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スイスのスポーツ界 ソーシャルメディアをテスト

AFP

2012年のロンドンオリンピックは、情報を広く行き渡らせるためにソーシャルメディア(Social media)を初めて活用した大会だ。スイスのスポーツ上部組織「スイス・オリンピック(Swiss Olympic)」と選手たちはこのような動きに盛り上がっているが、すべて順調に進んでいるわけではない。

今大会は、ソーシャルメディアが大規模なスポーツイベントとどうやって足並みをそろえていくのかを試すリトマス紙だ。スポンサー規定に対する選手の不満に始まり、ツイッター(Twitter)上での侮辱発言まで、さまざまな課題が表出している。

選手とのつながり

 「ツイート」、「いいね!」、 「フォロー」、「投稿」などの専門用語を知らない人々にとって、ソーシャルメディアは少々不可解な代物だ。しかし、そのような初心者が世界中の人々とつながるに当たって、ソーシャルメディアは完璧な手段といえる。

 「自分の感じていることや体験など、ソーシャルメディアで自分自身を伝えることができる」と、国際オリンピック委員会(IOC)のソーシャルメディア責任者のアレックス・ウー氏は語る。

 「選手が感じていることを知るのは、非常に大きな意義と影響がある。そしてファンと選手とのつながりを強化することができる。これがまさに我々がソーシャルメディアに求めていることだ」

 スイス・オリンピックのウェブマスターを務め、ソーシャルメディアの責任者でもあるフィリップ・フラー氏もこの考えに同意する。「まず我々はスポーツファンと選手たちをつなぎたい。『オリンピック・ファミリー』を作り、オリンピックの精神とスポーツをスポーツたらしめる感情や興奮を共有したい」

 しかしフラー氏によるとスイス・オリンピックは、人々にオリンピックの喜びを与える以上の目標を掲げている。「スポーツにおいて予防しなければならない事柄やスポーツ倫理など、スイス・オリンピックにとって重要なテーマを共有したいと考えている」

 「そして最後に、ブランド管理、評価、意識改革というテーマも忘れてはならない」とフラー氏は付け加えた。

協調的アプローチ

 スイス・オリンピックは、フェイスブック(Facebook)、ブログ(Weblog)、ユーチューブ(YouTube)、ツイッター(Twitter)でスイス選手のプロフィールと競技種目についての情報を発信している。

ロンドンオリンピックに参加しているスイスチームには、選手102人、コーチ、役員が含まれる。それら全員がオリンピックについて個人の意見や感想をソーシャルメディアに発信し、世界中の人々と自由に共有できるようになっている。

 フラー氏は、スイスチームはソーシャルメディアでもオリンピックに参加しているが、「選手と競技連盟に何をすべきか指示しなければならないため、まだうまく協調されているとはいえない」と指摘する。そのためスイス・オリンピックは、ソーシャルメディアについてIOCが作成した規定の解釈を伝えるなどのサポートを行っている。

 「スイスの各競技連盟及び大半の選手と話し合い、やっていいことといけないことを分かりやすく説明した」

IOCのガイドライン

 ソーシャルメディア、ブログ、インターネットについてIOCが発行した4ページのガイドラインによると、IOCは「オリンピック開催期間中に、出場選手及びほかの有資格者が、ウェブサイト、ツイッターなどのソーシャルメディアのプラットフォームにコメントを投稿することを奨励している」。しかしそれらのコメントは、オリンピック精神に則(のっと)り「威厳と品性を備え、下品またはわいせつな言葉や画像を含んだものであってはならない」

スイスのサッカー選手ミシェル・モルガネラは、この規定によって帰国を強制された2人目のオリンピック選手となった。スイスが2対1で韓国に敗れた後、韓国人選手に対する侮辱(ぶじょく)的なコメントをツイッターに投稿したことが原因だ。

ツイッターキャンペーン

 またソーシャルメディアは、オリンピックの後援企業についても問題になっている。IOCのスポンサー規定「ルール40」に従い、オリンピック村が開いている7月16日から8月15日までの期間、選手はソーシャルメディアの個人ページ上で、オリンピックの公式スポンサー企業以外の企業名を載せることを禁じられている。

 アディダス(Adidas)が今大会の公式スポンサーを務めていることから、スイステニス界のスター、ロジャー・フェデラーは、スポーツシューズメーカーのナイキ(Nike)の社名や製品の画像を、フェイスブック上の個人ページに掲示してはならないことになる(フェイスブックで1100万人以上が、フェデラーのページに「いいね!」ボタンをクリックしている)。

 IOCのスポンサー規定は、アディダス、コカコーラ(Coca-Cola)、マクドナルド(McDonald’s)などの主要スポンサー11社を保護するものだが、選手たちは、自身の競技活動と生活を支えている、重要なスポンサーの名前を個人ページに載せられないことに対し憤っている。

 この結果、アメリカの陸上競技選手がルール40の緩和を求めるツイッターキャンペーンを立ち上げた。アメリカでは、陸上競技選手のトレーニングに政府が補助金を支給することはない。しかしこのキャンペーンは徒労に終わった。IOCのとある広報担当者は、なぜこの規定が作られたか「大勢の」選手は理解しているはずだと述べた。

 スイスには、フェデラーほど人気のあるアスリートはほとんどいないため、ソーシャルメディアがスポンサー獲得に寄与することはあまりない。スイス人の体操選手ジュリア・シュタイングルーバーは、2012年にフェイスブックの公式ページを作成したところ、「いいね!」ボタンが1020回クリックされた。これを個人総合優勝したアメリカ人の体操選手ガブリエル・ダグラスのフェイスブックのページと比較してみよう。ダグラスの公式ページで「いいね!」ボタンがクリックされたのは46万9398回。さらに、彼女のツイッターのフォロワーは約52万488人にも及ぶ。

ファン

 ソーシャルメディア使用の主要目的として、スイス人選手が挙げているのは、自分たち選手の評価の向上とファン獲得の二つだ。

 「我々はバンクーバーオリンピックからソーシャルメディアの使用を始めたが、今回はより大規模だ」とフラー氏は語る。「多数の選手が書き込みや投稿をしている」

ソーシャルメディアを媒介とした情報の共有は、オリンピックの開会式が始まる前にすでにスタートした。スイスのマラソン選手ヴィクター・ロトリンは、交通渋滞に巻き込まれた自分の写真をフェイスブックに投稿し、「空港からオリンピック村まで4時間かかった。交通事情の改善が望まれる!」とコメント。これに対し、ファンから「8月12日のマラソンコース(の渋滞)が、そんなにひどくならないよう祈ろう」という返信があった。

 勝利や敗北を共有する選手もいる。「やった!第1次リーグの試合で中国に勝った。みんな興奮している。一緒に盛り上がろう」とビーチバレーのサシャ・ハイヤーとセバスチャン・シュヴァリエ選手。

 競泳200メートル自由形で決勝進出を果たせなかったドミニク・メイヒトリーは「厳しい時は(いつまでも)続かない…..タフな人間は生き残る!」とツイートした。

 自転車競技のファビアン・カンチェラーラ選手は、250キロメートルロードレースの最後15キロメートルのカーブで曲がりきれずにバリアに激突した。その後「衝突した後も驚くほどたくさんのサポートと励ましのツイートをありがとう。おかげで不運の後も前向きでいられる」と発信。

 今回のロンドン大会は、オリンピック史上初の「ソーシャルメディア大会」とメディアは大々的に宣伝しているが、「優先されるべきは常に実際に行われる競技であり、焦点はメディアではなくスポーツイベントだ」とビーチバレーのスイスチームのリーダー、フィリップ・ザクサー氏は強調した。

ツイート:情報・コミュニケーションサービスのツイッター(Twitter)へ書き込みを投稿すること、または投稿されたメッセージ。

いいね!:フェイスブックの利用者が気に入った情報・コメントなどをフェイスブック上で共有・記録できる機能。

フォロー:主にツイッターにおいて、ほかのユーザーのツイートを受信できるよう登録すること、またはツイートを受信している状態。

ウェブマスター:ウェブサイトの編集・製作を始めとし、それに付随する関連業務を行う統括責任者。

「スイス・オリンピック(Swiss Olympic)」は、2万のクラブと160万人のメンバーを統括する83の競技連盟から成り立っているが、2012年のロンドンオリンピックにスイス代表として出場資格を持つアスリートはわずか102人しかいない。スイス・オリンピックは、ロジャー・フェデラーのテニスラケットや、体操選手ジュリア・シュタイングルーバーのスポーツウェアなど、大会開催中にスイス選手が身に着けていたアイテム約40点を競売するオークションを開催した。オークションで集まった売上金は、「スイス・スポーツ支援基金(Stiftung Schweizer Sporthife)」に託され、スイスのスポーツ振興のために使われる。

スイス館(The House of Switzerland)は、2012年ロンドンオリンピックで一般公開している数少ない国営ゲストハウス。今大会開催国のイギリス及び世界各国からの観戦者を幅広く受け入れている。官民パートナーシップのプロジェクトとして発足し、公式スポンサーとなったスイスの民間企業各社の関係を密接にするために企画された。

(英語からの翻訳、笠原浩美)

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