スイスで最高級の治療を
病気や怪我の治療が目的でスイスに来る人々が、観光産業全体の2%(9億フラン、約800億円)を占めている。その数、毎年3万人。
病院で治療を受けるほど深刻ではなくても、古代から続く温泉地で本格的に療養したり、最近人気のマッサージやスパで疲れを癒したりするためにスイスを訪れる人は毎年15万人。
2000年以上も前のローマ軍も、スイスの温泉で療養した。医療目的のために外国人が本格的にスイスを訪れ始めたのは、19世紀だ。富裕な旅行者が、「治療水」目当てに押し寄せたのだ。当時、ミネラル・ウォーターは、ありとあらゆる病気に奇跡を起こすと信じられていた。
何のご心配もいりません
さて時は移って21世紀。スイスの病院は、飛行機の中の雑誌に「優雅な雰囲気の中で安心できる手術をいたします」と広告を出す。外国人の顧客のために、通訳からビザまですべてカバーするデラックス・パッケージを提供するSwixmedという企業まである。
カバーされるのは、患者だけではない。同伴の家族や医療レポート、病院の紹介から滞在ホテル、空港の出迎えまで至れり尽くせりだ。
また、健康や美容、リラックスのために「ウェルネス・リゾート」と呼ばれる休暇を過ごす人々もいる。このような場所にはミネラル・ウォーターのお風呂やアロマ・マッサージ、美容セラピーなどが揃えられている。
エヴェリン・カウフマンさんは、最近スイスで過ごす極上のウェルネス・リゾートについての本を上梓した。この目的でスイスを訪れる層は、ドイツ語圏からの40歳から60歳の女性が多いらしい。お金も時間もあり、言葉にも不自由しないというわけか。
豪華絢爛な顧客リスト
数ある国の中で、顧客がスイスを選ぶ理由は他にもある。スイスには充実したプライベート・バンクサービスがあるし、スイスの名門寄宿舎に入れた子供に会うために来るという人や、美しい風景に癒されたい、という人もいる。単に家族の推薦があったから、という時もある。
例えばサウジアラビアの大富豪。Swixmedのジャン・ソバーニさんは振り返る。「一人のお客様に非常に満足して頂ければ、その後、600人のご家族、親戚一同の方々が続いて利用されることもありえます」。最近亡くなったサウジアラビアのファハド前国王も、スイスで治療を受けていた。
ソバーニさんによると、最近は美容整形手術や、不妊治療のために訪れるカップルも増えている。美容整形手術のためにスイスを訪れた外国人で有名なのは、最近ではイタリアのベルルスコーニ首相だろう。
でも、ちょっと心配
正直なところ、本当にまったく問題はないのだろうか。外国人の患者を診る医師たちにとっては、話はまた違うらしい。スイス主要病院協会のベアート・フーバー医師は語る。
「一番の問題点は、医療履歴が完全な形で手に入らない時があるということです。また、スイスで治療を受けるからといって、まったく非現実的な期待を持ってこられる患者さんにも、困ってしまいます」
患者と毎日話をしなければならない看護婦さんにとっても、文化の違いに悩まされることが結構あるそうだ。
swissinfo、クレア・オデア 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳
治療を受ける目的では年間3万人、療養の目的では年間15万人がスイスを訪れる。
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