チューリヒのランドマーク「グロスミュンスター」をいろんな角度から眺めてみた
チューリヒには見逃せない観光スポットがいくつもある。そのうちの一つが、町の至る所から眺められる、ツインの塔を持つグロスミュンスター(大聖堂Grossmünster)だ。聖ペーター教会(Kirche St.Peter)、フラウミュンスター(聖母聖堂Fraumünster)と並び、チューリヒのランドマーク的な存在となっている。
今回はチューリヒを代表するグロスミュンスターについて、ガイドブックには掲載されていない部分を含め、筆者の視点でご紹介してみよう。
グロスミュンスターはプロテスタントの教会で、聖堂内はロマネスク様式で形成されている。13世紀から14世紀の間にかけて建設された。高くそびえる2本の塔は15世紀に建立された後に1度火災で焼失し、18世紀に再建された。
同じくチューリヒの町のシンボルでもあるフラウミュンスターは、リマト川を挟んで向かい合うように建っている。
16世紀にスイスでも行われた宗教改革の際には、チューリヒではフルドリッヒ・ツヴィングリ(Huldrych Zwingli)によって、グロスミュンスターを中心に改革が広められた。
この聖堂とその周りには、数々の逸話と共に、怪談ともいえる伝説が残る。その中の一つが聖者にまつわる、ちょっとゾッとしてしまう話だ。
西暦3世紀、フェリックスとレグラの二人の聖者(三人の聖者という説もあり)が、ローマの神々を崇拝する事を拒み裁判にかけられた末、現在のヴァッサーキルヒェ(Wasserkirche=水の教会)が建てられている場所にて、斬首刑となった。
その場に放置された首の無い死体は、やがてむっくりと起き上がって、血まみれとなった自分達の頭を拾い、埋葬されたい場所まで、自ら抱えて歩いて行ったのだという。
その地こそが、現在グロスミュンスターが建つ場所なのだと伝えられている。ヴァッサーキルヒェは、グロスミュンスターと道路を隔ててちょうど向かい側にある。
以前に受講した、市が提供している、チューリヒ生活クラスの講義で聴いた話では、市民が利用するリサイクルボックスを設置する工事のため、数年前にグロスミュンスターの裏手の土地を掘り起こした際、周辺の石畳の下から、人骨がいくつも発掘されたのだそうだ。
遠い昔には、お墓というものが庶民の間では整備されておらず、当時の人々によって、教会の近くに埋められたのであろうと推測される。今も生々しく記憶に残る逸話だ。
さて、話を現在に戻そう。ある晴れた夏の日に、久しぶりにグロスミュンスターを訪れ、聖堂内を見学した後、塔の上まで登ってみた。
まずは1階の祭壇後方に飾られている、スイス人芸術家のアウグスト・ジャコメッティ(Augusto Giacometti)が手がけた美しいステンドグラスに目を引かれる。
温もりが感じられる色彩豊かな新しいステンドグラスは、ドイツの芸術家ジグマー・ポルケ(Sigmar Polke)氏の手による。2006年のデザインコンペで選ばれたものだ。聖堂内を彩る12枚のステンドグラスは、2009年より公開されている。
礼拝が行われる聖堂内部は写真撮影が禁止されているため、ステンドグラスについては、実際の画像で詳しくご紹介する事ができず残念だ。
グロスミュンスターの二つの塔のうち、カールの塔(Karlsturm)は、有料で開放されている。 塔の上からはチューリヒ市街と、天気の良い日には、遠くのアルプスの山々まで見渡す事ができる。
カールの塔という名称は、カール大帝にちなんで名付けられたのだそうだ。存在感あふれるカール大帝の古い石像は、地下聖堂に飾られている。
1階の奥手で4フラン(約420円)を支払い、187段の狭い階段を上って行く。上へと上るにつれ、ところどころに木の階段も現れるのだが、上り始めは人が1人ようやく通れる程の狭い石段が続く。
歴史が刻まれた石の階段は、ツルツルと滑り、気をつけないと足を踏み外しそうになってしまう。特に下りはちょっと怖い。
木の階段部分まで上って行くと、ごつごつとむき出しになった建物内部の木組みが目の前に現れる。
塔のてっぺんが近づくと、階段と階段の間にはところどころにスペースが作られ、宗教的な展示物や絵画のほか、過去から現在までの聖堂の歴史とチューリヒの町の変遷なども紹介されている。途中、聖堂内のステンドグラスの写真も展示されていた。
ようやく塔の上へと辿り着いた。窓の外にはもう一方の塔が間近に迫り、近くで見ると迫力満点だ!四方の窓からは、チューリヒの町をあらゆる角度から一望できる。
町の中心を流れるリマト川、聖ペーター教会とフラウミュンスターも目の前だ。別の窓からはチューリヒ湖、反対側にはチューリヒ大学と、高台にある住宅地も見渡せる。こんなにあらゆる角度から町の中心を一望できる場所は、なかなか思い当らない。
しばし塔の上から町の景色を堪能し、下まで降りてみると、ちょうど外国からの観光客の見学ツアーが開催されているところであった。
英語ガイドの説明に真剣に聴き入る、米国人を中心としたツアー客で、入り口付近が賑やかだ。
世界各地でのテロへ懸念、現在の世情が関係し、スイスを含め欧州を旅する人々が減少を辿っている中、米国からの宿泊客数は前年と比較すると、4万4千人も増えているのだという。
グロスミュンスターといえば、聖堂2階部分に設置されているパイプオルガンも必見だ。現在のオルガンはチューリヒのメッツラー社(Metzler) 製で、1960年より深みのある音色が奏でられている。
聖堂内では、しばしば若手を中心とした奏者の、無料オルガンコンサートも開催される。
別の日に、日本人のオルガン奏者がこの聖堂でオルガンを弾くと情報を得、演奏会に出かけてみた。その日行われたミニ演奏会は、彼女が通っていた音楽学校の卒業試験も兼ねていた。
1階の後方では、厳しい顔で採点をする審査委員らしき人達の姿もうかがえた。聖堂内に響き渡る、美しく迫力のあるオルガンの音色に聴き入っていると、厳粛な気持ちになる。
無事に卒業試験にも合格した、才能あふれるこの日本人の音楽家については、また別の機会にゆっくりとご紹介する事にしよう!
普段は町を歩きながら、何気なく目にしていたグロスミュンスターは、あらゆる角度から眺めてみると、また新しい発見がある事に気付かされた。
スミス 香
福岡生まれの福岡育ち。都内の大学へ進学、その後就職し、以降は東京で過ごす。スイス在住13年目。最初の2年間をバーゼルで過ごし、その後は転居して、現在は同じドイツ語圏のチューリヒ州で、日本文化をこよなく愛する英国人の夫と二人暮らし。日本・スイス・英国と3つの文化に囲まれながら、スイスでの生活は現在でもカルチャーショックを感じる日々。趣味は野球観戦、旅行、食べ歩き、美味しいワインを楽しむ事。自身では2009年より、美しいスイスの自然と季節の移り変わり、人々の生活風景を綴る、個人のブログ「スイスの街角から」をチューリヒ湖畔より更新中。
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