石破茂氏が自民党新総裁に スイス主要紙はどう報じたか
27日の自民党総裁選で石破茂元幹事長(67)が決選投票の末、高市早苗経済安全保障相(63)を破って新総裁に選出された。5度目の挑戦で総裁の座をつかんだ石破氏をスイス各紙はどう評価したか。
「日本政界のアウトサイダー」
「日本政界のアウトサイダーが政府のトップに就任へ」と報じたのは、独語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー外部リンクだ。
同紙は石破氏について「長年にわたり国民と政治エリートとの間の溝を象徴してきた」人物だと評する。「鳥取1区の議席を高い人気で守り続け、最近では2021年に84.1%の得票率を獲得した。地元有権者にとっては自民党の他の議員は冷淡な派閥政治家だが、石破氏は自分たちの利益を代表する実直な人物、嘘をつかない人物だと考えている」とした。
主要派閥から距離を置き、党内野党を貫く石破氏の政治姿勢は、度重なるスキャンダルからの再生を図る自民党にとって「再出発にふさわしい人物」と評価する。とはいえ「石破氏の成功が、党内に多くの政敵がいる事実を変えるものではない」とし、今後の舵取りの難しさを匂わせた。
「最も危険な課題は対中国関係」
独語圏の経済紙フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフト外部リンクは、「総裁就任直後に直面するであろう最も危険な課題は強大な覇権国・中国との関係だ」と述べた。「一方ではアジア版NATO(北大西洋条約機構)の設立を提案して波紋を広げ、一方では中国に関するデリケートな問題には慎重な言葉を使うことで知られる」石破氏の「ここでの実績は両義的だ」と評価する。
ただ自民党内には強い反中勢力だけでなく伝統的に中国寄りの声もあるとし、「石破氏は、前任の岸田文雄氏よりも習近平国家主席とより良い関係を見出せるかもしれない」と含みを持たせる。
同紙はまた「安全保障問題では断固として保守的な安倍晋三・元首相に比べれば石破氏は確かに穏健派ではある。だが強力な官僚機構と自民党の組織を考えれば、石破氏が政策で操れる余地は限られている」と分析。安全保障と防衛に関して豊富な経験を持つ石破氏ではあるが、政策面で大きな飛躍は期待できないとみる。
「株式市場寄り経済政策からの脱却」
新総裁選出で市場は「石破ショック」の様相を呈した。日銀の追加利上げに肯定的な石破氏の当選が伝わると東京外国為替市場の円相場は急騰。日経平均株価(先物)も一時2000円超急落した。
市場の洗礼を浴びた総裁選の結果を「これまでの株式市場寄りの経済政策からの脱却と方向転換の可能性があることを示している」と論じたのが、ドイツ語圏の日刊紙NZZ外部リンクだ。
同紙は「石破氏が望んでいるのはより公正な経済の構築」だとする専門家の分析を引用。対抗馬の高市氏が安倍路線を積極的に継続しようとしたのに対し、「石破氏は富裕層から貧困層への再分配者としての役割を果たしている」と評した。
その論拠に「すべての人に安全と安心を」のスローガンのもと最低賃金の3割引き上げを訴え、再分配を強化するための法人税増税を支持し、党内右派と意見を違えている点に言及した。鳥取県のような「長年深刻な人口減少に悩まされている地方を強化したいと考えている」とも指摘する。
ただ「安倍政権がこれまで阻んできた財政再建も石破氏のリーダーシップの下で勢いを増す可能性がある」としたものの、党内とのすり合わせの中で「どこまで実現するかは未知数」とした。
「現行政策に影響なし」
仏語圏の日刊紙ル・タン外部リンク、仏語圏のスイス公共放送外部リンク(RTS)はそれぞれAFP通信の記事を転載する形で総裁選を報道。「首相交代は現行政策に大きな影響を与えることはないだろう」との見方だ。
石破氏は回復に足踏みする経済と、中国・北朝鮮との国際的緊張という、これまでと同じ内政問題に対処していかなければならないとした。
また決選投票を争った高市氏の敗因について、「2022年7月に暗殺された安倍晋三元首相の愛弟子で、保守派に人気のあるナショナリストであり、近隣諸国に対するスタンスは北京(中国)とソウル(韓国)を刺激する可能性があった」と分析した。
総選挙の行方
石破氏にとってもう1つの試練は総選挙だ。石破氏は27日の会見で、衆議院の解散・総選挙の時期について「できるだけ早い時期に国民の審判を仰ぎたい」と述べた。すでに10月27日投開票を検討しているという報道もある。
ターゲス・アンツァイガーは「地元有権者からの人気は非常に高く、他の多くの自民党議員のように物議を醸す統一教会の選挙支援を必要としたこともない」とし、「経験豊富な国会議員として、最大野党の新党首・野田佳彦元首相(67)との選挙戦を争うトップに適していることは間違いない」とみる。
NZZは「党の大多数は石破氏が総選挙で新しい自民党のイメージを売り込み、党を再び選挙戦勝利に導くと信頼を寄せている」とし、現職の岸田氏も石破氏の支持を明言した点に触れた。
校正:上原亜紀子
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