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あなたの知らないインターラーケン~全天候、旅は楽しむべし編

ニーダーホルンより撮影。雲の合間からアイガーが顔を覗かせていた。穏やかな太陽に時折そよぐ風…絶好のハイキング日和だった swissinfo.ch

観光の良し悪しは、当日の天気に少なからず左右される。風光明媚と謳われている土地にお金と時間をかけてはるばるやって来たのに、悪天候ゆえ期待していた景色が見えなくてがっかり…誰しもそんな経験がないだろうか。

 実は、インターラーケンに赴く前に、「雨天」「荒天」も十分有り得ると心積もりして、いかなる天候でも楽しめる場所にも行ってみたいと、Mさんにリクエストしていた。ところが、私の悲観は幸運にも取り越し苦労に終わり、滞在中は連日晴天続き。この上なく美しい秋の散歩を満喫することができた。

 滞在2日目も、抜けるような青空が頭上に広がっていた。これほどの好日に山に登らずして、一体どこに行こうというのか。

 取材を兼ねているとはいえ、久しぶりに会う友人と楽しく旅することが第一。よって、登山列車やロープウェイに乗るための長蛇の列や車内の席取り合戦を避け、大人数の団体客をあまり見かけないニーダーホルン(Niederhorn、標高1950m)を選んだ。

 まず、ベアテンベルク(Beatenberg)村からロープウェイに乗った。このロープウェイは、インターラーケンから車で30分ほど山を上ったところから出ている。ベアテンベルクはトゥーン湖畔から山の上に伸びるように形成されている村で、その高低差は最大1500mにもなる。

 ロープウェイは3基が数珠繋ぎになったまま運行し、往復とも、「フォルザス(Vorsass)」という駅で数分間停まる。私達は頂上までロープウェイで登った。

 朝一番のニーダーホルン頂上は家族連れや小さなグループがちらほらいるぐらいで、私達は360度の絶景を心ゆくまで楽しむことができた。正面にそびえる名山のうち、ユングフラウはなかなかその優美な姿を見せてくれず、この日はメンヒも雲隠れ。しかし、幸運にもぽっかり顔を出したアイガーを拝むことができた。

 アイガーといえば、ドイツ映画「アイガー北壁」で生々しく描かれた登山隊の悲劇があまりにも強烈であった。壮絶な場面を思い起こしながら遠目に見るかつての「魔の山」は、ただただ幻想的で美しく、単なるハイキング愛好者の私には、とても近づけそうもない神々しさだった。

下山途中も標高ごとに移り変わる自然の美に見惚れてしまうが、足元には十分注意のこと swissinfo.ch

 下山途中、M子さん手作りのおにぎりをいただいた。パノラマ状に広がる山々を眺めながら頬張るおにぎりは、格別の味わいだった。

 下山道はそれほど厳しくないが、大小の石が転がっており、ウォーキングシューズよりも登山靴をお勧めする。大自然というキャンバス内に描かれた緑の木々と青空の、絶妙なコントラストに見入りながらも、足元には十分な注意が必要だった。

ペダルのない自転車のような乗り物、トロッティ(Trotti)での下山も可。専用道を通る。ヘルメット込みで、最大2時間まで12スイスフラン(2015年12月現在)でレンタルしてくれる swissinfo.ch

 午後からは「もしも雨天だったら」シリーズ。ニーダーホルンからの下山後、ベアテンベルクロープウェイ駅のすぐ横から出ているインターラーケン西駅(Interlaken West)行きのバスに乗り、アーレ(Aare)川を渡る直前の停留所で降りた。ここが、この川を挟んでインターラーケンと隣接する町、ウンターゼーン(Unterseen)である。

ウンターゼーン旧市街にある教会。1471年に最初の建物が建築されたが1647年に火事に見舞われた。その後、再建・拡張されたが、19世紀半ばに雪の重みによる屋根の落下事故で一部が崩壊。現在の建物は初期のゴシック建築による教会を再現したものである swissinfo.ch
スイスで唯一の観光博物館。250年に及ぶユングフラウ地方観光史、地域の変遷が学べる swissinfo.ch

 インターラーケンに比べると人も少なく、閑静な旧市街に、中世の趣を残す教会の尖塔が青空に映えていた。天候がどうであれ、この町でのお勧めは、ユングフラウ地方観光博物館(Touristik-Museum der Jungfrau-Region)である。

 博物館の建物の間口は狭いが、展示は盛りだくさんで見応えがある。1階から3階まで、ユングフラウ地方の観光の発展の歴史が、展示物や説明のパネルと共に詳しく学べるようになっている。

 実際に使用されていた乗り物や器具など、1つ1つ見ていくと、ハイテク技術がない当時でも、人々がこの地方での観光やスポーツをいかに楽しんでいたかが窺える。

 4階は特別展専用の屋根裏部屋だった。私達が訪れた時は、ノーベル平和賞受賞者で20世紀を代表するヒューマニスト、アルベルト・シュヴァイツァー博士に関する展示を見られ、非常に得した気分になった。

古式ゆかしいスキーリフト swissinfo.ch

 ウンターゼーンからインターラーケンまでの帰途は、できれば少し遠回りしてアーレ川沿いを歩いていただきたい。

 美しい緑色の川面をのどかに漂う愛らしい水鳥達を眺めたり、間近にそびえる山、ハルダークルム(Harder Kulm)の山肌の移り変わりを見上げたりしながら歩いていると、地図上では遠く感じても、あっという間に市街地に出てしまう。Mさんが愛犬を連れて散歩するコースの1つらしいが、なるほど、何度でも歩きたくなる清々しさだ。

水門を兼ねた橋。アーレ川の人工の中洲とインターラーケンを結ぶ。Mさんの話によれば、2005年夏の大洪水の際、この水門には濁流が押し寄せ、まったく役に立たなくなったそうだ。背後の山がハルダー・クルム swissinfo.ch

 翌日は、遂にインターラーケン滞在最終日。この日も非の打ち所のない晴天だったが、「雨天でも楽しめる」観光地、聖ベアトゥス洞窟を敢えて選んだ。廃墟マニアであると同時に洞窟マニアでもある私の、最後のリクエストである。

トゥーン湖の傍から見上げると、聖ベアトゥス洞窟は遥か上方。崖の中にぽっかり空いた穴から入る swissinfo.ch

 インターラーケン・オスト(Interlaken Ost)もしくはインターラーケン・ヴェスト(Interlaken West)駅から最寄りの停留所ベアトゥスヘーレン(Beatushöhlen)まで21番のバスで行ける。バス停は前日と同じベアテンベルク村内だが、山の上ではなく、トゥーン湖畔の幹線道路沿いにある。

 バスを降りてからは、8~10分ほど急な坂道を上る。道も洞窟内も良く整備されているが、階段が多い。ホームページによれば、残念ながら車椅子、ベビーカー使用での入洞はできないそうだ。

 温度は年間を通して8~10℃で湿気はほぼ95%。季節を問わず上着が必要である。

 伝説によれば、キリスト教を布教しながら旅をしていたアイルランドの修道僧ベアトゥスと弟子ジュストゥス(Justus)が、この地にたどり着き、洞窟内に棲んでいた凶暴な竜を追い出してここを住まいとしたという。

 洞窟は、ドイツ語・英語併用ガイドツアーもしくは個人でも歩くことができる。探検隊によって発見された部分だけでも全長14kmに及ぶが、一般の観光客が訪問できる通路は合計で826m。公式ホームページでは、ツアーでの所要時間は約75分とあった。

 悠久の時間が織り成した様々な形状や彩りの鍾乳石を写真に収め、これでもかと繰り広げられる神秘の光景に驚嘆の声を上げながらゆっくり歩いていた私達は、見学を終えるまでに2時間もかかってしまった。

鏡の洞穴(Spiegel Grotte)。数多くの名所を写真に収めたのに、たった1枚しかお見せできず誠に残念…だが、百聞は一見にしかず!インターラーケン訪問の際は、少しだけ足を伸ばし、是非この洞窟にもお立ち寄りいただきたい swissinfo.ch

 Mさんのお蔭で、3日間インターラーケンとベルナーオーバーラント地方を満喫し、2回にわたる記事内に収め切れないほど多くの名所・旧跡を回ることができた。私の様々なリクエストに応え、各地を快くご案内下さったMさんに、厚く御礼申し上げます。

 数多くの人々のご協力により、2011年9月より続けてまいりました私のブログ投稿は、今回をもって終了させていただきます。執筆を通じ、あらためてスイスという国の美しさや文化・歴史を見つめ直し、多分野において知識を深められたこと、この上なく幸せに思います。

 最後になりましたが、読者の皆様、このブログに関わるすべての方々、どうもありがとうございました。

マルキ明子

大阪生まれ。イギリス語学留学を経て1993年よりスイス・ジュラ州ポラントリュイ市に在住。スイス人の夫と二人の娘の、四人家族。ポラントリュイガイド協会所属。2003年以降、「ラ・ヴィ・アン・ローズ」など、ジュラを舞台にした小説三作を発表し、執筆活動を始める。趣味は読書、音楽鑑賞。


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