エベレストと批判克服に再びチャレンジ
スイス女性で最初にエベレスト登頂に成功したエヴェリン・ビンザックさんが今度は酸素ボンベを使わずに、2度目のエベレストを目指す。
標高8,848メートル(2001年の測定値)の高さを誇るエベレスト山脈の最高峰。その登頂に成功したビンザックさんのことを口さがない人々は「酸素ボンベの力を借りて成功したのだから記録保持者とはならない」と批判する。
ネパールのカトマンズで行われたスイスインフォとの現地インタビューで、ビンザックさんは当時を振り返って、「あのような批判は非常にこたえた」、と語った。
ビンザックさんを再挑戦に駆り立てたもの
swissinfo: どうしてまたエベレストに戻ってきたのですか?
答えは簡単です。登頂チームに無料で参加しないかと声をかけられたからです。普通、エベレストに登るのには大変お金がかかりますからね。
swissinfo: 今回の登頂では酸素ボンベを持たずに上がるそうですが、どうしてそのような決断をされたのでしょうか?
それでやれるかどうか、自分を確かめたかったのです。私が2001年に初めてエベレストに挑戦した時は、酸素ボンベを持っていかないなんて考えもしませんでした。それが後に「スイス最初のエベレスト女性登頂者」としての評判を傷つけるなんて想像もしなかったのです。「スイス最初のエベレスト男性登頂者であるユルク・マルメット氏(1956年に登頂成功)だって酸素ボンベは持っていったのですから。
swissinfo: より危険な方法で登頂することについて、ビンザックさんが自分の力を証明したい相手は自分自身でしょうか、それとも批判的な他の登山家でしょうか。
私はエベレスト登頂にはすでに成功しているので、今度は新しいチャレンジをしたくなったのです。酸素ボンベを使わないで登るというのは私にとって格好のチャレンジとなります。
最初に登頂に成功した時に、酸素ボンベを持っていったからという理由で私はひどい批判を受けたんですよ。他の登山家は「本物の登山家だったらそんな道具は使わない」と非難しました。そうですね、だから私の答えは両方ですね。自分自身に対して、批判する人々に対して、私はできるのだ、ということを証明したいのです。
世界には8,000メートル級の山が14ありますが、それらに全部挑戦するつもりはありません。それでも、少ないリスクで何か新しいことを、と思っていた時に今回のような話が来て、ちょうど良いチャンスだと感じたのです。
男性社会の壁は山よりも険しく
swissinfo: ビンザックさんは、12年以上も登山ガイドとして働き、現在はスペインでヘリコプターのパイロットとして活躍なさっています。どちらも女性があまりいない分野ですが、男性の世界で女性が1人いる、というのはどのような感じですか?
やはり時に大変なことはあります。例えば、もし男性がエベレストに登ったとしても、世間はあまり騒がないでしょう。でももし女性が同じ事をすると、「大きなことを成し遂げた」として特別な扱いとなります。これが男性の登山家にとっては面白くないのではないでしょうか。この世界で、男性は女性が同じ分野で活躍することに慣れていないようです。
swissinfo: 2001年にエベレストの登頂に成功してから、生活に変化はありましたか?
はい、それはもちろん。一斉にメディアの注目を浴びましたし、講演会に招かれてスピーチをすることも多くなりました。このような生活は私にとってまったく新しい経験でした。
自分が経験したことを言葉にする、という事も私にとって新しい挑戦でした。今までは本能的にその瞬間、瞬間で判断していただけの生活だったのです。でも、自分の経験を言葉で表現することによって、「自分の感情に素直に生き、夢を叶えることを恐れてはいけない」と人々を励ますことができたのは、嬉しい経験でした。
swissinfo: エベレスト登頂は昔からの大きな夢でしたか?
10代のころ、少し憧れたことはありましたが、まさか実現するとは思っていませんでした。何よりもお金がかかると知っていましたからね。でも時代も変わり、幸運にも恵まれましたから。
swissinfo: 今回の再挑戦について何かコメントをお願いします。登頂達成の可能性は前回より高いのではないでしょうか?
エベレスト登頂は、いつの時代も大変難しいものです。1つの山頂にたどり着くまでに70日もかかるのです。これがスイスの山で、70日もかけたら私はそれこそ140の山頂に到達できるでしょう。エベレストはそれほど他の山とは違うのです。そしてそこまで努力して、もし失敗すれば、当然落胆も非常に大きいものとなります。
けれども私はこれまでの人生から、失敗を克服すること、そしてその失敗によって精神的により強くなることを学びました。だから、もし今回の試みが失敗しても、私の人生が台無しになるということはありません。
でももし今回の登頂に成功できなかったら、スイスに帰ってくる時は激しい批判に耐える事ができるよう、しっかり気を張っていなければいけないでしょう。
swissinfo: この挑戦が終わった後はどんな事を考えていらっしゃいますか?
南極大陸に行こうと思っています。まず最初に自転車でスイスのインネルトキルヒェンから南米チリのプンタアレナスまで行き、そこから飛行機に乗って南極大陸に渡り、そこから南極点まで徒歩で行きたいのです。
swissinfo: エベレスト登頂を果たした多くの登山家が次に南極を目指しますね。なぜでしょう?
うまく説明できませんが、私たち登山家は山についてはすでに多くのことを知っています。もちろん、それぞれの山に特徴があるのですが、多かれ少なかれ、山は山です。南極大陸は、山の世界とはまったく別のチャレンジを私に与えてくれる気がするのです。考えただけでエキサイティングです。
Swissinfo ビリー・ビイアリンク(ネパール、カトマンズにて) 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳
−エヴェリン・ビンザックさんはスイス中部のインターラーケンに近い町で生まれた。
−ビンザックさんは、遭難事故も少なくない厳しいアイガー北壁(スイスアルプスの一部)の冬の登頂にも成功している。
−2001年5月23日、ビンザックさんはエベレスト登頂を果たしたスイスで最初の女性となった。(世界最初の女性は日本人の田部井淳子さんで1975年に登頂成功)
−エベレスト登頂に成功したスイス最初の男性はユルク・マルメット氏で、1956年5月23日の事だった。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。