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日米会談、ホンダ・日産、捕虜収容所…スイスのメディアが報じた日本のニュース

握手する石破茂首相とドナルド・トランプ米大統領
AP Photo/Alex Brandon

スイスの主要報道機関が先週(2月3~9日)伝えた日本関連のニュースから、①トランプ・石破会談は「成功」②ホンダ・日産の統合破談③第1次大戦中に捕虜収容所を視察したスイス人医師、の3件を要約して紹介します。

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トランプ・石破会談は「成功」

石破茂首相は7日(日本時間8日未明)、ワシントンでドナルド・トランプ米大統領と会談しました。2期目に入ったトランプ氏がホワイトハウスに招いた政府首脳はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に次ぐ2人目とあって、スイスでも大きな注目を集めました。

ドイツ語圏の大手紙NZZは会談に先駆け、なぜトランプ氏が主要先進国のなかでいち早く日本の首相を迎え入れたのか、を解説。中国との闘いと「米国第一主義」という自身の目的に合致すれば、日本のように巨額の対米貿易黒字を抱えていても「協力は可能」であるとのシグナルを送る狙いがあるとしました。

会談後の記事では、トランプ氏が「彼(石破氏)はとても尊敬されている男で、日本国民は彼のことをとても気に入っている」と評したことに触れ、「この小さいウソは、日本がトランプ大統領に対して、欧州諸国が夢見ることしかできないような特別な地位にあることをさらに強調する」と説きました。

総じてNZZは日米首脳会談が成功だったと高評価。成功の秘訣として、次の3点を挙げました。

①入念な準備:日本政府は数カ月前から閣僚級のトランプ対策会議を立ち上げ、状況分析や政府の要人、トランプ氏に近いシンクタンクとの緊密な関係を築き、交渉を進めていた。トランプ氏と良好な関係を築いた故・安倍晋三元首相の通訳を務めた高尾直日米地位協定室長を再起用したことや、「石破氏が、トランプ氏にとって親しみやすく肯定的に感じられる声で話した」ことも奏功した。

②トランプ氏のエゴへの投資:石破氏は記者会見で、暗殺されかけたトランプ氏が米国旗を背景に拳を掲げた写真を表紙にした本を掲げ、トランプ氏を持ち上げた。

③「米国第一主義」に多額投資:石破氏は対米投資を1兆ドルに増やすと約束。トヨタによる対米投資を受け、トランプ氏は「素晴らしい人々、素晴らしい国だ」と絶賛した。

(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

ホンダ・日産の統合破談

昨年12月に経営統合に向けて基本合意した日産とホンダが今月5日、基本合意書(MOU)の破棄を決めました。実現すれば世界第3位の自動車グループが誕生するはずだった大型統合の挫折を、スイス主要紙が詳しく報じました。

「協議が正式に始まって以来、対等な統合というシナリオに疑問を投げかける兆しがすでにあった」。フランス語圏の大手紙ル・タンはこう指摘します。昨年12月のプレスリリースで、両社が設立する共同持ち株会社の役員は「ホンダが任命する管理職のなかから選ばれる」と明記されていたことを、「2社の間に一定のパワーバランスがあることを示すものだった」と解説しました。

日産の筆頭株主である仏ルノーの関与も紹介。ルノー幹部が来日し、ホンダとの合併により日産株の価値を最大化するよう日産に迫ったとする英紙フィナンシャル・タイムズ外部リンクの報道を引用しました。

NZZは「激動の日本自動車産業」と題し、ホンダ・日産の破談とともにトヨタが「ハイブリッド車で勝負に出る」と報じました。トヨタが自己資本利益率を現在の10%から20%に高める目標を達成すれば「大衆ブランドの中で例外的な地位に立つことになる」。過去10年間で20%越えを達成したのはBMW、メルセデス・ベンツ、テスラなど「高級ブランド」のみで、いずれも今はトヨタと同水準にあるといいます。

トヨタは目標に向けて米国・中国で生産体制を強化しており、NZZは「消費者に電気自動車への第一歩を提供できるメリットがある」と伝えました。(出典:ル・タン外部リンク/フランス語、NZZ外部リンク/ドイツ語)

第1次大戦中にドイツ人捕虜収容所を視察したスイス人医師

第1次大戦中に日本で活躍したスイス人医師、フリッツ・パラヴィチーニをご存じですか?グラールス州・グラウビュンデン州の地方紙Südostschweizでグラールス州出身の歴史的偉人を紹介するシリーズに、赤十字国際委員会(ICRC)の委託を受けて日本のドイツ人捕虜収容所を視察したパラヴィチーニが登場しました。

パラヴィチーニは1874年、グラールス州エネンダンに生まれました。祖父や父と同じように医学の道を進み、1899年にチューリヒ大博士号を取得。独ハイデルベルクやロンドン、サメダン(グラウビュンデン州)で働いた後、友人の誘いを受けて1904年に日本に移住しました。

1914年8月にドイツに宣戦布告した日本は、同11月にドイツの植民地だった中国・青島を包囲。ドイツ人・オーストリア人数千人が捕虜となり、船で日本に運ばれました。パラヴィチーニはICRCの委託を受け、1918年6~7月に8カ所の収容所を視察しました。

記事が特筆したのは板東収容所(徳島県鳴門市)に関する報告です。図書室やオーケストラ、写真スタジオにウイスキー蒸留所の建造計画…。パラヴィチーニは板東収容所の和やかな雰囲気と、捕虜たちがさまざまな活動に従事できる環境をつぶさに記録しました。記事は「それは普通のことでも偶然でもなく」、収容所の松江豊寿所長の「囚人は犯罪者ではなく、祖国のために戦った愛国者であり、尊敬に値する」との考えからだったと伝えています。(出典:Südostschweiz外部リンク/ドイツ語)

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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は2月17日(月)に掲載予定です。

校閲:大野瑠衣子

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