デブリ回収、高齢者雇用、自民党総裁選…スイスのメディアが報じた日本のニュース
スイスの主要報道機関が先週(9月9日〜15日)伝えた日本関連のニュースから、①福島原発でデブリの試験回収開始②日本の労働力を支えるシルバー人材センター③自民党総裁選に9人立候補、の3件を要約して紹介します。
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福島原発でデブリの試験回収開始
東京電力は10日、福島第一原子力発電所2号機で核燃料デブリの試験的な取り出しに着手したと発表しました。既に脱原発を決めたスイスですが、脱炭素を達成するために原発回帰案が浮上しており、事故処理の安全性は特にドイツ語圏で大きく注目されています。
ドイツ語圏のスイス公共ラジオ(SRF)は日本在住で長年福島の取材を続けてきたフリージャーナリスト、マルティン・フリッツ氏に話を聞きました。「事故から13年経ってようやく、たった3グラムを取り出した。なぜそんなに時間がかかるのか?」――キャスターのこんな質問に、フリッツ氏は原子炉内の放射線が非常に高く、人間は数分しか生きられないだけでなく、あらゆる電子回路も破壊してしまうため「鮮明な写真を撮ることさえ難しい」と回答。耐久性のあるロボットアームを開発するだけでも4~5年かかったと伝えました。
またコリウムの取り出し方法について、これまでの「原子炉容器の上から水を流し、遠隔操作のクレーンで掻き出す」方法は原子炉の損傷により現実性がなくなり、「新しい計画はない」と説明。「施設を解体するか、それとも決定を将来世代に先送りするか、政府と東電は最終決断すべきだ」とする読売新聞の論調を紹介しました。フリッツ氏は東電に対する不信感が再び募っていることも紹介しました。
ドイツ語圏の大手紙NZZは独DPA通信の記事を転載。1~3号機に推定880トンあるデブリの取り出しは「今後数十年かかるであろう廃炉作業における最大の課題」と説明。また昨年「怒りの抗議にもかかわらず冷却水の海洋放出をはじめ、議論を呼んだ」とし、日本側はこのままタンクに貯めれば廃炉作業が妨げられると「正当化」している、と批判的なトーンで報じました。
フランス語圏ではスイス通信社Keystone-ATSの記事がオンラインメディアwatson.chなどに掲載されました。デブリ取り出し作業を概説したあと、やはり冷却水の海洋放出に触れ、「国際原子力機関(IAEA)によって検証されたにもかかわらず」、中国やロシアが対抗措置として日本からの水産物の輸入を停止していると伝えました。(出典:SRF外部リンク、NZZ外部リンク/ドイツ語、watson.ch外部リンク/フランス語)
日本の労働力を支えるシルバー人材センター
高齢化に伴う年金・医療財政の悪化に悩むスイスにとって、日本は良くも悪くもお手本のような存在。ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーに、鳥取市のシルバー人材センターを訪ねた南ドイツ新聞のルポが転載されました。
同紙が取材したアラカワキミオさん(77)は、卸売会社を60歳で退職したあと、少ない年金を補うため炊飯器の内釜工場で夜勤を始めました。今はシルバー人材センターで民家の引き戸の修理に当たっており、今はお金のためではなく「人々と関わりを持つため」だと語ります。
日本が世界で最も高齢化が進んでいる理由として、記事は「公的医療制度や伝統的にバランスの取れた食事、広範な予防医療」を挙げるとともに、「ここには、高齢者を社会の片隅に押しやる若者たちの狂気が存在しない」と指摘します。一方で高齢化に伴う労働力不足は深刻で、「日本には高齢者を安易に退職させる余裕はほとんどない」。
定年引き上げなど日本が講じてきた政策は、「欧州の社会派政治家が模範とすることはできない。長い勤労人生の末に安寧が保障されることは、彼らにとって社会的公平性の要件だからだ」。ただ日本では「仕事=困難」ではなく、参加・承認欲求、自尊心を満たすものだ――記事は欧州と日本の労働文化の違いをこう解説しました。
「日本のシルバーセンターは、まだ健康で家にいることが難しいと感じている高齢者のための窓口であると考えられている」。高齢者が「グレー」ではなく「シルバー」な人的資本と呼ばれているのは、「確かに『金』ではないが、やはりピカピカ光る貴金属」だからだと位置づけました。
良いことばかりではありません。鳥取市の最低賃金は900円。スイスフランに換算すると5.30フランと、チューリヒ市で昨年決まった23.90フランの4分の1にも届きません。センターの山本雅宏専務理事(70)は「1300円までは払います」と話しましたが、記事はそれも「7.70フラン――大した額ではない」と一蹴しました。
鳥取市のシルバー人材センターの会員は663人いますが、「労働力不足を補うのに十分ではない」と言います。「人口減少が進む日本では、高齢者の間でも後継者問題がある」(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)
自民党総裁選に9人立候補
今月27日に予定される自民党総裁選には、女性2人を含む9人が立候補。12日に告示され、党本部で立会演説会が行われました。実質的に次期首相を決める戦いの開幕を、フランス語圏の無料紙20min.などが伝えています。
記事が挙げる有力候補は、石破茂元防衛相、「任期の高い元首相の息子」である小泉進次郎元環境相。ただ2人の人物像を詳しく掘り下げてはいません。
特記したのは2人の女性候補。高市早苗経済安保相は「自民党の超保守派を代表」し、「有罪判決を受けた戦犯を含む日本の戦没者を祀る靖国神社を定期的に訪れている」と紹介。上川陽子外務相は「有能な指導者とみなされているが、党内での支持は限られている」と伝えました。
記事は「首相交代が政府の政策に大きな変化をもたらすとは予想されていないが、地元メディアは新首相が就任直後に解散・総選挙に踏み切る可能性があると推測している」と報じています。また米コンサル会社Teneoの日本アナリスト、ジェームズ・ブレイディ副社長の「自民党が再生を目指す中、(立会演説会では)質の高い政治討論が行われた」とするコメントを紹介しました。(出典:20min.外部リンク/フランス語)
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話題になったスイスのニュース
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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は9月23日(月)に掲載予定です。
校正:大野瑠衣子
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