領空侵犯、台風被害、原発解体…スイスのメディアが報じた日本のニュース
スイスの主要報道機関が先週(8月26日〜9月1日)伝えた日本関連のニュースから、①中国軍機が日本の領空に侵入②台風10号で甚大被害③終わらぬ原子力災害 3年遅れの原発解体、の3件を要約して紹介します。
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中国軍機が日本の領空に侵入
8月26日、中国軍の情報収集機が長崎県沖の日本の領空に一時侵入。中国軍機による日本の領空侵犯が確認されたのは初めてで、スイスでもドイツ語・フランス語圏を中心に大きなニュースとなりました。
ドイツ語圏の日刊紙NZZは「日中関係はこの数カ月いくらか緊張が緩んでいたが、再び悪化した」と報道。領空侵犯は「過失だった可能性は排除できない」としつつ、「もし過失ではなかったとしたら、日中間の軍事的緊張が新たなピークに達することになるだろう 」と伝えました。中国は台湾の航空監視圏にも戦闘機や無人機を送り込んでおり、特に台湾の総選挙やナンシー・ペロシ米下院議長の訪台などのタイミングで増やしているからです。
「あたかも中国政府は、東シナ海・南シナ海の近隣諸国と支援協定を結んでいる米国の限界を試しているように見える」。26日の領空侵犯は、ジェイク・サリバン米大統領補佐官の訪中を控えての挑発行為だった可能性を示唆しました。
フランス語圏では仏AFP通信の記事が複数紙に掲載されました。こちらも「アジア太平洋地域における中国の経済的・軍事的影響力の拡大と、特に中国が省の一つとみなす台湾に関する中国の主張は、米国とその同盟国にとって懸念材料となっている」と、米国との関係を指摘しています。また日本が防衛予算を増やすとともに、フィリピンや韓国とも協力関係を深めていると報じました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語、ル・マタン外部リンク/フランス語)
台風10号で甚大被害
8月29日、気象庁が「最強に近いクラス」と位置付ける台風10号(サンサン)が鹿児島県に上陸。9月1日には東海地方の南海上で熱帯低気圧に変わりましたが、九州を中心に甚大な被害が発生しました。スイスでは台風こそ発生しないものの、この夏は国内で大きな土砂災害が発生しており、台風10号による被害も多くのメディアが取り上げました。
各紙は動画外部リンクや写真外部リンクでも被害の大きさを伝えています。被害の大きさだけでなく、トヨタ自動車が14工場の稼働を停止外部リンクしたことも大きく報じられました。
気候変動との関連も注目されました。ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)やフランス語圏のスイス通信社Keystone-ATSは、「7月に発表された研究結果によると、気候変動の影響で、この地域の台風は以前より海岸近くで発生し、より早く発達し、より長く日本に留まるようになっている」と解説。ワールド・ウェザー・アトリビューションが29日に発表した別の研究によると、今年初めにフィリピン、台湾、中国を襲った台風「ガエミ」も、気候変動により威力を増したとのことです。
SRFは別の特集外部リンクで、気候変動を受けて洪水対策を進める東京都の取り組みも掘り下げました。(出典:SRF外部リンク/ドイツ語、Keystone-ATS外部リンク/フランス語)
終わらぬ原子力災害 3年遅れの原発解体
福島第1原子力発電所の事故から約13年半。今月2号機から核燃料デブリの試験的な取り出しが始まる予定でしたが、取り出し装置の取り付けにミスがあり、直前で延期されました。フリージャーナリストのフェリックス・リル氏の解説記事が、ドイツ語圏のCHメディア系の地域紙に掲載されました。
「全ての希望を乗せた伸縮アーム」。作業延期の原因となったデブリの取り出し装置を、リル氏はこう表現しました。細い釣り竿のようですが、高い放射能を発するデブリを22メートルも離れたところからしっかりとつかみ、「東北地方が最終的に正常な日常を取り戻せるように」することが期待されています。
しかし「がれきの撤去は3年前に始まっていたはず」でした。新型コロナ危機の発生や、当初開発されたアームの精度が不十分だったことから、解体作業は遅れていきました。さらにデブリの長期保管場所もまだ決まっていないことなどから、記事は「完全な解体は2051年までかかる予定だ。だが、これはもうほぼ不可能だと思われる」と指摘します。
解体の遅れは「将来、日本社会がどれだけ原子力に寛容になれるか」を左右すると続けます。福島の事故後、原発の安全神話は崩壊し、「よく調べるともはや安価とも考えられなくなった」。安全対策が厳格化され一部の原発は稼働を再開していますが、「原子力への回帰には、依然として議論の余地がある」と解説しています。「日本政府は繰り返し『福島の危機は制御可能である』と宣言しようとした。だが、現実は異なることが多かった」
またアジアのいくつかの国は依然として日本からの食品の輸入を禁止している、と記事は伝えています。背景には冷却水の海洋放出があり、「これがどの程度安全なのかについては、依然として議論の余地がある」と結びました。(出典:ザンクト・ガレン・タークブラット外部リンク/ドイツ語)
【スイスで報道されたその他のトピック】
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話題になったスイスのニュース
先週、最も注目されたスイスのニュースは「マッターホルンの麓町ツェルマット、日帰り客に入場料を検討」(記事/日本語)でした。他に「スイス政府、原発の新設解禁に前向き」(記事/日本語)、「スイスの年金・児童手当、来年から増額」(記事/英語)も良く読まれました。
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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は9月9日(月)に掲載予定です。
校閲:大野瑠衣子
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