少子化、万博、ながら運転、伊藤詩織さん…スイスのメディアが報じた日本のニュース
スイスの主要報道機関が先週(11月4日〜10日)伝えた日本関連のニュースから、①若者が子どもを産まないワケ②万博スイス館スポンサーに疑問の声③自転車の「ながら運転」なぜ厳罰化?④伊藤詩織さんインタビュー、の4件を要約して紹介します。
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若者が子どもを産まないワケ
世界有数の大都市・渋谷は若者と活気があふれているが、電車でわずか1時間離れると学校・幼稚園は閉鎖し、ローカル線は減便――ドイツ語圏の大手紙NZZは日本や韓国、台湾など東アジア先進国で少子化が深刻化する理由を探り、東京の若者にインタビューしました。
インタビューを受けた男女3人の答えはそれぞれ異なるものでした。「子どもは欲しいが今後の収入次第」とする男性、「日本の伝統的な母親像に縛られたくない。自分の仕事とキャリアを優先したい」と話す女性、「子どもを持つとしても、それは人口問題を解決するためではない」と考える女性。記事はこうした声を紹介したうえで、「政治家が若い世代のニーズを無視しているという事実は、3人にとって驚くべきことではない」と伝えています。
「なぜなら、精神的な拠り所として厳しいヒエラルキー思想を持つ儒教の国では、若者の懸念をちゃんと聞いてもらえることはない、と彼らは言う」
記事は儒教のもう一つの伝統として、塾や家庭教師を前提にした厳しい学校制度の存在も指摘しました。高い収入を得られる職に就くには大学受験を通らねばならず、「子育てにかかる莫大な費用も子どもを持たない理由となっている」。
記事によると、介護の支え手として移民が増える一方、「海外移住を考える若い日本人女性が増えている」。インタビューに答えた若者たちも、家父長制に依存しないように、あるいは日本にはないビジネスチャンスを掴むために、少なくとも一定期間海外で暮らしたいと語りました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
万博スイス館スポンサーに疑問の声
2025年大阪万国博覧会に出展予定のスイス館は、「万博史上最小のカーボンフットプリント外部リンク」を目指すと話題です。そんなスイス館の主要スポンサーに、排出量の多いクルージング会社が名を連ねることを疑問視する記事が、ドイツ・フランス語圏の日刊紙ブリックに掲載されました。
焦点を当てたのは、日本でも「MSCベリッシマ」で知られるMSCクルーズ(本社・ジュネーブ)。「水上テーマパーク」とされるクルーズ船はエネルギー消費も大きく、MSCの船舶だけでも年間250万t以上、スイス全体の5%相当の二酸化炭素(CO₂)を排出しているといいます。同社が排出量削減のために使用している液化天然ガス(LNG)も、CO₂より温室効果の高いメタンを放出するとして一部の環境団体から批判されています。
スイス館を所管するスイス外務省は同紙の取材に、「MSCは環境汚染の激しい業界で事業を行っているにもかかわらず、環境フットプリントの削減に取り組み、持続可能性行動計画を策定している」と回答。開催国である日本ではMSCのイメージが良いことも指摘しました。ただ「契約の機密保持のため」としてMSCからのスポンサー料を明かしませんでした。(出典:ブリック外部リンク/ドイツ語)
自転車の「ながら運転」なぜ厳罰化?
今月1日に改正道路交通法が施行され、自転車も「酒気帯び運転」やスマートフォンの「ながら運転」が罰則の対象となりました。NZZは、ドイツやスイスに比べても厳しい罰が下されるようになった背景を読み解きました。
記事によると、携帯電話を使いながら自転車で走行した人はドイツで55ユーロ(約9000円)、スイスでは150フラン(約2万6000円)の罰金が科されます。日本では最高10万円の罰金または懲役6カ月。手に持つだけでなくハンドルにホルダーで装着したスマホ画面を見ているだけでも処罰される可能性があり、「処罰されないことを保証したい場合、(自転車から降りて)立ってスマホを使うしかない」と説明しました。
なぜそこまで厳しくするのか?記事は「立法府が『早目に手を打て』の精神で」交通事故撲滅を図ってきたことがある、と読み解きます。昨年、自転車事故そのものは2019年に比べ大きく減った一方、スマホ運転が起こした事故は急速に増えてきています。
自転車利用者に対してはこれまで数十年「放任政策」が採られてきましたが、重量のある電動ママチャリが普及したことで「力の弱い人でも非常に早く加速できるため、歩行者や他の自転車との衝突で重傷を負う危険」が高くなったといいます。歩道の走行や一方通行路の逆走も許されているため、「多くの自転車ライダーは自身が危険であると認識していない」点も指摘しました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
「海外の観客と会話できるのは素晴らしい」 伊藤詩織さんインタビュー
今月からスイスで上映が始まった「ブラック・ボックス・ダイアリーズ」。ジャーナリストの伊藤詩織氏が自ら受けた性被害を綴ったドキュメンタリー映画で、スイスでは10月のチューリヒ映画祭でドキュメンタリー最優秀賞などに輝き注目されています。伊藤氏本人へのインタビューが、CHメディア系の複数のドイツ語圏地方紙に掲載されました。
インタビュアーを務めたのはスイス人映画評論家のシルヴィア・ポサヴェック外部リンク氏。世界で#MeToo運動が広がる前から被害について発信してきた伊藤氏が「たとえ真実だとしても公表すべきではない」と女性から批判されたこと、激しいバッシングを受け日本を離れざるを得なくなったことを聞き出しました。
「あなたの身に降りかかった出来事に、日本の文化は特別な影響を及ぼしましたか?」――こんな質問に、伊藤氏はこう答えました。「どの文化も変化を嫌う。日本では和を重んじ、大騒ぎをせず、争いを避ける。私が話し始めると、日本の恥だと思われた。そんな問題について話すボキャブラリーも私たちにはなかった」
「事件以来8年間の記録をどうやって1本の映画に集約したのですか?」という質問には、伊藤氏は自身が忘れていたこと、抑圧されていたことを見つめ直すことになり「簡単ではなかった」と振り返りました。「しかし作品が完成した今、私はとても幸せだ」。日本では「まだデリケートなテーマなため」上映できるかどうかわからないものの、「海外の観客と出会い、上映後に会話を交わすのは素晴らしいことだ」と語りました。
ポサヴェック氏は最後に「被害を受けても黙っていた方がいいと思う人たちには何と伝えたいか?」と質問。警察や性暴力救援センターで嫌な経験をしたという伊藤氏は「人々が抑圧したがる理由は理解できる」と話す一方、「事件のことを忘れろと言うことは、他人の仕事ではない!」と断言。他の被害者に対し「自分自身や自分の真実に耳を傾けることが、あなたを救うことになる」と訴えました。(出典:ザンクト・ガレン・タークスブラット外部リンク/ドイツ語)
【スイスで報道されたその他のトピック】
- 防衛通信衛星「きらめき3号」打ち上げ成功外部リンク(11/4)
- アニメ化25周年迎えた「ワンピース」外部リンク(11/4)
- 石破首相、トランプ氏に祝意外部リンク(11/6)
- トヨタ、2024年度売上高を1085万台に下方修正外部リンク(11/6)
- 富士山、130年ぶりの遅い冠雪(11/7)
- 日産、世界で9000人雇用削減外部リンク(11/8)
話題になったスイスのニュース
先週、最も注目されたスイスのニュースは「11月のスイスアルプス、季節外れの暖かさ」(記事/日本語)でした。他に「女子優位のクラスを出た女性は高収入の傾向 スイス調査」(記事/日本語)、「チューリヒ大、ゲノム編集治療の副作用発見」(記事/英語)も良く読まれました。
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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は11月18日(月)に掲載予定です。
校閲:大野瑠衣子
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