性や企業利益などは維持できるとの結論を示しています。出生率と直接結びつける研究はないものの、スイスで2023年に実施された調査では回答者の68%が自分は「働きすぎている」と答えています。さらにチューリヒ大の研究外部リンクは、働きすぎがストレスの増加とセックスの回数減をもたらすことを示しており、記事は「小池知事の計算は正しい」と結論付けています。
フランス語圏のスイス公共放送(RTS)はポッドキャストで日本の深刻な少子化、それに対する東京都の保育料無償化と週休3日制を紹介。フランスやハンガリーの少子化対策が一定の効果を挙げながらも抜本的解決には至らなかったことにも触れました。また日本保守党の百田尚樹代表がYouTube番組で25歳以上の女性の結婚禁止など過激な発言をし、後に謝罪したことも紹介しています。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語、RTS外部リンク/フランス語)
【スイスで報道されたその他のトピック】
- ノーベル平和賞、被団協に授与外部リンク(12/10)
- スイスで再注目される日本酒外部リンク(12/10)
- ローザンヌの森山大道展外部リンク(12/12)
- ドイツ語話者でも発音しやすい日本語の名前(外部リンク12/12)
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- 沖縄など長寿地域「ブルーゾーン」に疑義外部リンク(12/13)
- 北九州市のマクドナルドで女子高生刺殺事件外部リンク(12/14)
- スペースワン、ロケット打ち上げ再延期外部リンク(12/15)
話題になったスイスのニュース
先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から」(記事/日本語)でした。他に「医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査」(記事/日本語)、「世界一急勾配のケーブルカーがオープン」(記事/英語)も良く読まれました。
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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は12月22日(月)に掲載予定です。
校閲:大野瑠衣子
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