スイスの視点を10言語で

スイス高級靴ブランド「バリー」が米PEファンドの傘下に 

バリーの靴
Keystone / Gaetan Bally

米投資会社リージェントがスイスの高級靴ブランド「バリー(BALLY)」を買収した。ラグジュアリー業界に何が起こっているのか?

米投資会社リージェントがスイスの高級靴ブランド「バリー(BALLY)」を買収した。ラグジュアリー業界に何が起こっているのか?

リージェントは15日、創業173年の歴史を持つ「バリー」を親会社のJAB(本社・ルクセンブルク)から買収したと発表外部リンクした。JABはドイツの複合企業で、2008年にバリーを買収した。リージェントはこれまでに「エスカーダ」「ラセンザ」「クラブモナコ」といったラグジュアリーブランドを傘下に収めている。

おすすめの記事
bally shoe

おすすめの記事

時代と共に歩んだスイス生まれのファッションブランド、バリー

このコンテンツが公開されたのは、 200年前、スイス北部の家族経営の靴屋バリーに訪れた変化は、スイス社会が経験した時代の変化そのもの。同社のバリヤーナ財団に残る写真は、バリーとスイスの歩んだ道のりを物語る。

もっと読む 時代と共に歩んだスイス生まれのファッションブランド、バリー

リージェント創業者兼会長のマイケル・ラインスタイン氏は声明外部リンクで、「170年以上にわたり時代を超越したデザインと比類のない品質を築いてきたその伝統は、洗練されたスイスの優雅さと職人技への揺るぎない努力の証だ。この素晴らしい物語の次の章を紡ぐという使命を託されたことを光栄に思う」と述べた。

バリーは中国の手に渡る寸前だった。中国の繊維大手、山東如意科技集団は2018年に過半数の一歩手前までバリー株を買い集めた。だが新型コロナウイルス感染症の世界的流行で資金調達につまずき、バリーの店舗が閉鎖されたこともあり、買収は頓挫した。

バリーは昨年グッチからシモーネ・ベロッティ氏を引き抜き、デザインディレクターに任命した。前ディレクターでストリートウェアに秀でていたルイージ・ビラセノール氏は、就任からわずか1年で退任した。この交代でバリーの経営は持ち直したが、リージェント買収がブランドの将来をどう動かしていくかは未知数だ。

swissinfo.chは高級品業界アナリストのカリーヌ・セゲディ氏(デロイト)とジャン・フィリップ・ベルチ氏(フォントベル)に話を聞いた。 

swissinfo.ch: 投資会社がラグジュアリーブランドを買収するのは珍しいことでしょうか?

ジャン・フィリップ・ベルチ:買収において珍しいことなど何もありません。「バルマン」や「ヴァレンティノ」を所有するカタールのメイフーラなど、似たようなことをする投資ファンドは他にもあります。

カリーヌ・セゲディ:業界にはいくつもの事例があり、珍しいことではありません。高級品ブランドが成功するには、規模を拡大するために多額の投資を必要とします。そのビジネスモデルにはいくつかあります。LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)、リシュモン、ケリングをはじめとする大規模ラグジュアリーコングロマリット(複合企業)型。オーデマ ピゲやロレックス、シャネル、エルメスなどの家族・個人経営型。そしてブライトリングやバリーなどのプライベートエクイティ(未公開株、PE)ファンドの傘下に入るなどです。

PEファンドが高級ブランドを抱えたがる大きな理由は、愛着や名声を得ることではありません。短期間で事業を建て直し、利益を上げなければならないのです。そこが、長期的視点で経営するファミリー企業との違いといえます。

リージェントによる買収で、バリーが受け継いできたスイスのDNAに変化が生じるでしょうか?

ベルチ:リージェントにとって「スイスらしさ」は重要です。ブランドのアイデンティティを変えたくはないでしょう。高級品を買う人にとって伝統、歴史、遺産といったものは重要ですから、それは金の卵を殺すようなものです。ラグジュアリーはグローバルなビジネスですが、ブランドの伝統を尊重する業界です。 

セゲティ:必ずしも変わるとはいえません。ラグジュアリー業界はあらゆるものがルーツや歴史、伝統と関連しています。一般的に、投資家は高級品ブランドの過度な多角化よりも、ブランドの中核事業と強みに焦点を当て、リソースを割り当てることを支援します。

PEファンドによる高級品ブランド買収が成功するためには、他業種と同じように人材やプロセス、投資を確保します。ラグジュアリービジネスとは何かを理解する必要があります。その実態は他とは異なり、たとえば利益率の低い量販ビジネスと同じような経営は不可能だからです。

世界のラグジュアリー市場はどのように変化していますか?

ベルチ:高級スニーカーや大きなブランドロゴの入ったTシャツなど、若者を狙ったアスピレーショナル(上昇志向)市場は苦戦しています。しかし超富裕層の購入意欲は強く、「静かなるラグジュアリー」を探し求めています。この分野で成功しているブランドとしてエルメス、ブルネロ・クチネリ、ロロ・ピアーナなどがあります。

バリーはスイスらしい控えめなスタイルを得意としていますが、小規模ブランドにとっては非常に難しい競争です。世界中の高級品購入者の大半を占めるミレニアル世代とZ世代に訴求する必要があります。

セゲティ:ラグジュアリー業界は製品だけではなく最終消費者を中心に据える方向にシフトしてきました。購入者に近づき、そのニーズや購買習慣、一人ひとり異なる高級品への関心を理解するためです。

電子商取引(EC)の存在感が高まっていますが、高級ブランドはブランドを形成し、最終消費者に近づくために、実店舗を必要としています。このため長期的に店舗全体の数は減っても、旗艦店は増えるでしょう。それには多額の投資と強いオーナー意識が必要であり、近年統合や買収が進む理由の一つとなっています。

編集:Mark Livingston、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部