インターラーケンはパラグライダーのパラダイス
パラグライダーでアルプスの雄大な自然や輝く湖を一望する「空中散歩」が観光客の人気を集めている。パラグライダーパイロットに操縦を任せ、安心して気軽に飛行体験ができる「タンデム飛行」に絶好の場所がインターラーケンだ。
スイスで唯一の日本人パラグライダーパイロット、三木文生氏によれば、「飛べる日」が年間で300日以上あるところはほかになく、インターラーケンは「スペシャルな場所」だ。
インターラーケンはアルプス山脈の絶景が魅力であることは言うまでもないが、4000メートル級の山々が壁となって、天候の急変による影響を受けることが少なく安定した気象条件に恵まれていると三木氏は言う。それは空のスポーツにとっても好条件だ。
旅行の合間に飛行体験
スイスには各地に600を超えるハンググライディングやパラグライディングの離陸地点がある。インターラーケンではプロのパイロットと手軽に飛行体験ができる「タンデム飛行」が盛んだ。プロが操縦するため、知識や経験、年齢を問わず誰でも思い立つとすぐに挑戦できる。
インターラーケンにはこれらのタンデム飛行を提供する会社が七つあり、標高1200メートルのベアテンベルク(Beatenberg)山の中腹からの飛行は特に人気が高い。
スイス・ハンググライディング・パラグライディング協会(SHPA)の広報担当ベン・ライデマン氏も、「スイス国内で年間1万5000回から1万8000回のタンデム飛行があるが、インターラーケンだけで1万回以上を数える。気象条件が安定しているし着地点に適した広大な緑地も多く、タンデム飛行を計画に入れて訪れる旅行者も多い」と語り、「インターラーケンなら(天候条件が整うのを待つことなく)すぐに飛べる。時間のない旅行者には絶好の場所だ」と太鼓判を押す。
飛行の醍醐味
「生身の体で空を飛ぶというのは、まったくの非日常的体験。表現しにくいが、本当に気持ちがいい」と三木氏は語る。タンデム飛行に初めて挑戦する人は大抵、離陸直後は驚きと興奮で大騒ぎするが、すぐに慣れて滑空を満喫できるという。
「空中で聞こえるのは、風を切る音だけ」。パイロットは目には見えない風を読む。うまく上昇気流に乗ることができれば、高度を上げて何時間でも遠くへ滑空することも可能だ。もっとも、タンデム飛行の場合は10分から20分の短い空の散歩となる。
しかし、鳥のように空をめぐり、アルプスの山々とブリエンツ湖やトゥーン湖を見下ろす体験に、着地後は誰もが感動を口にし、また機会があればやりたいと思うそうだ。
三木氏はインターラーケンで1年間におよそ650本ものタンデム飛行をこなす。それでも「いまだに飽きることは全くない。風が違うし、空気の澄み具合も日によって変わる上、景色も違う」と言う。
危険というイメージ
しかし、タンデム飛行をやろうとする人のほとんどが、まず「危険ではないのか」と尋ねるという。空のスポーツには危険というイメージがつきものだからだ。
三木氏自身にも事故の経験はある。スイスでの大会中に、地上約50メートル地点で機体が「ぐにゃっとつぶれた」。パラグライディングは機体が抱え込む空気を「翼」にして飛ぶ。翼がつぶれても高度さえあれば、空気を再度取り込み翼を立て直すチャンスがある。しかし、そのときは、高度はあったものの翼を立て直せず山の斜面に接触し急斜面を滑り落ちた。だが、幸いにもけがはなかった。
しかし、これは技術や記録を競う競技会での出来事で、10年ほど前の話だ。確かにパラグライディングによる事故もある。例えば2008年にはスイス国内で4件、2009年は5件の死亡事故が報告された。しかし、保険会社は一様に、パラグライディングを「リスクスポーツ(危険度の高いスポーツ)」とは見ていない。
その理由は、保険大手「スファ(SUVA)」の広報担当ローランド・ヒュギ氏によれば、「パラグライディングは、風、天気、装備、訓練などの基本的な安全性が維持されていれば、ほかの一般的なスポーツと同様、常識的な程度の危険を伴う活動に過ぎない」からだ。
しかし、「例えば、ベースジャンプ(高度の低いところからパラシュートをつけて飛び降りるスポーツ)は、飛行操作自体が『絶対的な危険』と結びついているため、リスクスポーツに分類されている」と説明する。
前出のライデマン氏は、「旅行者のタンデム飛行は、競技飛行と違い危険なことはまずない」と補足する。さらに、「そもそも(単独飛行に必要なライセンス取得のための)試験は非常に難しく、豊富な知識と高度な技術が要求される」とパイロットへの信頼を語り、「私自身も最後にヒヤッとしたのは、いつだか思い出せないくらい昔のことだ」と安全性を強調する。
三木氏も、「初めてパラグライディングを体験する人にとっては、飛行体験は興奮そのものだが、パイロットは至って冷静に飛行に集中している。安心して楽しんでもらうためにも、プロは安全性を最も重視している」と語る。
1969年、埼玉県に生まれる。
スイスで日本人唯一のプロのタンデムパラグライダーパイロット。
1997年からスイスを拠点に活動。年間を通してパラグライダーのパイロットとしてタンデム飛行を提供するほか、冬場はスキーのインストラクターとしても活躍。
日本のラジオ局「ラヂオつくば」に自身の番組「みっきー’s ラウンジ」を持ち、スイスの情報を発信する。
山の斜面に設けられた離陸地点などから、翼となる機体(グライダー、キャノピーともいう)に吊り下げられたハーネス(座席)に座る形で、機体を左右の操縦紐で操縦しながら着地するまで滑空するスポーツ。
機体を広げた上体で斜面を走り降りて離陸する。上昇気流を利用してらせん状に上昇することで、何時間も何十キロ遠方へも滑空し続けることができる。
機体の長さは単独用・タンデム用によって異なり、8mから15mとさまざま。機材全体の重量は、15kgから25kg。インターラーケンでのパラグライディングのタンデム飛行は、飛行時間10分から20分、全行程は約1時間半、費用およそ170フラン(約1万6500円)。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。