エイズの女性感染者増加に警鐘を鳴らす
12月1日のエイズデーに当たり、ジュネーブに本部を置く世界保健機関(WHO)と国連エイズ計画(UNAIDS)は、2004年版『エイズ感染報告書』を発表。ここ2年間の、HIVウイルスの女性感染者の世界的増加に注目し、緊急対策の重要性を訴えた。
報告書は多くの国で女性は社会的、経済的立場が弱いため、男性に対し危険な関係を断ったり、コンドームの使用を求めたりすることが出来ないことを感染拡大要因の一つと分析。女性差別の解消や予防教育が感染防止になると強調した。
世界のエイズ状況
同報告書は世界のエイズ感染者3,940万人のうち、女性感染者は推定1,760万人と見ている。地域別にみると、サハラ砂漠以南のアフリカが1,330万人と世界の4分の3を占める。東南アジアも210万人と続いて女性感染者が最も多い地域の一つとなった。
ここ2年間で女性感染者が増加した地域は東アジア(中国が主)で56%、続いてロシアやウクライナなど東ヨーロッパの国々(48%)だった。東南アジアでは特に売春婦などから感染した男性から、その妻への感染が増えている。
アフリカでは大人の感染者の60%が女性で、若者(15歳〜24歳)の感染者の4分の3が女子という深刻な状況だ。
女性感染について
世界エイズデーを前に、30日に記者会見をしたWHOのエイズ担当局長のキム・ジム博士は「女性が治療にアクセスできること、女性を暴力から守ることなどが今後のエイズ対策の鍵だ」と強調。WHOの発表によれば、世界で推定で3人に1人から5人に1人の女性がこれまでに身体的、性的暴力を受けたことがあり、暴力を受けた女性の感染率は高いという。
生理的特長から性行為では男性から女性へ感染する確率が、その逆のケースより2倍高い。特に若い女性は膣の内壁が傷つきやすく強制された場合は傷口から感染し易いために感染率が上る。UNAIDSの事務局長、ピーター・ピオット博士は「暴力を恐れる女性達はエイズテストを受けたり、治療を受けたりすることも恐れる」と指摘し、女性がアクセスし易く、お金の掛からない治療制度を各国が導入する必要を説いた。
スイスでも多い女性感染者
スイスではエイズ感染者は2万人いるがその内女性は5千から6千人とまだ少ない。しかし、ベルン支部のスイスエイズ連盟によると去年エイズ感染が判明した750人のうち42%が女性だったとし、スイスでも女性への感染が広がっていることを指摘している。スイスエイズ連盟のベアトリス・アベソルド氏は「昨年テストで、エイズ感染が分かった人の内52%は移民で、そのほとんどが女性だった。女性の貧困と低い教育レベルがエイズ感染のリスクを大きくしている」と語る。
スイスでは他の先進国と同様に1970年代から感染が広がった。当初は麻薬使用者や同性間感染が多かったが、1980年中頃から異性間感染が堅実に増えている。スイスエイズ連盟によると今日では感染者の54%がエイズ予防対策をしない異性間の接触により感染している。
スイス国際放送 屋山明乃(ややまあけの)
– 国連エイズ計画(UNAIDS)と世界保健機関(WHO)の2004年版『エイズ感染報告書』によると、世界のエイズウイルス(HIV)感染者は過去最多の3,940万人に上ると発表した。
– エイズによる年間死者は310万人。
– 日本を含む東アジアの感染者は110万人で、中国、インドネシア、ベトナムの感染者が目立つ。
– 全世界の感染者の64%がアフリカに住むが、女性だけを見ると76%にもなる。
– スイスのエイズ感染者数は2万人。うち5千から6千人が女性。
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