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ガイドブックに載っていない、夏のチューリヒ2015

ミュンスター橋からはチューリヒの名所、聖母教会と聖ペーター教会が並んだ姿を眺める事ができる swissinfo.ch

熱波の影響で、2003年以来の記録的な暑さが続いた今年のスイスの夏。チューリヒ州でも猛暑が数週間続き、気温が35℃を超える日々も続いた。そんなチューリヒの街では今、芸術家達のアート作品が野外で展示される「サマーフェスティバル(The Summer Festival)」が開催中で、街全体が熱く賑わっている。夏のアートの展示は不定期で数年に一度、様々な趣向を凝らし行われる。今回は今年の街のアートの話題も絡め、ガイドブックではあまり語られていない筆者のおススメ、夏のチューリヒの街歩きをご紹介する。

 「歩く事を楽しむ」というスイスでの習慣が身に付いた自分にとって、雲一つ無い晴れの日は心もウキウキし、外へ出かけたくなるのだが、気温が高過ぎると、町の散策も熱中症にかからないよう注意が必要だ。7月のある日、水分をこまめに補給しながら快晴のチューリヒの街を歩いてみた。お気に入りの散策コースはバーンホフシュトラッセ(Bahnhofstrasse)から、橋を渡った川向こうのベルビュー(Bellevue)界隈まで。途中、あちらこちらで夏の風景を楽しみながら、街のそぞろ歩きをした。 

 チューリヒの街の見どころはいくつもあるのだが、最初はサマーフェスティバルの期間中(2015年6月25日〜9月6日まで)に屋外で展示されるアートを見物する事にした。まずは中央駅(HB)から、作品が展示されているショッピングストリートであるバーンホフシュトラッセを散策する。通常はスイスの国旗とチューリヒ州の旗が掲げられている大通りは、現在、チューリヒの歴史的著名人達を描いた肖像画の旗が翻っている。これらは「Historic Faces」と名付けられたアート作品の一部である。バーンホフシュトラッセを中心に、その他のアートも展示されている。

町のメイン通りであるバーンホフシュトラッセには、歴史的著名人の顔が並ぶ swissinfo.ch

 夏の屋外のお楽しみの一つは、心地よいテラスに腰かけて食事をしたり、お茶を楽しんだりする事。夏になると屋外テーブルは、通りのカフェにズラリと並ぶ。大通りのデパートやファッションビルでは夏の間、屋上のテラス席が開放され、街を見渡しながら気軽に軽食を楽しめる。

 サマーフェスティバルの公式サイトに掲載されている、アート作品のリスト(どこに、どのアーティストの作品が展示されているのか)を参考に、大通りを少し反れて歩いてみた。世界初のベジタリアンレストランで、チューリヒの人気ビュッフェレストラン、ヒルトゥル(Hiltl)は現在、建物全体がアートと化して芝で覆われている。

1898年創業、世界最古のベジタリアンレストランとしてギネス記録を持つヒルトゥルが、「Grass façade」と名付けられた作品で、建物全体が緑のアートに大変身! swissinfo.ch

 バーンホフシュトラッセに本店を構える、チューリヒの老舗菓子店「シュプルングリ(Confiserie Sprüngli)」のビルにもアートが飾られ、通りには創始者の一人であるルドルフ・シュプルングリの肖像画が掲げられている。数々の著名人の肖像画の中には、馴染みのある顔ぶれもあれば、まったく検討も付かない人達もおり、この機会にチューリヒの歴史的人物についてあらためて学ぶ機会が増えた。

サマーフェスティバルの期間中、町のあちこちで見かけるアート作品の数々。シュプルングリの建物にも、アーティストHannes Schmid氏の作品「2030」が展示されている swissinfo.ch

 いくつもある細い通りをリマト川が流れる方角へと抜けると、川沿いの散歩道へ。カメラを持った観光客や、地元の人たちも歩いている小径からは聖母教会(フラウミュンスター Fraumünster)や聖ペーター教会、対岸のグロスミュンスター(大聖堂 Grossmünster)等が目の前に広がる。途中、リマト川にかかる橋の上で立ち止まって、美しい街の風景を眺めてみる。春から夏の間にだけ運行されるガラス張りの水上バスが川を行く。水は太陽の陽射しを受け、青と深い緑色に輝き、眩しいくらいに綺麗だ。教会や橋、歴史的建造物などが並ぶ川沿いの道は、絶好の写真撮影スポット!リマト川の周りのレストランやカフェにも、もちろん屋外のテラス席が設けられている。

夏の日はテラス席でランチ!デパートMANORの食堂では、セルフサービスで好きなものを購入し、人々は好みの席に腰掛けて、憩いの時間を過ごす swissinfo.ch

 この日はバーンホフシュトラッセを通り、リマト川沿いの小径へと抜け、水辺でたわむれる白鳥達を眺めながら、のんびりと歩いてみた。途中、チューリヒ・カヌークラブのメンバーらしき人達が、カヌーを漕いでいる光景も目に入った。チューリヒ湖ではヨットやクルーザー、リマト川には水上バスとカヌー。これもまた夏のお馴染みの風景。ウィンタースポーツのイメージが強いスイスだが、実は短い夏に、水上スポーツを楽しむ人達も多いのだ!リマト川には、夏の間だけオープンする女性専用の河川プールもある。開放的なスイスの女性達は川辺のデッキの上に寝そべり、結構大胆なポーズで日光浴を楽しんでいる姿を見かける。

夏の間運行されるリマト川の水上バス。川の上も公共交通でラクラク移動 swissinfo.ch

 ミュンスター橋(Münsterbrücke)を渡って対岸へ、グロスミュンスターの方角へと向かった。チューリヒの旧市街だ。グロスミュンスターは2つの塔を持つロマネスク様式の大聖堂で、街のランドマーク的な存在だ。ここまで辿り着いたら、時間に余裕のある健脚者には、是非塔の上まで歩いて登っていただきたい。2塔のうちの一つ、「カールス塔(Grossmunster Karlsturm)」が一般向けに有料(4フラン)で開放されており、塔の上からは360度の大パノラマで、町全体を眺める事が出来る。空気の澄んだ天気のよい日(特に午前中)には、チューリヒ湖の向こうの遥か彼方に雄大なアルプスの山々を見渡せる。

グロスミュンスターの塔からの街の眺め。くっきりとした壮大なアルプスを街から眺めたい場合、澄みきった空気の冬から春先の晴れの日がおススメ! swissinfo.ch

 歴史の刻まれたチューリヒには、街の各所にゴーストの伝説や怪談が残っている地区がある。街では「The Ghost Walk of Zurich」という、歩きながら怪談にまつわる場所を英国人ガイドと共に巡る、ゴーストウォーキングツアーが行われている。現在は春から夏の数ヶ月の間の木曜日と金曜日の夜、及び、ハロウィンの日に開催されている。ガイドから英語で説明を受けながら、怖い伝説の残る場所を歩いて回るのだという。チューリヒの3人の守護神が眠るグロスミュンスターや、近くにある水の教会(Wasserkirche)、聖ペーター教会等にも、ゴーストにまつわる数々の怪談が残されているのだそうだ。

ゴースト伝説が残る、グロスミュンスターとその周辺。チューリヒの長い歴史が刻まれている swissinfo.ch

 グロスミュンスターの脇を通り抜けて川向こうのベルビュー地区まで移動した。いつものように、美しい景観が楽しめる橋の上から、透けるような青空の下のチューリヒの街を見渡してみた。どこがチューリヒで1番美しい景色かと問われれば、1カ所に絞るのはほぼ不可能だと答える。季節や天気、時間帯によって、眺める場所の景色の美しさはそれぞれ異なり、甲乙が付けられないからだ。個人的には、ベルビュー地区とフェリーが出航するビュルクリプラッツを結ぶクヴァイ橋(Quaibrücke)の上から眺める、青く輝くリマト川、町のシンボルでもある3つの教会、フラウミュンスターと聖ペーター教会、対岸のグロスミュンスターを同時に眺めるチューリヒの街の風景が季節を問わず、筆者のイチバンのお気に入りの場所である。

バーンホフシュトラッセから川の向こう側ベルビューまで歩いた後は、クヴァイ橋の上からリマト川と3つの教会、チュ―リヒの街を見渡す swissinfo.ch

 夏の終わりの8月後半には、毎年恒例のストリートパレードも開催されるチューリヒの街。スイスの美しい夏は、あともうしばらくの間は楽しめそうだ。 

スミス 香

 

福岡生まれの福岡育ち。都内の大学へ進学、その後就職し、以降は東京で過ごす。今年の春で、スイス在住12年目。現在はドイツ語圏のチューリヒ州で、日本文化をこよなく愛する英国人の夫と二人暮らし。日本・スイス・英国と3つの文化に囲まれながら、スイスでの生活は現在でもカルチャーショックを感じる日々。趣味は野球観戦、旅行、食べ歩き、美味しいワインを楽しむ事。自身では2009年より、美しいスイスの自然と季節の移り変わり、人々の生活風景を綴る、個人のブログ「スイスの街角から」をチューリヒ湖畔より更新中。

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