ペロブスカイト、消えたコメ、統一教会…スイスのメディアが報じた日本のニュース

スイスの主要報道機関が先週(3月10~16日)伝えた日本関連のニュースから、①次世代太陽光パネルのリーダーを目指す日本②消えたコメ23万トンの謎③旧統一教会が解散の瀬戸際に、の3件を要約して紹介します。
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次世代太陽光パネルのリーダーを目指す日本
世界の太陽光パネル市場で中国が独壇場を決めるなか、日本が失地回復を図っています。その切り札とされているのが「ペロブスカイト太陽電池」。薄く、軽く、曲げられるのが特徴のこの技術をめぐる日本国内外の開発競争を、ドイツ語圏の大手紙NZZが詳報しました。
記事は冒頭で「何十年もの間、アジア最古の工業国である日本は、太陽エネルギーにおける世界市場のリーダーだった」として、日本が中国から市場シェアを取り戻そうとしていると位置付けました。意気込みの象徴として、経済産業省が掲げる「2040年までに20ギガワットのペロブスカイト太陽電池を設置」という目標を紹介しました。
しかしペロブスカイト市場を狙っているのは日本だけではありません。記事によると、独ブランデンブルク州では、英企業オックスフォード・PVがペロブスカイトとシリコンを組み合わせた「タンデム型太陽電池」の生産を始めています。中国や韓国も研究に注力しています。
NZZが取材した東芝は、ペロブスカイトの最大の利点は「凹凸のある表面やガラスにも薄く塗れる」こと。山に囲まれ大規模太陽光パネルを設置するスペースに欠く日本にとって、ペロブスカイト型は都市部の高層ビルの外壁や工場・体育館の屋根などに設置しやすいという魅力があります。
記事は「日本が太陽光発電に意欲的なもう一つの理由は、その産業政策にある。日本の研究者は、この技術のパイオニアとみなされている」と続けます。2006年にペロブスカイトが太陽光を電気に変換するのに適していることを発見したのは、桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授だったことを紹介。複数の日本企業が市場化に向け開発を進めています。
技術はまだ発展途上。記事は市場化した場合の販売価格を予測しにくいことも開発のハードルの一つに挙げました。同じ山国であるスイスにとって、日本のペロブスカイト開発は今後も注目の的となりそうです。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
消えたコメ23万トンの謎
農林水産省が10日、政府備蓄米の放出に向けた入札を開始しました。需給理由の放出は史上初とあって、スイスでもかねて注目を浴びています。NZZは「5000万袋ものコメが跡形もなく消えてしまった」として、コメ不足の「謎」に迫りました。
コメ不足の要因の一つが気候変動であることは、これまでにもスイスで報じられてきました。NZZがさらに注目したのは、2024年の収穫量が前年を18万トン上回ったにもかかわらず、(農協など)集荷業者が買い取ったコメは前年より23万トン少なかった点です。江藤拓農林水産相は2月の記者会見外部リンクで「流通全体を見れば、スタック(堆積)している部分はどこかに隠れてしまっている」との見方を示しました。
NZZは謎を解くために、京都大学大学院経済学研究科の久野秀二氏に取材しました。久野氏は農相の見方に同調し、コメ不足を恐れた人々や企業がコメを買いだめしていると分析します。
その原因として、久野氏はコメ市場の厳しい規制を挙げます。流通が完全自由化した2004年以降、政府は市中の流通量を正確に把握しづらくなりました。久野氏は、この透明性の欠如が、わずかな需給変動で投機的な買い占め・買い溜めを誘発しやすくなったとみています。コメは「どこかに消えてしまった」のではなく、「市場のあちこちに散らばっている」というわけです。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
旧統一教会が解散の瀬戸際に
文部科学省が旧統一教会への解散命令を請求してから1年5カ月。東京地裁で非公開の審理が続いていますが、3月中に決定が下されると報じられています。スイス・フランス語圏の無料メディアが、仏AFP通信の報道をもとにこの動きを伝えました。
bluewin.chは「日本のメディアによると、裁判所の判決により、早ければ今月中にも統一教会の法的認可が剥奪される可能性がある」と報道。日本弁護士連合会(日弁連)が2月に東京で開催した集会で信者2世が語った、学用品を買う余裕はなく、時にはお風呂を沸かすお金さえないという話も伝えました。
20min.は統一教会を「ウォーターゲート事件の際のリチャード・ニクソン、その後のドナルド・トランプ、マリーヌ・ル・ペンなどの政治指導者と関係を築いてきた」と紹介。「スイスにも存在し、大きなニュースになった」として、大手紙ル・タンの2022年の記事をリンクしました。
2紙とも、同団体への賠償請求訴訟で元信者の代理人を務める阿部克臣外部リンク弁護士のコメントを引用しています。解散命令が出ても免税資格が失われるだけで活動は継続可能ですが、「信者数も減るだろう」との見方です。また阿部氏は、2023年に成立した被害者救済法外部リンクが団体資産を被害者に返還するのではなく、移転を許してしまうと懸念しています。
(出典:bluewin.ch外部リンク、20min.外部リンク/フランス語)
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話題になったスイスのニュース
先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイスの世界遺産エッシネン湖、予約制を導入」(記事/日本語)でした。他に「内陸国スイス、海運世界一に」(記事/日本語)、「F-35戦闘機の購入見送りなら違約金発生」(記事/英語)も良く読まれました。
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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は3月24日(月)に掲載予定です。
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校閲:大野瑠衣子

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