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731部隊、白ポスト、高木彬光、駅弁…スイスのメディアが報じた日本のニュース

こぶしを挙げる原告団
2001年12月、731部隊による人体実験の被害者遺族が日本政府に賠償を求めた裁判で、東京地方裁判所前で声を上げる中国人原告ら。最高裁は翌年8月の判決で賠償請求を棄却したが、細菌兵器で大勢の中国人が死亡した事実を認定した EPA PHOTO AFP/YOSHIKAZU TSUNO/yt/rab

スイスの主要報道機関が先週(2月17~23日)伝えた日本関連のニュースから、①日本・中国が和解できない理由②ごみ箱化する白ポスト③チューリヒで高木彬光の刺青写真展④チューリヒ中央駅で「Ekiben」期間限定販売、の4件を要約して紹介します。

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日本・中国が和解できない理由

第二次世界大戦の終戦から80年たった今も、日本と中国の間には「深い憎悪」がくすぶっている――南ドイツ新聞のトーマス・ハーン東京特派員が中国黒竜江省ハルビンにある「侵華日軍第七三一部隊罪証陳列館」と、東京にある日中友好会館外部リンクを訪れ、憎しみが連鎖する理由を考察。ルポ記事がスイスのドイツ語圏大手紙ターゲス・アンツァイガーに転載されました。

記事は冒頭で、憎しみ合いが途絶えない理由をずばり「日本が戦争犯罪や中国・満州の搾取、そこで行われた人体実験と折り合いをつけていないからだ」と説明します。米国の対アジア政策も一因にあると指摘しました。

そして「憎しみは強力な感情である。それは戦争の引き金にもなる。だからこそ、アジアの2大経済大国の間で敵意がくすぶり続けていることは、全世界にとって問題なのだ」と、日中関係に注目する背景を綴りました。

ハルビンの陳列館では、この地域で人体実験を行った関東軍防疫給水部(731部隊)の「犯罪の証拠」を展示しています。ガス処刑、解剖、病原菌注射――こうした展示の最後に置かれたゲストブックには、「決して忘れるな、全員生け捕りにしろ、日本のクソ野郎どもを殺せ!」といった憎しみの言葉があふれている、と報じました。

展示に限らず、「中国の超国家主義者たちは、憎悪と暴力的なビデオを平気で広めている。デジタル敵意は繰り返し暴力につながる」と指摘。福島第1原子力発電所からの冷却水の海洋放出でも日本への新たな怒りが燃え上がり、昨年は中国で日本人が襲撃される事件が相次いだことを挙げました。

一方の日本は、731部隊や南京大虐殺について「語りたがらない」空気が蔓延していると続けます。日中友好会館は学生交流や語学学校の運営など、友好的なムードを醸成しようとしています。中国人観光客や留学生も多く、「一般的に、東京では中国人と日本人が仲良くしているように感じられる」。

ハーン記者は友好会館の小川正史理事長にインタビューし、その背景を探りました。外交官として日中関係に当たってきた小川氏は「日本政府は、日本が中国を征服したことを認めている」としながら、犠牲者の数や侵略の規模となると「それを受け入れるのは容易ではない」と語ります。記事は「彼の国は、日本がかつて善人ではなかったという思いに耐えられないらしい。だから、あまり大きくならないようにしている」と考察しました。

記事は米国の責任にも触れています。それは日本の政治・軍事指導者の責任を問うた東京裁判で、米国が敢えて731部隊を対象から外したということです。「米軍は人体実験から得られた知見を『貴重なもの』ととらえ、その犠牲は『比較的安価なもの』だと考えた」。そして中国の犠牲者の数は意図的に「忘れ去られた」と伝えました。

「ハルビンの陳列館は過去だけでなく、現在についても展示しているのだ。中国の屈辱は、権力の道具として共産党の役に立っている。苦しみと不名誉は、自国の問題から目をそらすために生かされているのだ」(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)

ごみ箱化する「白ポスト」

アダルト雑誌・ビデオなど「有害図書」を処分するため各地の教育委員会が設置する「白ポスト」。紙・ビデオ・DVDの減少に伴い利用が減り、ごみが投函される例が後を絶たないため、撤去する自治体が増えています。ターゲス・アンツァイガーは日本メディアの報道をもとに、白ポストが果たしてきた役割と、インターネット上のアダルトコンテンツが生む新たな脅威について報じました。

記事は、白ポストが1960年代から設置され、「社会が我慢しなければならない汚物を飲み込んできた」と説明。「白ポストは今も、いかがわしい産業に対するシンプルなアイデアの勝利を今も象徴している」と位置付けます。

しかし「良いアイデアでも若返りすることはない」と続けます。ビデオやDVD媒体の登場には「耐えられた」ものの、ネット上の映像には「荷が重すぎる」。2023年には合計1444人の未成年者が児童ポルノの被害に遭っているが、「名誉ある白ポストは、それについては役に立たない」と伝えました。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)

チューリヒで高木彬光の刺青写真展

「人形はなぜ殺される」「刺青殺人事件」などで知られる推理小説家、高木彬光(1920~1995)。フランスのジャーナリスト、パスカル・バゴ氏は、高木の撮影した刺青写真134枚をまとめた写真集「The Tattoo Writer外部リンク」を2022年に出版しました。スイス・チューリヒの専門書店Never Stop Readingが同著のスイス発売を記念し、3月に同著の特別展を店内で開催することを、ターゲス・アンツァイガーが報じました。

記事は、高木が「子どもの頃に銭湯で刺青をした女性を見て以来、刺青に魅了されていた」と紹介。1950~60年にかけて、龍や花、鬼、歌舞伎の登場人物などを描いた刺青を数多く撮影していたと伝えています。また刺青の歴史や犯罪組織のシンボルであることにも触れ、同著は「このはかない芸術の非常に興味深い時代を記録して後世に伝える」存在であると伝えました。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)

チューリヒ中央駅で「Ekiben」期間限定販売

スイスの鉄道交通の要所チューリヒ中央駅で、日本の駅弁が期間限定販売外部リンクされています。ターゲス・アンツァイガーが週末のお出かけ情報の中でこれを紹介しました。

「鉄道旅行に関して、日本がスイスより優れている点が一つある。それは食事だ」。駅弁はご飯や肉、野菜を詰め「愛情をこめて作られた」弁当で、旅の必需品として販売されていると紹介。チューリヒのイベントで販売される駅弁は14~24.50フラン(約2300~4000円)で、「ボリュームたっぷり、美味しいけれど、ご飯の量が多め」。毎日200食が日本人シェフの手で調理されていますが、昼頃には完売であることも多いと伝えました。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)

話題になったスイスのニュース

先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイス、PFASの規制強化を検討」(記事/日本語)でした。他に「米国がパリ協定離脱を通告 スイスも追随?」(記事/日本語)、「英語やその他の外国語の使用が増加」(記事/英語)も良く読まれました。

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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は3月3日(月)に掲載予定です。

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校閲:大野瑠衣子

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