つぎの休みが待ちきれない – 休日や休暇に対する考え方
仕事は嫌いではないが、私は休みが大好きだ。毎週末を楽しむと同時に、祝祭日や休暇が近づいてくるととても嬉しくなる。今日は、日本とスイスと両方の会社で働いた経験から、両国の人びとの休みというものに対する考え方の違いを考察したい。
今のこの時期は、キリスト教でクリスマスを迎えるための準備期間である待降節である。この期間は日本と同様に公私ともに何かと慌ただしい。クリスマスカードを発送したり、大掃除をしたりするし、仕事も年末が迫るごとに忙しくなる。そして、その後に家族でゆっくりと祝うクリスマスがやってくる。
日本人にとって外来の祭りであるクリスマスはキリスト教徒でない限り、恋人たちが楽しんだり、子供たちがプレゼントをもらう日という認識に近いと思うが、キリスト教国では一年の中でもっとも大切な祝日だ。ちょうど日本人にとっての正月のような意味合いがある。キリストの生誕を祝い、平和に感謝し、家族が一緒に過ごす。
私の住む地域では、キリスト聖誕祭である12月25日と、聖ステファノの祝日である翌26日が祝日だ。それから大晦日までは平日で、元旦が祝日、そして2日から普通に出勤する。チューリヒ州などでは2日も慣例的に休業する会社もあるようだが、グラウビュンデン州ではそのような慣習はない。
日本の国民の祝日は2014年の12月現在で15日ある。カレンダーなどに印刷されるスイスの祝日(Feiertage)は16日あるので、日本よりも多いように感じるが、実際に休めるのは最高で9日しかない。スイスの祝日外部リンクは基本的に州(Kanton)ごとに決まっている。基本的にと書いたのは、私の住むグラウビュンデン州が例外にあたり市町村(Gemeinde)ごとに祝日が決まっているからだ。16日というのはその延べの祝日数にすぎず、例えば、私の勤務先がある村の祝日は8日間で、そのうちの1日である復活祭(Ostern)は必ず日曜日だ。
スイスでは国が祝日と制定しているのは、建国記念日(8月1日)だけである。残りの祝日は各州(または市町村)が最高8日まで自由に決めることができる。大きく影響するのは、州(または市町村)がカトリックとプロテスタントのどちらの宗派を公認としているかである。グラウビュンデン州は市町村ごとに公認宗派が違うので、祝日も市町村ごとに違うというわけだ。
加えて州(または地域、市町村)特有の慣例や伝統が考慮される。例えば、その村だけで祝われる伝統的祭儀があれば、その村だけ祝日となるといった具合である。
日本の法律では祝日が日曜日と重なると振替休日となるが、スイスにはそのような制度はない。祝日が土日と重なると年間の祝日が減ったように感じる。私の経験したもっとも極端な例は4年前で、2010年5月24日(精霊降臨の月曜日)の後、11ヶ月後の2011年4月11日(聖金曜日)まで土日と重ならない祝日はなかった。
日本にはたくさんの国民の祝日があるだけでなく、企業によっては年末年始やお盆の時期に会社を閉めて、冬休みや夏休みにあたる休業期間を設けている所もある。大企業の場合はその分を有給休暇取得日数に加算しない所も多い。その分、それ以上のまとまった有給休暇を取得しにくい空気が生まれているとも聞く。
スイスでは日本でいうお盆や年末のように、祝日でない日にも会社が一定期間休業することは一般的ではない。ホテルや飲食店などは閑散期に施設を閉めて設備メンテナンスをするために一斉に従業員に休暇をとらせることもあるが、その場合も有給休暇をそこで消化することになっているようだ。私もクリスマスから大晦日まで休むことが多いが、祝日である三日間以外は自分の有給休暇を使う。
スイスで働き、さらにこちらの生活で知り合った人びとと話していて感じることだが、有給休暇を取るのは当然の権利で、「他の人が取っていないから」とか「忙しくて消化できない」といって、消滅するままにする人はあまりいない。
休みや家族と過ごすことは、たぶんスイス人の多くにとって仕事よりも優先順位が高い。少なくとも「休暇をとって申し訳ない」という意識は全くないと思う。日本で勤めていた時、「お休みをいただき、ありがとうございます」「この日にどうしても外せない私用があって有休をいただきたいのですが」と会社と同僚に頭を下げる気持でいたのとは対照的だと感じた。
そういえば、スイスで勤めだしてから人びとが定時で働くことにも少し驚いた経験がある。私の現在の職業はプログラマーなのだが、無理な納期にあわせるためにサービス残業をしたり、夜中まで働いたことは十年間でほとんどない。もちろん、スイスにもサービス残業的な働き方をする人がいることは知っている。けれどそれはその人の問題で、日本のように「みんなそうだからしかたない」というような理由で決められた以上の時間で働く人はほとんどいない。
むしろ仕事があるわけでないのにダラダラと居残る態度は問題視される。私の職場でそのようなことが頻発したら、決められた時間内に終わらせることができないのには、どのような理由と問題があるのかと上司から問いただされる。本人の素質に関わる問題でもあるからだ。
また、先ほど述べたように、土日以外の休みがさほどないため、「休みが多すぎて有給休暇を完全取得するのは難しい」というようなこともない。そのため、働くときはしっかり働き、休むときは可能な限り長くしっかり休むという風潮があるように思う。
私を訪れる日本の友人が、往復に必要な3日間を含めてわずか9日間の日程でヨーロッパを訪れ、せっかくヨーロッパまで来たのだからと6日の滞在期間に何カ国も訪れることがある。そのスケジュールを聞くと、スイスの友人たちはみな目を丸くする。そもそもたった6日しか滞在できないのに8時間もの時差がある遠くまで行くことが信じられないらしいが、帰国して翌日から働かなくてはならないのに、大きな荷物を持ってヨーロッパ中を駆け回るような疲れることをする理由がわからないと言うのだ。
基本的にスイスの人たちにとって休暇の旅とは「休む」ためのものである。もちろん外国に行くこと自体は疲れるのだが、大抵は一カ所に何日間、もしくは休暇の間ずっと滞在し、ゆっくり朝寝をしたり、散歩をしたり、スパでリラックスしたり、のんびりと読書するようなリラックスする時間を持つことが多いと思う。
例えばスキーの休暇のようにアクティヴに体を動かすこともあるけれども、少なくとも一つでも多くの都市に行くためだけに、遠い外国からついた翌朝早朝に朝食も食べずに移動するなどということはまずしないと思う。
私も日本から来たはじめの頃は、海外旅行に行くとなると、事前に近くの観光名所を調べてできるだけ効率的に回るためにはどうしたらいいかと計画したこともあったが、最近ではその日本式計画性はすっかり消え失せて、むしろ体を休めてリラックスすることを優先するようになった。
今度の年末年始は、祝日と土日が綺麗に連休となる。私は金曜日である1月2日に有給休暇を取り、スイスで勤めはじめて初めて三が日を休むことにした。日本ではあたり前だったのんびりとしたお正月を楽しめるのが嬉しくて、今からワクワクしている。
このブログ「もっと知りたいスイス生活」も本日の私のこの投稿が年内最後になる。一年間のご愛読に感謝し、また来年もみなさんが知りたいスイス生活について興味深いテーマを探していきたいと思っている。
皆様、平和で楽しいクリスマスシーズンと、よいお年をお迎えください。来る年もどうぞよろしくお願いいたします。
ソリーヴァ江口葵
東京都出身。2001年よりグラウビュンデン州ドムレシュク谷のシルス村に在住。夫と二人暮らしで、職業はプログラマー。趣味は旅行と音楽鑑賞。自然が好きで、静かな田舎の村暮らしを楽しんでいます。
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