いまだに問われるスイスの銀行の責任
スイスの銀行は第二次世界大戦中にドイツ・ナチスに荷担した罪を今度こそ認め、誠意を持って対処すべきである。スイスの銀行に対する追求と非難の声が、再び高まっている。
銀行の守秘義務を理由に、ホロコーストの犠牲になった顧客の親族にも口座内容を知らせず、預金の支払いも拒否していた。スイスの銀行は1998年、訴えを起こした世界ユダヤ人協会などとの交渉の末、12億5000万ドル(およそ1350億円)を支払うことで、「戦後」の決着をつけたはずだった。
来る4月、国際ユダヤ人会議などとスイスの銀行が賠償金支払いの迅速化を話し合う会合が催される予定である。これを前にして、賠償金の使い道の決定や該当者への配分の仕方を決める米連邦裁判官のエドワルド・R・コールマン氏がスイスの銀行を強く非難した。スイスの銀行の態度は「嘘を何度も繰り返すことで嘘が真実となる論理」を使っていると同氏。スイスの銀行がホロコーストの犠牲となった可能性のある1万5000件の顧客口座の公開を銀行側が拒否したことが背景にある。「銀行の嘘」とはコーマン氏によれば、「ナチの時代に銀行は一切不当なことをしなかった」とスイスの銀行が言いつづけたことにあるという。
「銀行はまだ隠している」
1998年に行われたホロコーストの犠牲者とスイスの銀行口座について調べた「ヴォルカー委員会の調査」では、スイスの銀行には名義の本人と連絡のつかない口座が5万4000件あるが、そのうちホロコーストと関連するであろうと見られる口座は2万1000件であるとして、その情報を公開した。しかし、コールマン氏は未公開の口座のうち1万5000件についても公開すべきであると主張している。
「銀行がすべてを公開しないことを正当化する理由はなく、銀行がごまかそうとしているだけだ。保身にこだわるのは、自分のイメージアップだけが頭にあるからだ。銀行の守秘義務は理由にはならない」とコールマン氏のスイスの銀行に対する批判は厳しい。同氏はさらに、「戦後、銀行はホロコーストの犠牲者の要求を無視し、脱税の手助けをしたり、マネーロンダリングに関わったり、独裁者に隠し資金の場所を提供してきた」と怒りを隠さない。「戦中ばかりか、戦後何十年にもわたって銀行は自分のことしか考えてこなかった。口座の情報を隠滅したことはスイスでは違法ではないのかもしれないが、銀行に好き勝手にさせたということは、非常に遺憾である」とスイス当局に書面で抗議した。
即刻の支払いを希望する銀行
スイスの銀行の弁護士であるロジャー・ヴィッテン氏は、「コールマン氏が主張する多くの点に対して銀行は抗議したいところだが、賠償金の分配が速やかに行われ、犠牲者と再び完全に和解できることを望んでいる」と言う。
賠償金のうち、6億400万ドルが支払われたのみで、残りはそのままになっている。大手の銀行のクレディ・スイス・グループの広報担当者カリン・ロームベルク氏も、賠償金の配分が速やかに行われることを望んでおり「コーマン氏の指摘する点については、すでに裁判所や国際ユダヤ人会議などと調整済みで、承諾されている事柄。銀行は賠償金額12億5000万ドルを即時支払い、賠償問題では銀行はやるべきことをやった」と反論している。
スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳
スイスの銀行が支払う総額12億5000万ドルの配分
8億ドル ホロコーストを生き残った人や犠牲者の家族への賠償金
4億5000万ドル ホロコーストの犠牲者や強制労働者、生き残りの人たちへの生活援助資金
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