スイス最大のフィットネスクラブは森の中に
スイス人にとって森は特別な存在。林道に沿って作られたアスレチックコース「ヴィータ・パークール ( Vita Parcours )」へ行くことは余暇の楽しみの一つだ。
森のアスレチックコースは1960年代に初めて作られた。以来、このアイデアは世界に広がった。
スイス人の約13%は夏の間、散歩やほかの活動のために毎日森に足を運ぶ。自然はスイス人の余暇活動において重要な役割を果たしている。
特にヴィータ・パークールはスイス人のお気に入り。ここでは、体力、耐久力、敏捷性などを鍛えるためにさまざまなトレーニング器具が設置されている。スイス全土にはこうしたアスレチックコースが約500カ所ある。
森のアスレチックはスイスが発案
最初のヴィータ・パークール開設は1968年。チューリヒのヴォリスホーフェン ( Wollishofen ) にある男性体操グループが地方自治体に提案したことがきっかけだった。
もともとこのグループは、森に倒れている木の幹や切り株など、自然の障害物を利用してトレーニングをしていた。しかし、森は定期的に手入れが行われていたため、体操グループは自然の「体操器具」を見つけられなくなった。そこで、地方自治体に自然の障害物がある林道を設け、住民が常時利用できるようにするよう申し立てたのだ。
地方自治体はこの提案を採用。計画の実現に欠かせないスポンサーとして「ヴィータ保険 ( 現チューリヒ保険 )」 も見つけた。アスレチックコースは保険会社の名称からヴィータ・パークールと名付けられた。また、当時著名だった連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ/EPFZ ) のチャーリー・シュナイダー教授が学術的な見地から助言し、プロジェクトに協力した。
「ヴィータ保険は当初からヴォリスホーフェンだけでなく、スイスの至る所にヴィータ・パークールを作ろうと計画していた」
と1994年に創設されたヴィータ・パークール財団の代表、ジョゼフ・ベヒラー氏は当時を振り返る。
ブーム到来
地域的な実験として作られた小規模のアスレチックコースはブームになり、またたく間にスイス全土に広がった。
「1個の雪の玉が雪崩になるがごとく、スイス全土にヴィータ・パークールが完成した」
とベヒラー氏は回想する。
当初、スポーツ選手のトレーニングのために考案されたヴィータ・パークールだったが、1972年には子どもがいる家族やあまりスポーツをしない人たちにも対象が広げられた。その結果、開設からわずか5年後の1973年には、スイス全土100カ所に作られるまでになった。
1970年代から1980年代まで、ヴィータ・パークールは雨後のタケノコのごとく、至る所に誕生した。1990年、その数はスイス全土でついに500に上り、今日では501を数える。また、スイスを模範として、外国にもヴィータ・パークールが広がった。現在、世界における総計は約2500に上る。
「隣国にもヴィータ・パークールが多数ある。特にドイツに多い。時折、南アフリカ、カナダ、アメリカ、オーストラリアなど遠い国からも問い合わせがあるが、そんなときは大抵、現地にすむスイス人が関わっている。彼らは森の中でアスレチックを楽しむという故郷のアイデアを新しい土地でも実現したいのだ。そうした際、われわれはノウハウを提供し、トレーニング方法を説明する看板も仕入れ価格で販売している」
とベヒラー氏は海外ブームの経緯を語る。
維持費は地域の組織で
スイス全土のヴィータ・パークールの開発や改良はすべてヴィータ・パークール財団が取り仕切っている。しかし、ヴィータ・パークールの維持は、スポーツ協会、地方自治体、観光連盟といった地域の各機関による援助がなければ不可能だ。
アスレチック器具の設置、林道の整備が完了した後は、各地方の組織がヴィータ・パークールの維持や点検を行わなければならない。
「年間維持費は規模や場所によって異なるが、およそ1000フラン ( 9万円 ) から2000フラン ( 18万円 ) 。これは特定の器具の修理や総体的な維持のために費やされる」
とベヒラー氏は語る。
ハードからソフトに
ヴィータ・パークールは明らかなサクセスストーリーだ。しかし、ときどき全てのトレーニングが実際に健康に役立つわけではないと批判されることもある。
「実際、1980年代後半までは一般の人には難しいトレーニングコースがあった」
とベヒラー氏は認める。
しかし現在、それらは難易度が低いトレーニングコースに改良されている。43年間の歴史の中でヴィータ・パークールの概念は何度も改められた。利用者、その要求、スポーツ科学における認識も変化したからだ。
「1998年以来、マッグリンゲン連邦体育大学 ( Eidgenössischen Hochschule für Sport in Magglingen ) と共同で研究を行っている。われわれのアスレチックコースは最新の科学に添ったもの。プロのサッカーチームも利用している」
現状維持
ランプレヒト&シュタム研究所 ( Instituts Lamprecht & Stamm ) によると、地域住民の1割がヴィータ・パークールを利用している。これに対しベヒラー氏は
「この調査結果は過大評価気味かもしれない。実際は住民の5%から7%というところではないだろうか」
と感想を述べる。
現在、ヴィータ・パークールのさらなる拡大計画は予定されていない。スイス全土に広がる500カ所のアスレチックコースは充分な数で、各地域にほどよく分散されているからだ。
また、最近は自然の中でのアクティビティが多様化している。しかしベヒラー氏は競合相手については語りたくないという。
「人々が体を動かすことができれば何も言うことはない」
現在、アスレチックコース、「ヴィータ・パークール ( Vita Parcours )」はスイス全土に501カ所ある。うち7割がドイツ語・レトロマンシュ語圏 ( リヒテンシュタイン公国も含む ) 、23%がランス語圏、7%がイタリア語圏にある。
コースの全長は平均2.3km、中度傾斜 ( 勾配5% ) の上り坂が59m含まれる。上り坂のエネルギー消費量を考慮して水平距離に換算すると、2.9kmになる。
通常、15カ所のアスレチックポイントがあり、トレーニングの種類や方法を色で識別している ( 青色-耐久力、黄色-機敏性、赤色-体力 )。
トレーニング内容はヴィータ・パークール財団のホームページからダウンロードできる。
1998年、チューリヒ保険はスイスにある500カ所のヴィータ・パークールの援助義務期間を延長した。ヴィータ・パークール財団はマッグリンゲン連邦体育大学 ( Eidgenössischen Hochschule für Sport in Magglingen )と共同研究を行っている。
ヴィータ・パークールのアイデアは外国にも広まり、各国に多数作られている。国別ヴィータ・パークールの概算 :ドイツ ( 1500 )、フランス( 500 )、オーストリア ( 100 )、ベルギー ( 50~60 )、オランダ ( 50~60 )、イタリア ( 200 )。
ほぼ全てのスイス国民は森林から近距離の所に住んでいる。森林管理協会 ( Arbeitsgemeinschaft für den Wald ) の調査によると居住地から森林までの平均所要時間は19分。スイス人の多くがリラックスするために森林を訪れる。夏季は全国民の13%が、冬季は9%が毎日森林に出掛けるが、その傾向は地域によって差異がある。例としてルガーノ州で冬に森に出掛ける人の割合は2~3%とわずかだ。
スイス人と森林の関係はドイツ人のそれと類似している。ドイツ人の48%が少なくとも月に1度は森林を訪れる。スイスにおけるその割合は夏季は34%、冬季は29%。
森林の主なアクティビティ: 犬の散歩、自然観察、乗馬、散歩、ジョギング、サイクリング、リラックスする、子どもと遊ぶ、パーティをする。( 情報提供: 森林管理協会 )
( 独語からの翻訳、白崎泰子 )
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