ラ・デザルプ スイス牧下り
夏の間を山で過ごした牛たちが山を下りる日をフランス語で「ラ・デザルプ(La désalpe)」という。文字通り、アルプスを後にする牧下りの日だ。中でも特に美しいと言われる フリブール州、シャルメーの牧下りを見物した。
フリブール駅からバスに乗ってシャルメーに着くと、オーガナイザーである村人が見物客にパンフレットを配っている。何時に誰の牛たちが村の中心に到着するのかをリストアップした牧下りの時刻表だ。予定通り最初の群れが9時半にやって来た。
きれいに体を洗ってもらい、晴れ着代わりの飾りをつけた牛たちが 続々とアルプスを下ってくる。 牧夫達も伝統衣装を着こんで誇らしげに歩いてくる。スイス人は伝統衣装を普段着のように自然に着こなす。日本人が着物を着てぎこちなく見えるのと対照的だ。
群れの最後は牧夫の家財道具を積んだ馬車が締めくくる。馬車に赤い敷布が掛けられていると、その牧夫は借金を全て返済し、独立した事業主であることを示しているそうだ。
ところで、人間達は楽しそうだが、牛たちはいったいどんなことを考えているのだろう?広く伸び伸びとした牧草地から村の狭い牛小屋に帰る日は、牛たちにとっては夏休み最後の日。嬉しいよりセツナイのではないだろうか。 牛たちの表情を追ってみた。シャルメーのラ・デザルプは村人が盛り上げる。牧下り以外にもアルペンホルン・コンサートや名産品の屋台をたくさん出して、手作りのおもてなしで見物人を楽しませてくれる。観光客を巻き込んで、自分たちも存分に楽しむのが彼らの流儀のようだ。
アルプス山脈に続く小高い山地、プレ・アルプが美しいこの地方は、グリュイエール・チーズで有名だ。中でも牧草地で手作りされたグリュイエール・ダルパージュは絶品。スイスの白ワインにとても合う。チーズとワイン、それだけで極楽である。
昔に読んだ犬養道子 著「私のスイス」にフリブール、グリュイエール地方のプレ・アルプこそ、日本人が思い描くスイスのイメージだとあった。実際、晴れ上がった空の下、アルペンホルンに耳を傾けていると、我知らずハイジを探している私がいた。
麓絵里(ふもとえり)
大阪生まれ、奈良育ち。1990年よりスイス在住。証券会社、新聞社、製薬会社勤務を経て現在、創造性や生涯学習コミュニティーを育てるコーチ、ファシリテーター。コーチング・メンタリング修士(Oxford Brookes University)、英国Time to Think 社 公認コーチ・ファシリテーター、 PMP (Project Management Professional)
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