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衆院選、地方創生…スイスのメディアが報じた日本のニュース

石破茂首相
10月27日投開票の衆議院選挙で、石破茂首相・総裁率いる自民党は歴史に残る大敗を喫した Kyodo News via AP

スイスの主要報道機関が先週(10月21日〜27日)伝えた日本関連のニュースから、①総選挙で与党敗北②過疎地からみる総選挙、の2件を要約して紹介します。

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総選挙で与党敗北

27日投開票の第50回衆議院議員選挙では、与党の自民・公明党が勝敗ラインとしていた過半数を割り込み、立憲民主党や国民民主党が躍進しました。スイスでは各言語圏で、裏金問題が与党敗北の根本にあるものの、1日に就任したばかりの石破茂首相に大きな責任があるとの論調が目立ちました。

ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)は28日朝、「日本国民は石破首相と自民党に罰を与えた」との見出しで解説記事を配信。裏金問題からの立て直しを図った衆院解散でしたが、「石破氏は有権者を置き去りにしてそろばんをはじいた」と指摘しました。ベテラン議員である石破氏は「状況をもっと正しく評価すべきだった」と手厳しく、「早急に具体的な成果を示せなければ、長く首相・自民党総裁を続けることはできないだろう」と見通しました。

ドイツ語圏の大手紙NZZは「この国は安定・安息の地であるように見えたが、それは終わった」と銘打ちました。地政学的な緊張が増すなか、米国のアジア戦略の支柱となった日本に、連立交渉による政治空白が生まれることへの危機感を示しました。また「自民党内の右派と穏健派の権力闘争が激化する恐れがある」と、石破氏続投の課題を提示しています。

同紙は投開票に先立つ23日、アジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設などを掲げる石破氏の安全保障政策を解説外部リンク。26日には、立憲民主党の野田佳彦党首がインフレ目標の0%超への引き下げや法人税・金融所得課税の引き上げを公約したことから、「与党過半数割れは株式市場に衝撃を与えるだろう」との記事外部リンクも掲載しています。

フランス語圏の大手紙ル・タンは、「有権者に人気があるとみなされて総裁に選ばれた」石破氏が、戦後最短任期の首相になる可能性を報じました。28日には小泉進次郎氏が敗北の責任を取り選挙対策委員長を辞した一方、石破氏が政治とカネの問題について「抜本的改革」を約束して続投を表明したと伝えました。「しかし、自民党内で総裁職を争われる可能性がある」

(出典:SRF外部リンクNZZ外部リンク/ドイツ語、ル・タン外部リンク/フランス語)

過疎地からみる総選挙

石破首相が地方創生を前面に掲げていることもあって、総選挙前に地方で加速する過疎化にもスポットが当たりました。

ドイツ語圏のターゲス・アンツァイガーは和歌山県海南市郊外のルポ記事を掲載しました。人口減少に歯止めがかからない同市が属する和歌山2区は、政治資金問題で自民党を離党した世耕弘成元経済産業相と、同じ問題で不出馬を決めた二階俊博元自民党幹事長の三男・伸康氏の対決に。しかし同紙が取材した棕櫚たわしメーカー「高田耕造商店」の高田大輔さんは、裏金よりも「人口問題、高齢化、教育」の方が大事だと語りました。

記事は「地方部の弱さは日本に昔からある問題だが、これまで解決できた政府はない」と続けます。隣の紀美野町もこの20年で人口が1万3千人から8千人に減少。移住・起業支援、子育て世帯への補助金などに取り組んでいるものの、税収減や社会支出の増加、商店・農家の廃業が止まらないといいます。

紀美野町で精肉店を営むハシモトマスノブさんは鳥取県の田舎出身で地方創生相を務めた石破氏に期待する一方、世耕氏が勝利する可能性に悲嘆しています。記事は「企業は伝統的に従業員全員に同じ人物に投票させるため、それがたとえあまり民主的ではないとしても、企業と最も密接な関係を築いている候補者が最も多くの票を獲得する」と伝えました。

大衆紙ブリック・フランス語版には、兵庫県丹波篠山市市野々集落を紹介する仏AFP通信の記事が転載されました。この集落唯一の子ども、加藤蔵之助君は、この集落で20年ぶりに生まれた赤ちゃんとして話題になりました。

取材に答えた88歳の女性は、かつては村の大半の家庭には子どもがいたと振り返ります。しかし「こんな辺鄙なところにいては結婚できないと心配」して村を出て、そのまま仕事を見つけて戻ってこなかったといいます。「私たちは今日、その代償を払っている」

蔵之助君の両親は、コロナ禍で働き方が柔軟になったのを機に、2021年に大阪から集落に越してきました。市野々には3人以上の居住者からの推薦がないと移住できないなど保守的な規則がありましたが、加藤一家は集落ぐるみで歓迎されているようです。

石破氏は過疎地への補助金倍増を約束しています。記事はこれについて、シックなカフェなど派手なプロジェクトばかりに補助金が使われ、「地元住民の生活支援にはほとんど役に立っていない」とする田口太郎徳島大教授外部リンク(地域計画学)の見方を紹介しました。

(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語、ブリック外部リンク/フランス語)

【スイスで報道されたその他のトピック】

話題になったスイスのニュース

先週、最も注目されたスイスのニュースは「『金銭目的』で自殺ほう助 スイスの裁判所が元看護師に有罪判決」(記事/日本語)でした。他に「スイスで『ニュース離れ』さらに深刻に メディア品質年鑑」(記事/日本語)、「ロンリープラネット旅行先ランキングにヴァレー州がランクイン」(記事/英語)もよく読まれました。

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校閲:大野瑠衣子

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