伊藤詩織、くノ一、屋外喫煙…スイスのメディアが報じた日本のニュース

スイスの主要報道機関が先週(2月24~3月2日)伝えた日本関連のニュースから、①「裏切者」扱いされる伊藤詩織氏②スイス人日本史学者が語る忍者の実態③外国人スキー客の屋外喫煙、スイス人の反応は?の3件を要約して紹介します。
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「裏切者」扱いされる伊藤詩織氏
ジャーナリストの伊藤詩織さんが自身の性暴力被害を記録した映画「ブラック・ボックス・ダイアリーズ」。昨秋スイスで上映されて注目を浴びましたが、日本ではプライバシーをめぐる問題で公開が見送られています。アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門でノミネートされた同作品について、3日の授賞式を前に、ドイツ語圏のターゲス・アンツァイガーが問題の経緯を報じました。
「日本は伊藤詩織を誇りに思っていない」。自らの性暴力被害を通じて「日本の時代遅れの性犯罪法制」を記録したこの映画は、チューリヒ映画祭など複数の映画賞を受賞したものの、「多くの女性を含む多くの日本人にとって、伊藤詩織は女性の伝統的な役割を損なう裏切り者とみなされている」と記事は伝えています。
映画のプライバシー上の問題を提起したのは、かつて民事裁判で伊藤氏の勝訴を支援した西広陽子弁護士ら。記事は「ジャーナリズムが情報源を守るために何をしなければならないかは大きな問題だ」とする一方、「伊藤氏の社会的意義のある成果に対し、こうした非難が向けられることが相応かどうかについては疑問がある」と投げかけました。
「伊藤詩織氏が合意を破り、ジャーナリズムの基準を無視したことは明らかだ」と指摘しつつ、「(プライバシーを侵害されたとする)タクシー運転手や捜査員が本当に危険にさらされていると感じていたかどうかは明らかではない」と注記しました。タクシー運転手は自身が撮影されていることに気づいていたはずで、捜査員は映画の初公開前から特定されていたからです。
映画は個人が特定されない形に修正される予定ですが、記事は「それだけで日本で公開が可能になるかどうかは不明だ」との見方です。同作がオスカーを受賞すれば再び争点になると結んだものの、受賞は逃してしまいました。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)
スイス人日本史学者が語る忍者の実態
仏ユービーアイソフトが開発するアクションゲーム「アサシン クリード」は16世紀の日本が舞台で、主人公の1人は女性の忍者。ですが「くノ一は実際には存在しなかった」と、同作の制作顧問を務めたジュネーブ大学の日本史学者、ピエール・スイリ教授が地域紙トリビューン・ド・ジュネーブのインタビューで語りました。
同氏は忍者の実態や時代背景に関する制作チームの質問に答えるうち、「日本では歴史学の本格的な復興が起こっているにもかかわらず、忍者に関する本格的な歴史書が存在しないことに気づいた」と言います。学生時代には忍者について研究しようとしたスイリ氏に対し、日本人教授が「忍者に関する情報源はなく、あったとすれば偽物だ」と思いとどまらせたそうです。
スイリ氏は、「忍者」という言葉は1950年代から使われるようになったと説明します。権力者に仕える「スパイ」でしたが、戦国時代が終わると「有用性とスキルを喪失」しました。
最後に忍者が活躍したのは1854年のペリー来航。忍者はオランダ語を話す船員たちと親しくなり、黒船にこっそり乗り込みました。しかしその収穫はパン2斤とたばこ2本、ろうそく2本、西洋の女性について船員たちが書いた紙きれ1枚と散々なものでした。スイリ氏は「報告を受けた主人の顔が想像できる!」と同情を寄せます。
忍者が「キャラクター化」したのは19世紀。まず歌舞伎で「悪役の手下」として描かれましたが、20世紀に入ると青少年向けの小説で「ロビンフッド」のような善人として登場するようになりました。くノ一が登場したのは戦後で、「長い目で見れば、日本を含めて、誰もがこれらの人物の歴史的存在を信じている」とスイリ氏。忍者は日本の文化、武術、ファッション、料理に基づいて発展させてきた「偉大なソフトパワー」だと評しました。(出典:トリビューン・ド・ジュネーブ外部リンク/フランス語)
外国人スキー客の屋外喫煙、スイス人の反応は?
日本のスキー場で喫煙していた外国人観光客を注意した日本人の自撮り動画が、その口調が攻撃的だったことでソーシャルメディア上で大炎上。この経緯をスイスの無料大衆紙20min.フランス語版が報じたところ、読者から約50件のコメントが寄せられました。
最も支持を得たコメントは、「私たちは訪問先の国の習慣や伝統を学び、それを尊重する。それは尊敬と呼ばれる」というもの。「(屋外禁煙という)このルールは日本では数十年前から存在している。法律を知らないならば、家にいるべきだ」というコメントも多くの賛同を得ました。
一方、「日本は、レストラン内では、食事をしている隣の人から30cm離れたところで喫煙できるのに、屋外ではできないという奇妙な国」という指摘もありました。これに対して、別の読者から「この奇妙な国では、訪問者は現地のルールを尊重することが求められる。スイスという別の奇妙な国に少し似ている」というコメントがありました。(出典:20min.外部リンク/フランス語)
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話題になったスイスのニュース
先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイス軍・諜報機関トップが相次ぎ辞意」(記事/日本語)でした。他に「ゼンティス山の山岳ケーブルカー、改修工事へ」(記事/日本語)、「反イスラム感情がスイスに蔓延」(記事/英語)も良く読まれました。
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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は3月10日(月)に掲載予定です。
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校閲:大野瑠衣子

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