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クリスマスのご馳走に「カルドンとトリュフ」

野菜の王様カルドン。大きく存在感があり、その意味でも王の名にふさわしい。下準備されたプラスティック入りもあるが、新鮮なものを買ってきて自分で料理するのが一番という F1 Online

スイスフランス語圏の人はクリスマスに何を食べるのかとの質問に「それはもちろんカルドン。野菜の王様と私は呼んでいて、トリや七面鳥料理によく合う」という答えがマキシム・ピエトリ氏 から返ってきた。

ピエトリ氏は、フランス語圏の日刊紙「ル・タン」の日曜版にウイットに富む記事を掲載する料理研究家。「カルドンは祖母が育てていた。春に種をまくと秋には1メートルを越える高さに成長。その後白さを保つため冬まで覆いをかけて世話をする。大好きな野菜でした」と子どもの頃を懐かしむ。

トリュフ入りのビネグレットソース

 カルドンはもともと地中海地方が原産のアザミ科の植物。それがなぜか、スイスのヴォー州、ジュネーブ州、フランスのロール・アルプス県、つまりレマン湖とローヌ川周辺地域にのみ広がり定着した。

 味は日本のフキのような野性味のある淡白なもの。丈1メートルもの長いセロリのような「葉」が何重か重なり、その両脇に細い棘がびっしりとついている。昔はロバが好んで食べていたというが、これを初めて食用にと思いついた人はよほど空腹だったのではと思われる代物だ。

 覆いをかけて冬を待ったり、棘を取ってゆでたりという下準備の手間のせいか、日常消費する野菜ではなく、冬の特別な祭りのためのもの、特にクリスマスの野菜となって定着したという。

 ピエトリ氏風の下準備は、まずカルドンの棘と皮を取り、黒ずまないようにレモン水につけ、次いで「ブラン ( blanc ) /白」と呼ばれる、塩、小麦粉、ミルク、脂肪 分 ( ラード、油など) の入った水でゆでる。その後の伝統的な料理法は、ベシャメルソースやクリームとチーズ入りのグラタン。

 しかし、ピエトリ氏が好きなのはクルミ油と質の良い酢を混ぜたビネグレットソースを、カルドンが熱いうちにかけて食べるもの。そしてさらにおいしいのは、このビネグレットソースに数時間前から薄く切ったトリュフを数切れ入れたものだという。
「クルミ油がトリュフの香りを引き出してくれる。それがビネグレットソース全体に広がり、ああ、それは素晴らしいソースになります」
 とピエトリ氏は恍惚とした表情になった。

生姜飴のシロップ

 クリスマスの定番カルドンに、ピエトリ氏が合わせる肉料理はなんといっても七面鳥やトリの丸焼き料理。締めのデザートもあっさりした「アグリュム ( agrumes ) 」という、オレンジとグレープフルーツのサラダが多いという。その中でも、
「今日は生姜入りシロップをかけたものを紹介しましょう」
とピエトリ氏はキッチンに立った。

 そこは、今作ったというりんごのゼリーの入ったビンが並び、これも材料に使うのかと思えるバラの花びらが皿に盛られ、不思議な形の温度計もころがる、まるで何かの工房のような空間。そこで、ピエトリ氏は素早く片手なべに生姜一かけを切って入れ、砂糖をざっと山盛りに加えた後、水を入れて中火で煮始めた。すべてが目分量だ。

 その間にオレンジとグレープフルーツの上下部分を絞り、残りを食べやすく切ってジュースと一緒にボールに入れている。シロップの表面全体を覆う小さな泡が大きくなり、なべ底辺りがキツネ色になったらサッとフルーツの上にかけて出来上がり。シロップが「生姜飴」のようになって酸味のあるフルーツと合い、色合いもきれいな、なかなかの1品だ。

 結婚して以来、料理はピエトリ氏がいつも作ってきた。料理好きの祖母の影響で若い頃から料理を始めた。アメリカに留学していた頃、料理ができたので女子学生にもてて困ったそうだ。スイスのクリスマスは家族だけの夕べ。トリュフの香りが広がるカルドンを、奥さんと2人「おお、今年も素晴らしい」と語り合うのだろうか。

swissinfo、 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 

カルドンには、2,3種類あり、フランスのリヨンには棘のない緑と白のものもある。しかし、一番おいしいのは、ジュネーブ産の棘つきの、つやのある白いカルドン。これはスイスの連邦農業局が品質保証書を出していて、「カルドン・アルジャンテ・エピヌ・デ・プランパレ ( cardon argenté épineux de Plainpalais ) 」と呼ばれるもの。

トリュフは品質の良いものは、極上の香りがする。しかし、質の悪いものも多い。冬のトリュフで最高のものは「チューバー・メラノノスポリュム ( Tuber melanosporum ) 」と呼ばれるもの。

良い香りのトリュフが手に入ったときは、それを冷蔵庫で卵と一緒に置いておくと、朝食のゆで卵に香りが移っていい気分になるという。

高価なトリュフを入れたビネグレットソースは最高で、スイスの有名なコック、ジラルデール氏もよくこのビネグレットソースを使っていた。

トリュフを薄く切るための、特別な削り器も市販されている。

20年来ジュネーブに住む、フランス出身の指圧療法師だった。しかし同時に、多くの料理レシピーも発表していた。9年前から専門の料理研究家として、幾つかの新聞に記事を掲載。

フランス語圏の日刊紙「ル・タン( Le Temps ) 」の日曜版には3年前から、ウイットに富むレシピー記事を掲載している。

『ア・ターブル ( à table ) 』など、4冊の料理の本を出版している。現在子どものための料理本を執筆中。

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